かきね

粥川 鶏市

イチョウ

  「どうもご苦労様です。これどうぞ・・・」


 「あ、いつもすいません。親方~建て主さんからまたいただきました~」


 「そんなしょっちゅう来てもらわなくて大丈夫ですよ。ちゃんと仕事しますから」親方はそう言って笑った。


確かに周りから、頻繁ひんぱんに顔出してないといい加減な事されるよとは言われていたが、そんな心配はしていなかった。


親方はたぶん60代だろう、頑固おやじという感じでもなく、普通に人当たりのいいおじさんだ。


もう一人の若い子は30歳そこそこで、しかも女性だった。


パンと張った作業着の下のお尻が格好いい。


もしかしたら、女性の職人というのも今は珍しくはないのかもしれないが、多分親方の娘だろうと勝手に思っていた。


そうやって、大工さんだけじゃなく下職したしょくさんにも、差し入れを持っていったりすると、まだ建設中だからもちろん引っ越し前にもかかわらず、代わるがわる近所の人がやってきては、


 「いや、いい家が出来て」だの


 「子供はいないのか」だの、ちょっとうるさいぐらい。


田舎特有の疎外感そがいかんとかを気にしていた私にとっては、温かくてありがたかったがその中で。


以前にこの場所に住んでいたおばあちゃんの事を、多くの人が教えてくれた。


かなり難しい人だったらしく、周りの家とよく問題を起こしていたらしい。


とりあえず、良く言う人には当たらなかった。


そのおばあちゃんが、施設に入所するタイミングで、住む人間のいなくなった農家の、大きな古い家を取り壊して更地にし、4つに分筆ぶんぴつしたうえで売りに出したのだった。


これは不動産屋に聞いていた話で、土地の引き渡し時には、おばあちゃんの長男に当たる人と、不動産屋仲介の元、実際にあって契約を交わしたが、全く嫌なところのない常識的な人だった。


約100坪で600万と、その辺りの相場としてはかなり高かった。


ここの自治体のルールが良く解らないのだが、市の外から入ってくる人間が、土地を買って家を建てる場合と、市内に10年以上の居住実績がない人の場合、初めから家があった場所にしか、新しく家を建てられない。


正しくは、建物の玄関があった場所を含む土地にしか、家を建てられない。


そしてそこだけが他の3か所に比べ、倍ほどの値段がついている。


L型の土地の長手側が、南に向いていて東側が奥に長い。


L字の丁度曲がった部分が、私たち夫婦が買った土地だった。


周りは殆ど田んぼと畑で、それでも古くからいる人と、新しく来た人が半々ぐらいで、想像するよりは気を使わなくていい環境。


初めて更になった土地を見に行った時、うちが買った土地とその北側の土地の間に、垣根が残されていた。


垣根はイチョウで珍しいなと思ったが、聞いてみるとイチョウの垣根は無い事もないらしい。


成長が早いから手入れが大変で、こだわりのある人以外はしないし、勧めもしないという感じらしい。


最近だとゴールドクレストがそんな感じ。


綺麗だからやりたがる人が多いけど、きちんと管理が出来ない人には薦めない。


逆にゴールドクレストを薦めてくる植木屋がいたら、他に相談した方がいい。



 子供のころからず~っとアパート暮らしだったから、地面に住んでしかも庭があるというのが希望だった。


町場なら、100坪という土地は結構な広さだが、この辺りの古い住人の家は、農家が多いからもあるが、300坪とか500坪とか当たり前。


だから家の、というか土地の広さで、古い家か後から来た家かは分かる。


ほんの小さな土地ではあるけど、庭を持ちたいという希望には十分過ぎた。


南には道路を挟んで畑の向こうに小高い丘?山?があって、でも土地に影を作るほどでもなく、窮屈に感じることもなく丁度いい。


南が畑だから、ここに建物が立つこともない。


すーっとこの日当たりが自分のものなのだ。


だから外構がいこうをどうするかの相談をした時。


 「せっかく開けた土地なのに塀を作るなんてもったいない」と言うと、田舎の人の考えは違うらしく、自分の家は塀か垣根で囲うのが当たり前らしい。


そこで初めて気が付いた。


例のイチョウの垣根は、隣の北側の土地を買った人が、敢えて残したものなんだと勝手に考えていたが、外構をやる段階になって、初めて自分の買った土地の中にあることが分かった。


不動産屋にも工務店にも確認したが、なぜそれが残される事になったのかの理由は、確認できなかった。


知ってはいても敢えて教えない、という感じでもなかった。


 「もしあれでしたら撤去しますけど・・・」と工務店には言われたがどうしたものか、旦那と二人で悩んだ。


もともと北側に家が出来る時には、何らかの目隠しは必要だろうと思ってはいたが、普通それは南の開口をこちらに向けている家のものが、考えることの様な気がする。


改めてイチョウの垣根を見ると、太い枝が無理にバッサリと切られてるような感じで、所々にその切り口が見えている。


きれいに四角く刈り揃えられた垣根。


下の方で根が露出していて、それも枝に合わせて真っ直ぐに切ってある。


それが自分の何処かの組織に巣食った寄生虫のようで気味が悪い。


下から皮膚を撫でられるような感じ。 


私はすぐにも無くしたかったが、旦那は違ったようだ。


 「なんか理由があって残してあるんだろ。なんかのおまじないかもしれないし・・・」おまじない・・・それはそれで気味が悪いけど。


 「塀は造らなくても大丈夫だけど、最低限周りは囲わないとだめですよ、土が流れないように」外構の職人が言った。


よっぽど広い土地の真ん中に作るなら別だが、一般的な住宅を作るなら、周りをコンクリートで固めなければならないらしい。


とくに建物と敷地の端が近い所は、ちゃんとしておかないと、将来的に建物に不具合が出るかもしれない。


基礎から傾いたり、外壁にひびが入ったり・・・


そう言われて、僅かの高さの擁壁ようへきを造った。


そして出来上がった時におかしなことに気が付いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る