泣く君に、プロポーズした話|百合恋愛
岡山みこと
第1話 泣く君に、プロポーズした話|百合恋愛
積乱雲が連れて来た強い雨。
見上げれば、水滴で空が隠れるほど街が泣いていた。
「なんでこんな時に屋上なのよ」
「ここなら誰も来ないし」
狭い傘の中、立ち尽くすふたり。
相手が濡れぬようお互いに寄り添う。
「今日は明るくバイバイするんじゃなかった?」
明日、私は転校する。
生まれてから高二の最後まで、ずっと暮らしたこの街を離れて。
理由はシンプルで親の転勤。
来年からは受験生なのだが、私は就職組で影響が少ないから着いてきなさいとの判断の様だ。
「そのつもりだったけどさ」
傘を叩く雨の音で消え入りそうな彼女の声。
私の好きな人。
ふたりでたくさんの思い出を築いてきた。
春も夏も秋も冬も、ずっとずっと。
その日常が、今日終わる。
「遠くになるけど別れるわけじゃないし」
「でも!」
大きな声。
見上げて来た彼女の瞳から雨が降り、コンクリートの床に落ちる。
「ほとんど会えなくなって……私」
両の手で顔を隠しうつ向く。
「……ぅっ、ひっ、もうやだ」
なにか話してくれようとしているが、その言葉は嗚咽に交じり意味をなしていない。
愛されることの嬉しさと責任。
彼女は私に心をくれた。
だからこそ私はしなくちゃならないことがある。
「大学進学するのよね?」
「え、うん。そっちは就職だよね」
小さくうなずく。
「目指してる大学なら私の街から通えるわ」
「え?え?」
濡れた瞳が大きく瞬いている。
「一緒に住もうって言ってるの。養ってあげる」
笑顔の無い私の真剣な顔。
彼女に想いは届いただろうか。
「……なにそれプロポーズのつも」
強く抱き寄せ唇を重ねる。
手を離れた傘が風に舞い、雨が二人を叩く。
「そうよ、プロポーズよ」
ゼロ距離で囁いた誓い。
「ばかああああ」
胸を何度も叩かれ、彼女は小さく座り込む。
その背中を優しく撫でた。
いつも私を全力で愛し、全力で向き合ってくれた大切な人を。
「ほら、もう泣かないで」
せっかく雨が止んだのだから。
雲の割れ目から夏の日差しが差し込む。
泣く君に、プロポーズした話|百合恋愛 岡山みこと @okayamamikoto
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