第2話 六兄弟の日常

天国家の居間には、ホットケーキの甘い香りが濃く立ちこめていた。

鉄板の上で焼けたそれは、まだ湯気を立てている。

幼い双子は、並んで座り、トッピングに夢中だ。

「ぼく、チョコ〜」

「では私は、イチゴジャムですわ」

皐月と睦月は顔を寄せ合い、互いの皿を覗き込んでは笑い合う。

その隣では、喜三太がすでに三枚目へと手を伸ばしていた。

一キロのホットケーキミックスなど、まるで最初から無かったかのような勢いで消えていく。


「ったく……」

少し離れた場所で、一路は腕を組んだまま眉をひそめていた。

鼻を突く甘ったるい匂いに、胃の奥がむずむずとする。

「こんなもんの、どこが美味いのかねぇ……」

吐き捨てるように呟いたその声に、旺四郎が気づいて振り返った。

「一路兄さん、お魚も無くなってしまいましたし……よろしければ、一緒にいかがですか?」

旺四郎はそう言って、ホットケーキの乗った皿を差し出しながら、一路の隣に腰を下ろす。

——が、その手は途中で止められた。

「旺ちゃん、いいのいいの」

二葉が、ひらりと手を振る。

「いちろは、握った飯でも食ってりゃ良いのよ」

「兄を呼び捨てにするな!」

「……いや、そこかよ」

二葉は何事もなかったかのように、ホットケーキにバターをたっぷり塗り、一口で頬張った。

一路も、仕方なく握ったおむすびに食らいついた。


その時

向かいの席から、ツインテールをぴょんぴょん弾ませながら、皐月が一路のもとへと歩み寄ってきた。

「いち兄ちゃま、ほっぺにごはん粒がついておりましてよ」

そう言って、自分の頬をちょん、と指差す。

「さ〜つきぃ」

一路はにんまりと笑い、手を伸ばすと皐月を軽々と抱き上げ、そのまま膝の上に座らせた。

「じゃあ、皐月に取ってもらおうかな〜」

「もう! いち兄ちゃまったら、さつきが居ないと、なんにも出来ないんだからぁ♡」

小さな指が一路の頬に触れ、米粒をつまみ取り、ぱくっと自分の口へ運んだ。


バァァァーーーッ


一路の脳裏に、閃光が走った。

「んがぁぁぁ!! 妹、可愛いーーー!!」

皐月の頬に顔をすり寄せ、ツインテールをわしゃわしゃと撫で回す。

「い、いち兄しゃま……愛が重いですわ……むぐぐ……」

「いち兄ちゃんのお嫁さんになるんだろ? 待ってるぜぇ〜、しゃちゅきぃ〜〜」

今度は額に顎をぐりぐりと押しつける。

「んにゃ〜〜〜」


「……きっも」

一部始終を見ていた二葉は、ぞわりと寒気を覚えた。

呆れながらカフェオレに手を伸ばした、その瞬間——

鋭い視線を感じて顔を上げる。

そこには、どす黒いオーラを纏った睦月が、じっと一路を睨みつけていた。


「………………ぷっ」

二葉は口元を歪め、ニヤリと笑う。

「いちろ〜、皐月の髪ぐしゃぐしゃじゃん。幼稚園で笑われちまうだろ?

ほら、皐月、直してやるから来な」

膝をぽんぽん叩く。

皐月は自分の髪に触れ、名残惜しそうに一路を見上げたあと、渋々二葉の膝へ移った。

「は〜い、キレイキレイしようね〜。可愛いねぇ〜、さつきぃ〜」

わざとらしく、やけに大きな声で褒める二葉。

「二葉お姉さま……不気味ですわ……」

そう言いながらも、皐月はブラッシングに身を委ねた。


その瞬間


「ぶんぎゃああああああああぁぁぁぁ〜〜〜!!

さっちゃん取られたぁぁぁ〜〜〜!!」


睦月の大号泣が炸裂した。

衝撃でサッシのガラスにヒビが入り、地響きとともにテーブルが浮き上がる。

「うわぁぁぁぁぁ!」

一路は椅子から転げ落ちた。

「あっははははははははははははっ!

こいつ、すぐ泣く〜〜〜!」

二葉は腹を抱えて笑い転げる。

「さっちゃぁぁぁぁん! うえぇぇぇ〜〜〜ん!」

室内に、旋風が巻き起こった。

「皆さん! これは非常にまずいですよ!睦月! 泣き止みなさい!」

旺四郎が慌てて、睦月の口にタオルを押し当てる。

「ん〜〜〜ん〜〜〜!」

手足をばたつかせ、必死に抵抗する睦月の姿に、二葉は指をさして笑った。

「だ〜〜〜っはっはっは〜〜〜!真っ赤でやんの!真っ赤な子猿ちゃん♪ ウッキッキー♪」

「二葉姉さん!!」


一瞬、沈黙が走る


「あ、これダメなやつ」

喜三太がぼそりと呟いた、次の瞬間。


睦月の大絶叫とともに、

天国家の屋根は、綺麗さっぱり吹き飛んだ。


そう、これが天国家の日常である!!



いやいやいや!んなわけねぇだろ!!

でも、これが俺ん家♪

どもども!次男・喜三太です!

次回の「あまくに一家!」は

「まいっちんぐ愛子先生」と「兄は妹を見送れない」の、二本だぜ!


屁のツッパリはいらんですよ!

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あまくに一家! りんくま @rinkuma3793

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