『ハートのH~ふたりの秘密の関係』

クールペンギン

カノジョの名前は、マキアージュ。

「ねえ、翼…どうして独り部屋を暗くして…床に佇んでいるの……?」

 その日の夜…突然、オレ以外には誰もいない薄暗い部屋の中から、オレのすぐそばで、女の人の声がした……。

「!? 誰だ…?」

 オレは涙を拭って…声のしたほうへと振り向いて、その人に声をかけた…。

「やっぱりあなた…わたしの声が聞こえるんだね……。わたしは蚊の悪魔、マキアージュだよ」

「蚊の悪魔…マキアージュ……」

 オレには昔から、霊感があった……。

 だから、霊的な存在や、超自然的な存在とも、ある時から、みたり聞いたり、話ができるようにとなっていた……。

「どうして…オレの名前を……?」

 オレは、初対面のマキアージュに対して、疑問に思った事を訊いた。

「ずっとみてたから…翼の事……」

「……」

 そうか…とオレは言った……。

「わたし知ってるよ……。あなたが…どうしてそんなに心が傷ついているのかを……」

 マキアージュは、かなしい表情で…オレの事を心配そうに見て言った……。

「……」

「わたし、見ていたから…あなた達の事……。あなたが今日…彼女と別れるところを……」

「っ」

 マキアージュのその言葉に、オレはまた…堪えきれずに涙が溢れてきた……。

「さみしいの……?」

 マキアージュはそう言うと…オレの胸にその指先を、そっと、ふれてきた……。

「わたしとつきあって」

「え」

「ねぇ、しよ」

 マキアージュの言ったその言葉に、オレは正直驚き戸惑った……。

 マキアージュは言った…。

「だってね…ほとんどの人間は、わたしの姿を、みたり聞いたり話たりもできないんだもん……。だから…わたしの事を、みたり聞いたり話をしたりできる人間を、ずっと、さがしていたの……」

「どうして?」

 オレはマキアージュに訊いた。

 マキアージュは上目遣いに答えた……。

「どうしても、人間と…恋愛がしたかったの……」


 ごくり……。


 マキアージュのその可愛さに、オレは思わず生唾を…飲み込んでしまった……。

 オレは言った…。

「……。だけど…つきあってって……オレはついさっき彼女と別れ話をして…彼女と別れたばかりだし……。オレはまだ……彼女の事を想っている自分がいるのに……今はまだ…他の人とつきあったりは……」

 オレはそうは言ったけど…正直言いながら、そう言ってきてくれているマキアージュの事を、抱きたかった……。

 確かにさみしかった…というのもあるけれど……それ以上に、マキアージュの事が……好みのタイプだったから……。

 特にその…マキアージュの可愛い声が……。

 そんなオレの内心を、知ってか知らずか、マキアージュは言った。

「うん…そうだね……。だけどわたし…あなたの事、好きだよ……」

 マキアージュのその細い指先が、オレの体から離れていく……。

「あ、待って」

「え?」

 だけどオレは…とっさにその、オレの体から距離をとっていくマキアージュのその手を…つかんでいた……。

 ついさっき別れた彼女とつきあう前に、以前つきあっていた蚊の悪魔のルシェも可愛かったけど、やっぱりマキアージュも可愛かったから……。

 オレは言った……。

「……割り切った関係でなら……」

「うん…いいよ……」

 マキアージュは言った……。

 そして…オレはマキアージュを抱きしめた……。

「あ…」

 オレのせめに、マキアージュは甘い吐息を漏らし…

「ん…んくっ……ダメだよ翼……そんなに乱暴に…しないで……ん…んん……んはあっ」

 乱れていく……。


 すごい…人間とするの、こんなに気持ちがいいの……。


 オレとマキアージュ、お互いの唇を重ねる…。

「ん…」

 マキアージュは言った…。

「もう…口で息をしないで」

「あ、そうか…わるい……。マキアージュに触れる事はできても…マキアージュの実体がないから、つい……」

「うん…ん……」

 お互いの唾液と唾液が絡み合う…。

 キスをしながら抱きあった時…お互いの心臓の音が、激しく聴こえた……。

 どうやらマキアージュも……かなり興奮しているみたいだった……。

 だからお互いに、かるくくちづけをしているだけでも……鼻でする息が大きく呼吸をし、荒々しかった……。

 隣の部屋の人に、聞こえているかも…なんて思いながら、オレはキスをした。

 静かな部屋の中で、ふたりの音だけが響いていく……。

「んふぅ……」

 オレはマキアージュのくちびるから、くちびるをはなした……。

 それからオレは、マキアージュの胸に手を伸ばしていった……。

 マキアージュのふたつの乳房をかるく揉んでから…マキアージュの乳首をつまんでみる……。

「あん……」

 しこりをたてたマキアージュの乳首が…少しかたいグミのように、ほどよいかたさになっていた……。

「もっとして……。こう…爪もたてて…くいこませたりして……」

「こうか……」

「うん……んく…はぁはぁ…ん……いい……」

 マキアージュのその声に…オレはさらに興奮していった……。



 それからしばらくして…オレとマキアージュはふたりしてベッドの上に寝転がっていた……。

 マキアージュは言った……。

「ーーそれでね、翼……わたし、ルシェから話を聴いてね……」

 マキアージュからでた、聞き覚えのあるその名前に、オレはマキアージュに訊いた。

「ルシェって…マキアージュと同じ、蚊の悪魔の?」

「うん……」

 オレは言った…。

「ルシェなら知っているよ……。オレは以前…ルシェとつきあっていたから……。ルシェに結婚を申し込まれたのを断ったら…ふられたけどな……」

 あはは、とオレは苦笑いをして言った……。

 マキアージュは言った。

「うん…知っているよ……。ルシェ…あなたとつきあっていたとき…いつもニヤけていて、たのしそうだったから……。だからわたしも…人間と恋愛がしてみたいな…って思ったの……。だから、あなたのところに来たんだよ……」

 オレはマキアージュの言った事に、疑問に思った事を言った……。

「マキアージュ……他の悪魔とは…恋愛をしないのか……?」

「うん、しないよ」

 マキアージュは答えた。

「どうして?」

「それは…言えないよ……」

「……そうか……」

 それからオレは言った…。

「そうか……マキアージュは、人間との恋愛に憧れを持っているんだな……」

「うん……」

 マキアージュは言った。

「ルシェか……。なつかしいな……。元気にしているのかな……?」

「うーん…どうだろうね……。ルシェ、天使に戻って天界に戻っていってから…わたし会ってないから…わたしには、わからないよ……」

 マキアージュは言った……。

「そうだな……。マキアージュがオレと恋愛をしたいのは、最終的には、ルシェみたいに天使に戻って天界に帰りたいからか?」

「そんなんじゃない!」

 オレのその言葉に、突然マキアージュは怒鳴った。

「!? どうしてそんなに怒っているんだ? マキアージュ……」

「え……」

 オレにそう言われて…マキアージュも自分で驚いていた……。

「すごい剣幕だぞ、マキアージュ……」

 オレは言った……。

 マキアージュは言った。

「わたしはそんな理由で、あなたと恋愛をしたいんじゃないよ……。あなたが…あなたとの恋愛を…計算しているみたいに言うからだよ……」

 マキアージュのその言葉に、オレは気が付いた……。

「あ……そうか……。ごめん、マキアージュ……オレがわるかったよ……」

「うん……」

 マキアージュは、おちついていた……。


 その日の夜、オレは傷心独りで泣いていた……。

 自分の家の、六畳間の自分の部屋で…部屋の電気も点けずに、たった独りで……。

 部屋の窓際のカーテンも、全て閉めきっていたから、部屋の中は薄暗かった……。

「うっ…くっ……」

 オレは今日の夕方…これまでつきあってきた彼女と、別れたばかりだった……。

 彼女と別れる事になった理由は…彼女の浮気が原因だったから……。

 正直…それでもオレは……彼女と別れる気はなかった……。

 だけど…痴情のもつれから…結果的には彼女と別れる事になってしまったのだった……。

 だからオレは…傷心そのまま家に帰ってきてからは……着ているものもそのままに、何もする気がなくて、ただ部屋の中で…ぼーっとしていた……。

 一応、いつもの習慣から…外はすでに日が暮れて暗くなっていたから……帰ってきてからはすぐに部屋のカーテンを閉めたけど……。

 それからは…部屋の中で、ぼーっとしている中で…彼女との、これまでの事を思い出して……感極まって…独り泣いていたのだった……。

 彼女と別れたあれから…何時間経っただろうか……。


 そんな時に、カノジョは現れた……。


 そのカノジョの名前は、マキアージュ。

 女性の、蚊の悪魔だった……。


 そして…その日の夜……。


 傷心しきっていたオレは……カノジョと関係を、持ったのだった……。

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