星定英雄譚 ―スピの彼女にスピられて勝手に勇者になる俺―

無変むくう

第1話 スピから始まる勇者

この世界は、正解によって崩れることがある。

――この国にはスピ星人が多数いる。

人間、宇宙人、UMA、サイキッカー。

だがその中で英雄を生み出すのは――スピ星人だけだ。学園の片隅何気ない日常の中で一人の青年が、正解を正すことで世界を成立させている。

高瀬洸一。文明の進化を「正しいものにする」スピ星人アーリウス。その隣には

神楽坂セラ「答えを導き新たなる勇者を生み出す」スピ星人プレシルス。


だが安心してはいけない。

歪み始めた世界には基準点を破壊する者――

ノードブレーカーが潜み、人類と選択肢そのものを壊そうとしている。そして今日も七人のスピ星人たちが静かに、いや少しだけ大騒ぎしながら、高瀬洸一という勇者と共に未確定世界――アンフィックスを守るため戦っている。

『星定英雄譚』――これは星を定める者たちが紡ぐ、スピ星人英雄への物語。


大学の講義中、隣に座る神楽坂セラの熱弁が始まった。神楽坂セラはゆるくウェーブのかかったロングヘアの金髪に、薄い青紫の瞳をしている。

年上にも見える大人っぽさがある一方でどこか決定的に――ズレている。


なぜ奇妙かというと――理由は単純だ。


「高瀬くん。この数式はもう決まってた流れなの宇宙がそう望んでるんだよ」

「いや、普通に方程式解いてるだけなんだけど」

「今は魂のステージが違うだけ、高瀬くんは数式に選ばれた側」

「選ばれない側でいいから、静かにしてほしい」

「今まさに次元上昇してるんだよ、覚悟はできてる?」


……待て、一行ごとに世界観が跳躍している。

俺はただ講義を受けているだけだ。

宇宙にも魂にも選ばれた覚えはない。


にもかかわらず、神楽坂は隣で俺の人生を勝手に壮大な物語へ書き換えようとしていた。


「高瀬くん、私のプレシウスの思考少し分かってきた?」

「全くもって理解不能だ。未確認思考をどう理解しろと」


神楽坂は満足そうにうなずく。

神楽坂セラ――スピ星人通称プレシウス。

未来を断言はしないが、答えを導き新たなる勇者を生み出す星人らしい。


そして神楽坂から何度も聞いている。

俺は高瀬洸一。スピ星人――アーリウス。

世界進化を救い文明を「成立させる」存在。

文明が暴走しないよう監視し、争いが臨界点を超えないよう調整する。

それがアーリウス――勇者の使命。


「高瀬くん君は勇者だ。もう分かってるよね?

選択肢は残っていない、これは使命じゃない。

結論だよ」


「高瀬洸一は勇者である」


……神楽坂セラに、俺は勇者だと言われ、

勝手にスピってくる。


――はっくしゅん。


「神楽坂、現実とスピとの高低差で俺風邪引いたよ」

「浄化が始まってるね、それは試練だよ」

「いや、ただの風邪だ」

「おっと否定は波動が下がる」

肯定も否定もせず、俺は無の感情を徹底する。


「ところで、私たちソウルメイトだと思うんだけど高瀬くんはどう思う?」


ソウルメイトとは運命共同体みたいなことか?


「神楽坂、俺は何も感じてないが」

「そうか同士よ。統合してくれてありがとう」


通じないのが、通じることでお馴染みの神楽坂セラである。さすがスピ星人ーープレシウス。


「ところで高瀬くん、星定英雄譚へ入ってほしい」


神楽坂が急に声のトーンを落とした。

さっきまで数式に使命だの、次元上昇だの言っていたのに今度はやけに真剣だ。


「遠藤マリア学級委員長に会ってほしい」

「……なんだ、また試練か」

「いいや今回は違う。君にとって必要不可欠なことだよ」


神楽坂は当然のように言う。

「高瀬くんは、もう勇者契約を結んでるから」

「結んでないんだけど」

「学級委員長――遠藤マリアに会ってほしい」


反論しようと口を開いた、その瞬間だった。


「正確には会わないと、星定英雄譚への加入、勇者進行は再起不能です」


背後から気配のない声が割り込んでくる。

振り返るとそこに立っていたのは――

眼鏡の奥から感情の温度を感じさせない視線を向ける黒髪ロングヘアの女生徒、瞳は緑色をしている。


遠藤マリア学級委員長。

――知性と設計を司るスピ星人、シルディア。

「あなたは現在、世界の選択肢を固定する位置にいます。そこでこの学園の星定英雄譚に任命します」

淡々とした声。そこに感情はない。


「星定英雄譚ってなんだ」

「星定英雄譚――これは星を定める者たちがこの国である、未確定世界アンフィックスを守るため戦っているんです」

「私も星定英雄譚の仲間だ」

「神楽坂も配属してたのか」

「これは感情論ではありません。文明の進行上、必要な判断です。高瀬くんは、文明進化のための勇者なんですよ」


「はあ……文明進化の勇者?で、アーリウスの役目は?俺は何をすればいいんだ」


説明を聞いても抵抗する気力は湧かなかった。

どうせ、もう逃げ道はないのだろう。

マリア委員長が続けて発言する。


「現在この星定学園には――試練と対立、世界に摩擦を起こすスピ星人、オリグナが存在しています」


「……小佐田眼か」


神楽坂が思わず名前が口をついた。


「ええ。学生名、小佐田眼。星定学園全体を壊そうと複数の生徒に喧嘩を売り、暴力事件を引き起こしています」

「あいつ、また始まったのか」


「そこで文明が暴走しないよう監視し、争いが臨界点を超えないよう調整する。

アーリウス星、高瀬洸一くん」


マリアは委員長はこちらをまっすぐに見据えた。


「オリグナ星、小佐田眼の暴走を止めてください。世界が正しい選択をしたことを――成立させてほしいのです」


「どうだ高瀬洸一くん。いや、勇者よ!!」


横から神楽坂が楽しそうに口を挟む。


「協力してくれ、私も戦闘体制に入る!!」

「それはつまり戦うってことだろ?やだよなんか怖いし」

「大丈夫だ、スライムごとき親指で潰せるでしょ?」

「いや、スライムは剣で戦う為に存在してるんだ」


遠藤マリア学級委員長が、静かに一礼した。


「高瀬洸一くん。星定学園を救ってください」

「勇者よ!マリア委員長からの直々の命令だ。

頼まれてやってくれ、私も本気を出すから」

「はあ……秩序は俺の役目か。監視と調整だけだからな」

「それでこそ、勇者ですね」


マリア委員長がにこりと笑顔に戻る。


「マリア学級委員長、武器はありますか?」

「ええ。専用装備が多数ありますので、好きなものを持っていってください」

「……戦う気まんまんじゃねえか」


こうして俺は勝手に勇者として文明が暴走しないよう監視し、星定学園のトラブル処理係に任命された。


高瀬洸一は星定英雄譚に認定されアンフィックスの世界を正解にする、勇者としての物語が始まった。

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星定英雄譚 ―スピの彼女にスピられて勝手に勇者になる俺― 無変むくう @mukuu_muhen

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