図書室で紡ぐ創作物語。

孤高の人

第1話 俺TEEEの可能性は無限大

 俺、霧島レイにはとある習慣と言うものがある。それは、放課後に図書室に行く事だ。

 と言っても、別に本を読みに行く訳ではない、たまに読むかもしれないが、それは本題ではないのだ。

 では、何をするのかと言うと……

 「あら、今日は遅かったわね。」

 窓から入り込む風が綺麗な黒髪を揺らす、引き込まれるほどに黒い瞳は入り込む日差しを反射して煌めく。息を呑むほど美しい少女が一人、図書室に座っていた。

 柳原葛葉やなぎはら くずは、この学校一と言われる美少女である。

 「それで、今日もするのでしょうね。」

 切れ長の目元を細め、こちらを見る。

 「まあ、約束だからな。」

 俺はカバンからとあるノートを取り出す。

 「では、始めるとしましょうか。」

 葛葉もノートとペンを取り出す。ノートには、びっしりとキャラや物語のプロットが並んでいる。

 「物語作りを!」

 これは、ただの帰宅部である俺と、学校一の美少女が物語を作るだけのお話である。

 

 ◇◆◇◆◇◆


 この様になったきっかけは、数ヶ月前。

 入学式が終わり、クラス全体が慣れ始めた時期の事である。

 高校の端にある図書室近くの廊下で、葛葉がソワソワとしながら何かを抱いて歩いている姿を見かけた。

 すれ違った際に、何かメモの様なものが落ちるのがみえた。それを拾って見ると、キャラクターのイラストと設定がびっしりと書かれていた。

 「なんだこれ?」

 なぜ彼女がこんな物を?そんな事を考えていると、こちらに気づいた葛葉が顔を真っ赤にして唇をワナワナと震わせていた。

 「……えーと、綺麗な絵ですね。」

 瞬間、がんっ!と言う音と共に、俺は壁際まで寄せられていた。

 「貴方、見たわね?」

 その目はどこまでも冷たく、睨まれただけで凍えてしまいそうだった。こんな綺麗な顔が近くにあるのに、そのドキドキは恐怖から来る物だった。

 ーー消される……

 そう思った俺は、咄嗟に一言

 「……俺も、小説書くんです。」

 真っ赤な嘘をついた。それを見た彼女は見下ろす。

 「それなら。私と、小説を書きなさい。」

 それが、俺の学園生活の大きな転換期となった。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆


 あの日から、葛葉と俺は図書室で創作活動に励んでいる。うちの学校は図書室に訪れる者がほとんどおらず、先生に頼めば快く解放してくれる為、一種の部活の様になっている。

 「それで、今日はどんな話を書くつもりなんだ?」

 「それが、アイデアが全く浮かばないのよ。だから、何か面白い話をしなさい。」

 「そんな無茶苦茶な……」

 突然の無茶振りに、俺は考えを巡らせるが、一向に何も思い浮かばない。

 「世間話の一つもできないの?」

 と、呆れた様に眉を顰める。

 「うるせえやい。そうだ。それなら、俺が思いついた話でも語るか?」

 「そうよ、そう言うのを待っていたの。」

 と、彼女は口元を綻ばせた。

 「思い付いたのは、いわゆるファンタジーだ。チート能力をもらって、俺つえええ!ってする話だな。」

 「そんなありふれた話、つまらないわ。」

 ありふれた話、確かにそうだろう。世間的にもなろう系と呼ばれ、酷評の対象になる場合も多い。

 「ああ、完全にそのままだとつまらないだろうが、この系統は読者に快感を与える事にも使える。武器になるわけだ。」

 「まあ、確かに主人公が勝っている時は気持ち良いわね。」

 葛葉は意外とラノベも読んでもいるらしい。

 「まずは、主人公の能力。これは適当に、うどんを出す能力にでもしようか。」

 「は?何でうどん?」

 葛葉は珍しく顔を引き攣らせる。

 「昨日食べたから。それに、最近の異世界系は弱いと思う能力が最強だった!?って言うのが流行ってるんだよ。」

 「だからって……うどんに何ができるのよ!」

 「チッチッチッ、うどんの力を舐めてはいけないよ。」

 葛葉の反論に、人差し指を立て舌打ちを鳴らす。その仕草に葛葉は冷たく目を細めるが、気にしない。

 「うどんと言われて何が思いつく?」

 「え?ツルツルしてて、コシが良くて、出汁に入れたままだと増えるとか?」

 「わかってるじゃないか、うどん修士課程の称号をあげよう。」

 「いらないわよ……てか、何それ?」

 首を傾げる葛葉を眺めつつ、続きを話す。

 「まず、主人公の能力はうどんを生み出す。こんな能力はいらないと、勇者パーティを追放されるところから始まるんだ。」

 「そりゃ追放するわよ。なんで入れたのか疑問だわ。」

 正論を投げるが、そこは追放系という事で飲み込んでもらおう。

 「そして、彼は味気ないパサパサのうどん麺を齧りながら考える。なんで、俺がこんな事になるんだ。復讐してやると。」

 「自分が弱いからでしょ……うどんをそのまま食べてるの?汁は?」

 「異世界には出汁の概念がなかった。だから、乾燥したパサパサのうどんを食べるんだ。」

 「だからってなんで乾燥のまま食べるのよ!せめて茹でなさいよ!」

 「異世界だから茹でる概念なんてないだろ。」

 「異世界をなんだと思ってるの!原始時代!?」

 「そして、乾燥したうどんが喉に詰まって死にかける。」

 「主人公、年寄りかなんかなの?」

 「その時に思い出すんだ!前世の記憶!うどん職人として、出汁を愛した日々の事を!」

 「まあ、そこは十八番ね……突っ込まないわ。」

 「彼は港に行き、昆布や鰹節から出汁を完成させる!そして、うどんを茹で上げ、啜るんだ。」

 「それで?」

 「コシや喉越し、出汁の旨み。それを感じている時、腰に何か違和感を感じる。」

 「……ん?」

 「そう!うどんの力によって、腰の痛みが消えたのだ!」

 「いや、分からないわよ!うどんの知らない効能が出てきてるんだけど!?」

 「コシが良い。つまり、腰が良い……。

 知ってるか?昔の人は自分の悪い部位がある時、他の生き物の部位を食べるんだ。すると、その部位が良くなる。そう信じられていた。」

 「なるほど、うどんはコシがいいから腰が良くなった……ってならないわよ!」

 「そして、この能力は世界において革命となる事だった。」

 「腰を強くする能力が?」

 「この世界の人間は……みんな腰痛持ちなんだ!」

 「どんな世界よ!?」

 「主人公はこの能力を隠す事にする。」

 「なんで?助けてあげればいいのに。」

 「分かってない。わかってないぞぉ、葛葉くん。」

 「貴方にその態度を取られるの凄く釈然としないのだけど。」

 「この世界において、腰が強いと言う事は大きなアドバンテージになる。腰は体の要、剣を振る上でも、何をする上でも重要になるんだ。」

 「つまり、俺つえええ要素って……」

 「腰が強くなったので無双しますってやつだな。」

 「しょうも無さすぎじゃない!?主人公が腰痛持ちを虐めているだけじゃない!」

 「そんな事はない!この主人公だって優しいんだ!ここで、主人公は飢饉に苦しむ村人達を見つける。腰が痛くて農作業が出来ない人たちだ。」

 「うどんをあげて助けるのね。」

 「その通り、出汁にうどんを漬け、超巨大なうどんが出来上がる。それを与える事で飢えが満たされるんだ。」

 「良いところあるじゃない。それで腰も治るのよね。」

 「いや、ふやけてブヨブヨになったうどんにコシなんてない。少しだけ収まる程度だよ。」

 「最低じゃない!怪我してる人に薄めたポーションあげてるみたいなものよ、それ。」

 「まあ、そんな感じでなんやかんやでハーレムとか作ってスローライフしておしまいだ。」

 「なんやかんやで女侍らせてるんじゃないわよ……。はぁ、ツッコミすぎて疲れたわ。」

 葛葉は椅子にもたれ掛け、頭を抑える。

 「中々良いツッコミだったぜ。」

 「貴方の想像力だけは感心するわ。」

 そんな事を話していると、チャイムが鳴る。

 外を見ると、もう暗くなり始めている。

 「うどんの話で今日の活動が潰れたわね。」

 「なんか、うどんが食べたくなって来たな。」

 「私は暫くうどんを見たくないわ……。」

 そうして、今日の活動は終了した。

 ちなみに、その日の葛葉の夕食はうどんだったらしく、文句を言われたがそれはまた別の話。

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図書室で紡ぐ創作物語。 孤高の人 @kokounosenshi

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