おれいは甘いxxがいい

たい焼き。

前編 秘密と進路

「じゃぁ、来週の月曜日にはみんな進路表書いて提出してねー」

「えーマリアー、書かなきゃダメぇ〜?」

「ダメでーす。あと”先生”をつけてくださーい」


 教室の窓から、もう葉桜となっている桜から残り少ない桜の花びらが舞う季節。

 高校3年生のクラスは一気に今後の進路の話ばかりになる。


「去年まではお気楽にできたのになぁ〜」


 あたしは先ほど担任のマリアから配られた進路記入用紙を片手に机に突っ伏す。

 あたしの隣の席に座る友達の尚美なおみが笑いかけてくる。


榛花はるか〜、ずっとマリアのこと呼び捨てだとそのうち内申点下げられるんじゃね?」

「えーてかさー進路どーしよー」


 あたしは顔だけ尚美のほうに向ける。

 尚美は意外とケロッとしていて、あっさりと「もうウチ進路決まってるもん」と言ってきた。


 は、嘘でしょ?


 尚美とは高校1年の時に同じクラスになったときから意気投合して、ずっと一緒にいた。

 放課後、教室でガッツリメイクして先生に怒られたりもした。

 全然、進路の話なんてしなかったけどいつの間に進路決めてた?


 尚美の裏切りに声を失っていると、追い打ちをかけてくる。


「やっぱこれからの時代は手に職だよねー。看護師と迷ったけど、勉強シンドいからネイリストになるんだー」


 尚美はそう言って、自身の手を教室の蛍光灯に照らす。

 派手なネイルは怒られるから出来ないけど、尚美の爪はうっすらと淡く色づいている。


「榛花も進路決めてないなら、ちゃんと考えたほうがいいよー?」


 もう尚美の言葉はあたしの耳には入ってこなかった。



 ***



 進路の提出は1週間後。

 放課後、今まで何も考えずに過ごしてきたあたしはとりあえず図書室にいた。

 学校の図書室なら何か進路の参考になりそうなものがあるんじゃない?


「あー普段、図書室なんてこないからよくわかんないなー……」


 宛もなく図書室内をウロウロしていたら、自習机の一角にクラスの委員長がノートを広げて勉強している姿をとらえた。

 委員長は下を向いていて、あたしに気づく様子もない。

 あたしは後ろから静かに近づき、委員長のノートを覗き見る。


「えっ……!?」


 あたしはびっくりして思わず声が出てしまった。

 だって、ノートには鉛筆で裸の男が2人描いてあって……委員長のキャラと合ってないのもあるけど、こんな公共の場で何してんの!?


 委員長はあたしの声に驚き、振り向きながら両手でノートを隠した。


「もー遅いから……」


 あたしは呆れた声を出す。委員長は顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。酸欠かな?

 そのうち肩を小さく震わせながら、涙目でこちらをキッと睨みつけてきた。


「誰かに言ったらコロス……」

「えぇ……委員長、こわぁい」


 委員長がこんなキャラだと思わず、つい面白くなってイタズラ心が顔を出す。

 あたしは委員長の耳元にそっと顔を近づける。


「秘密にしてほしかったら……お願い、聞いてくれる?」


 委員長は大きく目を見開き、今度は顔が青ざめる。

 赤くなったり青くなったり忙しそう。


「何が望み?」

「ちょ……あたし、悪者みたいじゃんか」


 委員長、それ言いたいだけじゃないの?

 と思いつつも、委員長の隣に腰掛けて、頬杖をつく。


 あたしがニヤリと笑うと、委員長は反比例するように口角が下がる。

 うーん、あたしも悪役がまんざらじゃないかも?


「委員長さー」


 委員長があたしのこれから発しようとする言葉に身構える。いつの間にかノートは閉じられて、参考書の下に隠されてしまった。


「将来、漫画家になるの?」

「へっ?」


 眉間にシワを寄せて、あたしの言葉を待ちかまえていた委員長は拍子抜けした顔であたしを見つめる。


「急に、なんでそんなこと……」

「いやーあたしら高3だし? 進路も来週には出さないとだし? 尚美はもう進路決まってるし、委員長も決まってんのかなーって」


 まぁ真面目そうな委員長のことだからもう決まってんだろうけど、と付け加えようとしたら委員長が言葉を遮る。


「別に漫画は趣味だし……進路も何となくしか決めてない」

「えっ、うっそ。意外なんだけど」

「まだ固まってないだけ! とりあえず大学行こうかなって……」

「えー尚美のがちゃんと考えてるんだけどーウケる。委員長、結構テキトウなんだね」


 委員長は眉毛を八の字にしながら「そんなことは良いから、お願いって何?」とか弱い声で聞いてくる。

 そんなにあたしのお願い聞きたいのかな?


「委員長ならオカタそうだし、進路について色々聞いてみようと思ったんだよね〜」


「何かイメージと違ったけど」と付け加えたら、委員長は気まずそうに視線を落としてしまった。


 が、気を持ち直したのか黒く肩まである髪を耳にかけると「そんなの、先生に相談すればいいでしょう?」と一蹴されてしまった。


「まーそれもそーかも」


 あたしの声を聞いて、委員長が机に広げていた参考書やノートなどをカバンに片付け始めた。


「じゃ、じゃぁ、もう良い? わ、私もう行くからっ」

「あっ」


 きちんとカバンにしまいきれていない小物類がこぼれ落ちる。

 あたしと委員長はキャッチしようとそれぞれ手を伸ばす。あたしが筆箱をキャッチしたところで、例のノートが降ってきた。

 視線を上げると、筆箱をキャッチしようとした委員長がバランスを崩してカバンの口が大きく開いて中身を全部ぶちまけるところだった。


「あああっ!」


 バサバサと派手な音を立ててカバンから落ちる教科書たち。


「あーぁ……」


 あたしたちが大きな音を出したのを図書委員の人がちらりと見て去っていく。


「とりあえず、場所かえようか……」


 あたしたちは散らばったものを拾うと、そそくさと図書室をあとにした。


 ***


「場所変えるって言っても、なぁ~……。委員長、どっか寄ってく?」

「いや、寄り道は校則違反」

「そこはお堅いのねー」


 頑なに寄り道を良しとしない委員長に合わせて、あたしたちは帰りながら話すことにした。


「委員長は大学はどこに行くかとか、もう決めてるのー?」

「私は……文系に進むつもり」

「あー……で、やっぱエッチな漫画描くんだ?」

「そっ、そういう訳じゃ……」


 普通に会話していても、あのノートに描いてあった絵について話すと途端に委員長の顔が赤くなる。


 そんなに恥ずかしがるのに、なんであんな人目に触れる場所で描いてたんだろうねぇ。


「マジ、委員長って謎だわー」

「……」


 それから、何となく放課後は委員長と一緒にいる。

 進路のことはもちろんだけど、好きなこととか将来の夢とかを少しずつ話すことであたしの進路の方向性が見えてきた頃、進路表の提出日になった。


「マリア、よろ~」

「もう、”先生”をつけなさい、加賀谷かがやさん」

「え~、何かこっちのが親しみがあって良くない?」


 マリアはあたしの書いた進路表を受け取りながら、言葉遣いについて注意してくる。

 でも、そんなに本気で怒っている訳じゃないのはクラスみんな分かっていると思う。


 あたしがマリアと話していると、うしろから委員長がきてマリアに進路表を手渡す。


「先生、よろしくお願いします」

「あ、栗島くりしまさん、ありがとう」


 委員長の進路は大学進学って言っていたな……と思いながらマリアの手元を見る。

 難関ってほどじゃないけど、少し勉強を頑張らないと入れないような有名校を書いていた。


 へぇ~。


「ね、マリア、あとでちょっと相談乗ってくれない?」

「はいはい、放課後でいい?」

「おけまるー。ありがとー」


 あたしはマリアにひらひらと手を振ると、自分の席へ戻った。

 ジッと自身の爪を眺めていた尚美が話しかけてくる。


「榛花、進路無事決まったん?」

「方向性はねー。放課後、マリアに相談してみようと思って」

「なるー。今のうちにしとけしとけー」


 尚美は二カッと笑うと、「進路定まったら、ウチらも頑張ろうね」と言いながら他の友達と話し始めた。


 放課後、さっそく進路のことで相談してみたらマリアはかなり難しい顔をしつつも応援してくれた。

 さくっと相談をしたあと、下校しようと昇降口へ向かうと下駄箱に委員長が一人で待っていた。


「おっ、待っててくれたのー?」


 あたしが軽く声を掛けると、なぜかぷいっとそっぽを向かれつつ「先に帰って秘密をバラされても困るから」と小さく言う。


「ん~、素直じゃないなぁ~……。あ、そうだ」


 あたしは委員長にしっかり聞こえるように少し声を張る。


「お願い、決まったよー」

「ちょっ……何にしたの」


 そっぽを向いていた委員長がパッとこっちを向くと、あたしの口を塞ごうとするように近づいて来る。

 もう、だいぶ生徒は下校しているからここで秘密を話しても平気だと思うけど……必死な委員長をからかうのは面白いなぁ。


「これから受験が終わるまで、あたしに勉強教えてー?」

「はあっ? 何それ」

「とりま、明日からよろしくね~」


 あたしは委員長にひらひらと手を振ると「今日は先帰るねー」と走って先に帰る。

 後ろから委員長の大きな声がよく聞こえる。


「ちょっと、それ、どういうことー?!」

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