喫茶こもれびの小さな事件簿~商店街の何でも屋~

依羽

1.何でも屋結成

カランッ


「いらっしゃいませー」


 昔ながらの商店街の中にある、喫茶こもれび。来る客と言えば商店街の顔見知りばかりの、静かなこの店のドアが開いた。


「あ、千代子ばあちゃん。こんにちはー」


 その客を、店主の男・葉山 大樹(はやま だいき)が笑顔で迎える。やはり顔見知りらしい。


「大ちゃん、こんにちは。いつものコーヒー豆をお願いできる?」


「はいよー。ちょっと待ってて」


 大樹がコーヒー豆を用意する間、先ほどまでは笑顔を見せていた“千代子ばあちゃん”の顔が曇る。「ふぅ」と息を吐く表情は、何かを思い悩んでいるようだ。


「お待たせー。……あれ、千代子ばあちゃん、何かあった?元気なくない?」


 その様子に、大樹も気づく。何の躊躇もなく相手に事情を問えるのは、2人の関係性もあるがそれ以上に大樹の性格ゆえだろう。


「大ちゃん...。私も、よくわからなくてねぇ…孫娘が何だか元気がなくて声を掛けてみたんだけど……SNS?でトラブルが起きたらしくって。ただ、今の子のそういうのがよくわかっていないから、何て言っていいのかわからないのよね…」


「えー何それ。紗枝ちゃんでしょ?どんなことがあったの?」


「紗枝は昔から絵を描くのが好きでねぇ…。最近じゃその描いた絵をSNSに載せて同じ趣味の友達と見せ合っているんですって。だけどいきなり、悪口を書かれるようになったらしくってね。何だかすごく悲しそうにしていたのよ」


「あー…SNSって怖いもんねぇ…。でも何でいきなりそんなことになったのか、紗枝ちゃんはわかってないの?」


「トレース?パクり?とか言われたらしいわ。“真似をした”って意味みたいなんだけどね、紗枝には心当たりがないらしいのよ」


 ――SNSというのは、気軽に他人と交流できる分、関係はどうしても希薄になりやすい。


 文字だけで人と繋がり、相手の素性もわからないまま言葉を交わす。その言葉すらも真偽はわからないため、影響力の強いアカウントは簡単にデマだって流せる。


 ある意味、“言ったもん勝ち”が日常的に行われている世界だ。


「それは怖いね...。紗枝ちゃんも何が何だかわからない感じだもんね」


「そうなのよ…こういうとき、理解してあげられないっていうのは本当に歯痒いわね」


「SNSの問題はねー…俺もちょこちょこ聞くから軽く知っているだけで、詳しくは知らないもん。……ねぇ、紗枝ちゃん連れて1回夜にご飯食べにおいでよ。話聞くよ?」


「あら、本当かい?そう言ってもらえると助かるわ…理解できる人に話を聞いてもらえるだけでも、楽になるかもしれないしねぇ」


「そうそう。まぁ、今日が都合悪かったら後日でも。いつでも来店をお待ちしてますよ」


 人懐っこい笑顔に、安心を与える口調と声のトーン。……これが、計算抜きでやってるっていうんだから大したもんだ。


「ありがとう、大ちゃん。来られそうな日がわかったらお店に電話するわ。夜営業は、たまにお休みの日もあるものね」


 ふふっと笑う“千代子ばあちゃん”の顔は、先ほどより随分と柔らかくなった気がする。大樹に話して気持ちが軽くなったのだろう。……孫のことを心から気に掛ける、いいおばあちゃんだ。


 

*

「――さて、桐生さんはどう思いました?」


「どう、っていうのは、なんだ?」


「千代子ばあちゃんの話を聞いて、ですよ」


「……そうだな。俺もSNSってのはよくわからんが、その性質上トラブルは多いよな。ただ、孫が“心当たりがない”っていうなら――冤罪による誹謗中傷が起きているって考えるのが自然だろうな」


「ですよねー!」


「でも、今の状態じゃ何にも言えねぇ。片方の話しか聞いていない上に、身内からの又聞きだ。状況をしっかり把握して、何とかしてやれるなら…してやりたいな」


「へへっ」


「なんだよ、その笑いは」


「桐生さんならそう言ってくれると思ってました」


「なんだ、今更。そのための“何でも屋”じゃないか」


 

――――――――――――



 ――大樹と初めて会ったのは、ちょうど3ヶ月前。

 所属していた組織を辞め何となく入った喫茶店で、今日のように客の相談にのっている大樹がいた。


「悪徳クレーマーかぁ…」


「そうなんだよ、大ちゃん。髪の毛が入ってたから料金をタダにしろって言うんだ。それがこの1ヶ月で3回もあってな…。気を付けてはいるが、絶対はないだろう?大きい声でまくし立てられてしまうと、対応しないわけにもいかなくて…。困ってしまってなぁ……」


「それを言ってくるお客さんは、毎回違う人なの?」


「あぁ。年齢はみんな大体同じような気がするが、いつも違う兄ちゃんだ」


「そっか……よし、俺も気になるし、店に行くよ。ちょうどおっちゃんのラーメン、食べたい気分だし!」


「そうかい?そりゃあ助かるよ。すまんな、大ちゃんも忙しいのに」


「気にしないで、店はこの通りヒマだしさ。ちなみにそのクレーマーは何曜日に来ることが多いの?」


 ……この通り、と言っても、ここに客がいるんだがな。


「そうだなぁ…。あまり客がいない、火曜日か木曜日の昼間に来てた気がするな。店にいるのもじいさんばあさんばっかりだからな、若い兄ちゃんの怒鳴り声は心臓に悪いんだよ」


「俺だって怒鳴り声は嫌だよ。じゃあとりあえず明日!ちょうど火曜日だし、お昼頃お店に行くね」


「おぅ、ありがとうな。カミさんも喜ぶわ」


「りっちゃんに会うの久しぶりだなー。事情が事情なだけに、楽しみって言ったら不謹慎かもだけど、おっちゃんのラーメンとりっちゃんの笑顔に会えるの、楽しみにしてるね」


 また明日ねー、と言いながら客を見送る大樹。戻ってきた表情は、先ほどまでとは違って少し暗い。


「大変そうだな」


「あ、すみません。昔から知っているおっちゃんが困っているみたいで…。コーヒー、おかわりいれますね」


「いや、もう結構だ。君は、そのクレーマーと実際に出くわしたらどうするつもりなんだ?」


「そりゃあ、言いがかりはやめてくださいって伝えるつもりですよ」


「言いがかりじゃなかったら?」


「え、そのときは…、ちゃんと謝って…」


「冤罪をかけられてる店主を守るために、見知らぬ客を冤罪にかけるつもりか?」


「そんなつもりじゃ…っ!」


「君が言っているのはそういうことだ。そんな行き当たりばったりで守りたいものを守れるのか?」


「――っお客さんには関係のないことです!」


「……まぁ、そうだな。すまんな、首突っ込んで。お会計を頼むわ」


「あ、いえ、俺こそすみません…。コーヒー1杯なので、450円になります」


 つい余計なことを言ってしまった気まずさを隠しながら、千円札を渡して背を向ける。


「はいよ。釣りはいらない。……無茶は、するなよ」


「え、あ、お客さん…っ」


カランッ


 ――本当に、大丈夫なんだろうか…。



*

 次の日。……来てしまった、「おっちゃん」のラーメン屋。

 別に気になったわけではない。ラーメンが食べたかっただけだ。昼時は過ぎてしまったが、あの青年はもう来ているのだろうか。そんなことを考えながら、店の扉に手をかける。


「ンだとコラッもういっぺん言ってみろやテメェ!!」


 !?店の中から怒声が聞こえる。慌てて扉を開けると、喫茶店の青年と今時風の若者が睨み合っている。


「だから、髪の毛入ってたなんて嘘ですよね?」


「は?何言ってんだ?現にこうして入ってんじゃねぇか」


「でもそれがりっちゃんの髪の毛かどうかなんてわからないじゃないですか!」


「ハッ逆にそうじゃないっていう証拠はあるのか?あんまり無茶な言いがかりをつけるなら、SNSで拡散すんぞ?」


「それは...っ!」


「あるぞ」


 思わず間に入ってしまった。こうなると思ったから、無茶はするなと言っておいたのに。


「っ!誰だテメェ!!!」


「ただの通りすがりの客だが」


「あ、昨日のお客さん...っ」


「おう。昨日ぶりだな」


 覚えてもらえていたみたいだ。そうじゃなければただの不審者だからな、良かった。


「ただの通りすがりが何の用だ!!!」


「証拠はあるのか?と言っていたからな。証拠が出せるなら、出した方がいいと思って」


「ハッどんな証拠だよ。この髪の毛見て何かわかんのか?オッサンよぅ」


 ……オッサン。オッサンか…まぁ、10代後半っぽいコイツからしたら42はもうオッサンか。


「まぁ聞け。まず、この髪の毛は茶色だが、りっちゃんさんの茶髪とはまた違う色合いだ。――どちらかというと、もう少し若い年代の色合いに見える」


「何だよそれ。そんなん、証拠にも何にもならねぇじゃん。じゃあ、誰の髪の毛だって言うんだよ」


 余裕ぶった笑い。ピンク色の髪をした自分には容疑が向かないと思っているのだろう。


「それはわからん。だがな、りっちゃんさんの髪の毛ではないことの証明はできる」


「そうやってだ?その、茶髪の色合いが違うように見えるって言い分でか?」


「いや、DNA鑑定でだ」


「は?」


「え?」


「だから、DNA鑑定をすればハッキリわかる、と言っているんだ」


「ハッ何を言い出すかと思ったら…オッサン、刑事ドラマの観すぎじゃね?一般人は簡単にDNA鑑定なんてできねぇんだよ」


「まぁ、一般人なら難しいかもしれないがな、俺は鑑識に知り合いがいるからな。できるぞ」


「……何、オトモダチに鑑識いんの?でも何?オトモダチってだけで何でも依頼できたらダメなんじゃね?警察的によ」


「俺は元刑事だからな、多少の信頼性とかそういうので聞いてもらえる伝手があるんだ」


「は!?」


「え!?」


「……呼ぶか?鑑識」


「は!?はぁーーーー!?!?意味わかんねぇ!!!!すげぇ、面倒くせぇ。こんな店、もう来ねぇよ!!!」


 突然取り乱し、金を置いて逃げるように出て行く男…が、新たに来店した背の高い男にぶつかる。


「あれー?帰っちゃうのー?髪の毛、入ってたんでしょ?ちゃんと最後までやんなきゃダメだよ〜」


「っ!今度は誰だよ!?」


「俺?俺はね〜、子どもの頃からこのお店を愛している、常連客だよん」


「……そうかよ。常連客ったって関係ねぇだろ、帰んだからどけろよ」


「え〜、やだぁ〜」


「何なんだよ!」


「だってぇー、君“たち”でしょ?おっちゃんのラーメンにいろいろ言って迷惑かけてるの」


「は、…?何言ってんだ?」


「え?楽しそうに話してたじゃん、SNSで〜」


 ほら、と背の高い男がスマートフォンの画面を見せる。


「あ、あ...、」


「こんなさ〜、悪巧みするなら、ちゃんと鍵かけなきゃダメだよ?」


「…っすまねぇ!ちょっとした出来心だったんだ!やってみたら上手くいったって話を聞いて、つい…。でも!そんな大事にするつもりなんてなかったんだ!ちょっと、ラーメン代がタダになればいいなって…」


「ふざけるな!!!」


 ……本当に身勝手で、ふざけた証言だ。あまりの浅はかさに呆れていると、怒鳴り声が聞こえる。


「お前たちが…っ“つい”でやったことに、どれだけおっちゃんたちが悲しんだと思う!?そんな言い分で、何もなかったことになんてできるわけないだろう!!!」


「その通りだ。まず、君たちがやったことは威力業務妨害罪に当たる。そして、虚偽の事実(髪の毛が入ってた嘘)で財産的利益(料金タダ)を得る、という詐欺罪に。また、「SNSで拡散するぞ」と言った言葉が恐喝罪になる可能性がある。威力業務妨害罪は3年以下の懲役または50万円以下の罰金、詐欺罪と恐喝罪は10年以下の懲役、立派な犯罪だな」


「…なっ」


「そのSNSを辿れば、今までの犯人の身元もすぐにわかりそうだしな。全員まとめて刑務所行きだな」


 ――なんてな。初犯ならいきなり刑務所に入ることはないだろう。せいぜい罰金刑くらいか...それでもしっかり、反省はしてもらわないとならないけどな。


「そんなの困る!大学も退学になっちまうし、前科つくとかマジでムリだって!!!」


「だがなぁ...実際にお前たちがやったのはそういうことだ。もう子どもじゃないんだからな、自分のケツは自分で拭かないとならないんだよ」


「すみません!謝るから!もう絶対やらねぇから!!!赦してもらうことはできませんか...?」


「赦せるわけないだろう!!!」


「まぁ待て」


 今だに感情的になっている青年を止める。


「赦すも赦さないも、決めるのはお前じゃない」


「あ…っおっちゃん……」


 ずっと、静かに話を聞いていた店主の顔を見る。


「おい、兄ちゃん。」


「は、はい…っ」


「反省してんのか」


「はい!」


「もうこういうことはしないって、約束できるか」


「はい!」


「…ラーメン、美味かったか?」


「!はい…っ」


「そうか。――よし、赦す。もしまた金が無くて腹が減ったらここに来い。皿洗いしたら、ラーメンくらい食わせてやる」


「…っありがとう、ございます…!」


 改めて若者が食べていたラーメンを見ると、中々キレイに食べられている。これだけ食べといて髪の毛が入ってる、というのも巧くないやり方だが…腹が、減っていたんだな。


「この件はこれで終いだ。すまないな、大ちゃん。怒ってくれてありがとうよ」


「いや、おっちゃんがいいならいいんだ。全然役に立てなくてごめんね」


「何言ってんだ。来てくれて、心強かったよ」


「へへっそれなら良かった」



*

 後から聞いた話だが、例のSNSで話していた奴ら…他の3件の犯人たちは、あの若者とは関係のない者たちらしい。

 あの若者――田村 陽太(たむら ようた)――は、最近両親を亡くし、まだ小学生の弟と突然2人暮らしになった。大学に通いながらバイトで自分と弟の生活費を稼ぐも、いつも生活はギリギリ。自分よりも弟を優先する日々を送る中で、鬱憤が溜まって……また、空腹に耐え切れず、たまたまキャンパスで聞こえてきたこの詐欺行為をしてしまった、とのことだった。ちなみに髪の毛は大学で拾ったのを取っておいたものだと。


「軽い気持ち、なんかじゃなかったんだな」


「そうみたいです。実は苦学生だったなんて…人を見た目だけで判断しちゃダメですね」


「犯罪は犯罪だけどな」


「それはそうですけどね。おっちゃんはあの子の違和感に気付いていたんですよね…。やっぱり経験の差でしょうか」


「でもおっちゃんって昔からあんな感じだよね~何て言うか、嘘が通じない感じ。あと、めっちゃお人好しなの」


 それがおっちゃんのいいとこなんだけど。と、背の高い男が緩く笑う。


 ――あの騒動から1週間。喫茶こもれびで、コーヒーを飲みながらあの日の話になる。

 喫茶こもれびの店主の名前は葉山 大樹。あの日、後から来た背の高い男は川島 優斗(かわしま ゆうと)。2人は幼馴染でこの商店街で育ったため、あのラーメン屋の店主のこともよく知っているようだ。


「あの後、陽太くんが弟くんを連れてラーメンを食べに来たみたいですよ。ずっと染め直しできなかったっていう髪も、黒髪になってたって。弟くんもすっかりおっちゃんとりっちゃんに懐いちゃって、夜に陽太くんがバイトのときなんかはお店で弟くんのこと預かるようになったって。りっちゃんが嬉しそうに話していました」


「それは良かったな。ただ、結果的に他の犯人は関係ないんだろう?また違う奴が来て騒ぎを起こしたりするんじゃないのか?」


「ふっふっふ。それはもう解決済だよん✩ほら、こうして注意喚起しといたんで~」


 何やらSNSの画面を見せられる。


「何だ?これは」


「これはね~例の“やり取り”をスクショして、彼らにDMをした画面。で、要約すると『もう特定はできている。また同じことをしたら警察に訴えるぞ』的な文章を送ったの」


「そんなんで効果あるもんなのか?」


「俺、フォロワー300万越えのインフルエンサーだから。意外とSNSの世界では名前が効くんだよ~」


 ふふん、と得意げに話す表情はご機嫌そうだ。懇意にしている店主の憂いを晴らせたのだから、気分がいいのだろう。


「でも、桐生さんのあれ、かっこよかったですよねー!『……呼ぶか?鑑識』ってセリフ!元刑事さんの貫禄がすごかったです!」


「……元だぞ?貫禄なんてないだろ」


「ありますって!何かこう、独特の迫力が!」


「うんうん、わかる〜」


「最終的に相手を追い詰めたのは、優斗だったけどな」


「俺のはたまたまだよ〜」


「でも、本当に良かったよ、何とか解決できて。おっちゃんにもりっちゃんにも、昔からお世話になってたからさ」


「そうだねぇ〜…」


「桐生さん、改めてありがとうございました。あの日、店に来てくれて」


「いや…たまたまラーメンを食いに行っただけだ、気にしないでくれ」


「ふふふ〜」


「何だ?優斗、ニヤニヤして」


「桐生さんって、元刑事さんなんだよねぇー?今は何をしてるの?」


「今は特に何もやってないな。探偵業でもやろうかと思ってはいるが、事務所探しとかがどうしても億劫でな」


「そうなんだぁ〜。じゃあ、ここを事務所代わりにしたらいいんじゃない?」


「は?」


「え!?」


 優斗の突然の提案に大樹も驚いている。店主の許可なくそんな提案をするのはダメだろう、普通に考えて。


「いや、俺さ〜報道系のインフルエンサーやってるじゃん?それももちろん、ちゃんといろいろ考えて続けてるし、やりがいも感じてんの。でも今回、おっちゃんたちのトラブル解決できたことがすごく嬉しくてさぁ…身近な人とか大切な人が困ったときに手助けできたならーって思ったんだよねぇ」


「あ、それは俺も思う!今回もたまたまおっちゃんが相談してくれたから知ることができたけど、そうじゃないと知らないままだったろうし。でも……突っ走るだけ突っ走って、俺は何の役にも立てなかったから…」


「何言ってんだ?元々はお前がおっちゃんの相談に乗って、気に掛けたことが始まりだろ。俺はたまたまその様子を見て店に行った。優斗も、お前からその話を聞かされたからこそ調べることができたんだ。今回、おっちゃんを助けられたのはお前のお陰だ」


「そうだよー?大樹はさ、直情的っていうか~考えるよりも先に動いちゃう、みたいなところあるけど、それがいいところじゃん?大型わんこみたいでみんなに好かれるし、相談しやすいし。だからさー、桐生さんとの相性がすごくいいと思うんだよね」


「どういうことだ?」


「人情派で行動的な大樹と、強面で冷静な桐生さん。2人でこの商店街の何でも屋をやればいいんだよ~」


「「は!?」」


「でさ、それ以外はここを桐生さんの探偵事務所みたいにすればいいじゃん。そうすれば事務所の家賃かからないしー大樹だって桐生さんがいてくれたら安心しない?」


「いや、待て。ここを事務所に、なんて迷惑だろう」


「いえ、迷惑なんてことは…、というより、いいですね、それ」


「は?」


「商店街の何でも屋ですよ!みんなの役に立てるなら、俺やりたい!……あ、でも桐生さんには何のメリットもないですよね…。何でも屋はムリしなくても大丈夫です。でも、事務所代わりにここを使っていただくのは大歓迎ですよ」


 楽しそうな笑顔、少し寂しそうな顔、人の良さそうな笑顔...コロコロと表情を変えながら話す大樹の顔は、さっき優斗が言った“大型わんこ”そのものだ。


「じゃあ、お言葉に甘えて。ありがたく事務所代わりに使わせてもらう。ここだと美味いコーヒーも飲めるしな。……何でも屋も一緒にやるぞ。家賃代わりになるかわからんが」


「わ、本当ですか!嬉しいです!!!」


「良かったね~。ネット関係で困ったことがあったら、俺も手伝うしいつでも声かけてよ」


「それは心強いな」


「へへ、じゃあ決まりだね!これから、よろしくお願いします!」


「おう、よろしくな」


「よろよろ~✩」



――――――――――――



 居心地のいい空間と美味いコーヒー。店主の大樹は、その真っ直ぐさが危なっかしくもありついつい気に掛けてしまう。――煩わしい組織から抜けて、1人で気ままにやっていこうと思ったんだがな。邪気のない大樹と共に居る時間は、息をするのが楽でいい。


 ただ、成り行きのまま始めた“何でも屋”だが、大きなトラブルの依頼はまだ入ってきたことがない。大っぴらに宣伝をしていないので当たり前と言えば当たり前なのだが。

 大樹が来店する顔見知りに「何か困ったことがあったら言ってね?」と声を掛け、時折頼まれることと言えば、高いところについている電球を取り替える、だとか、犬の散歩を代行する、などの雑事だ。

 それでも、依頼人は嬉しそうに礼を言い、大樹もそれに笑顔で応える。その様子は、とても心が温まるものだった。――犬の散歩代行は、一瞬で仲良くなった1人と1匹が微笑ましいほど楽しそうにしていて、動画サイトなんかで動物の動画をひたすら観ている人たちの気持ちが少しだけわかってしまった。



*

カランッ


「こんばんはー……」


「あ、千代子ばあちゃん、紗枝ちゃん。こんばんは、いらっしゃい。」


「大ちゃん、今日はよろしくお願いね」


「あの、すみません。今日は時間を作ってもらっちゃって…」


「謝ることなんて何もないよ。ほら、座って」


 大樹が相談を受けてから数日後の夜、千代子ばあちゃんが孫娘を連れてやってきた。

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