第四章 共鳴する未来図
家族や仲間たちの変わらぬ支えを受け、タケルは再び研究室での思索に没頭した。
高橋氏の厳しい言葉が、彼の頭の中で何度も反響する。「具体的なメリットが見えない限り…」。ならば、その具体的なメリットを、誰の目にも明らかな形で提示するまでだ。彼は、ワープゲートを既存の交通機関と敵対させるのではなく、それらと巧みに連携させることで、双方に、そして地域全体に利益をもたらす新たな未来図を描き始めた。
タケルの頭脳はフル回転し、次々とアイデアが湧き出てきた。
まず、災害時の緊急輸送路としての活用。地震や津波、豪雨などで陸路が寸断された際、ワープゲートは人命救助や救援物資の輸送に絶大な威力を発揮するだろう。次に、観光客誘致の切り札としての可能性。都市部から波音村のような風光明媚な過疎地へ、あるいは点在する観光地同士をワープゲートで結ぶことで、これまでにない魅力的な観光ルートを創出し、地域経済を活性化できる。さらに、物流の効率化。鮮度が命の生鮮食品や、時間的制約の厳しい精密部品などを、ワープゲートを使えば瞬時に、かつ低コストで輸送できる。これは、生産者にとっても消費者にとっても大きなメリットとなる。そして、通勤・通学の補完。既存の鉄道やバスではカバーしきれないニッチな区間を結び、住民の日常生活の利便性を向上させることも可能だ。
これらのアイデアを具体的な計画に落とし込み、詳細なデータやシミュレーションを添えて資料にまとめたタケルは、権三村長に相談した。村長はタケルの新たな構想に目を輝かせ、すぐに動いた。彼の巧みな根回しにより、数日後、波音村役場の会議室には、再びタケル、遠藤氏(東北電力ネクスト)、そしてJR東日本の高橋氏が一堂に会することになった。前回とは異なり、部屋には張り詰めた空気の中にも、どこか解決への期待感が漂っていた。
「高橋さん、遠藤さん、本日はお集まりいただきありがとうございます」
タケルは、少し緊張しながらも、力強い口調で切り出した。
「先日は、私の説明不足もあり、ワープゲートが既存の交通機関に与える影響について、ご懸念を抱かせてしまいました。しかし、改めて検討した結果、ワープゲートは決して皆さんの事業と競合するものではなく、むしろ強力なパートナーとなり得るという結論に至りました」
タケルは、用意した資料を広げ、災害時輸送、観光客誘致、物流効率化、通勤通学支援といった具体的な連携案を、熱意を込めて説明した。それぞれの案について、既存交通機関との役割分担や、期待される相乗効果、そして地域全体への経済波及効果などを、データに基づいて詳細に示した。
遠藤氏は、タケルの説明を聞きながら大きく頷いていた。彼はすでに、ワープゲートがもたらす新たな電力需要の安定化と、村が主導する再生可能エネルギープロジェクトの推進という、電力会社としての明確なメリットを認識していた。タケルの提案は、そのメリットをさらに確固たるものにするものだった。
「浜崎さんのご提案、非常に興味深く拝聴しました。特に、災害時における迅速な電力供給と連携した人道支援という観点は、我々エネルギーインフラを担う企業としても、大いに共感できるものです。全面的に支持します」
と、遠藤氏は明確な支持を表明した。
一方、高橋氏は、腕を組んだまま厳しい表情を崩さずにタケルの説明を聞いていた。しかし、タケルが具体的なデータや事例を挙げて説明を進めるうちに、その表情にわずかな変化が見え始めた。特に、ワープゲートを新幹線の駅と接続し、広域からの観光客を波音村のような魅力的な過疎地域へ誘致するというアイデアには、彼の目が鋭く光った。それは、JRが長年課題としてきた地方路線の活性化や、新たな収益源の確保に繋がる可能性を秘めていたからだ。
「…なるほど。確かに、お話の通りに進めば、我々にとってもメリットがないわけではなさそうだ」
高橋氏は、ようやく重い口を開いた。
「特に、新幹線との連携による観光客誘致や、災害時の代替輸送手段としての活用は、検討に値するかもしれません」
その言葉は、タケルにとって大きな前進だった。権三村長がすかさず助け舟を出す。
「高橋さん、ありがとうございます。でしたら、まずは実証実験という形で、この連携の可能性を具体的に検証してみませんか?例えば、この波音村と、最寄りの新幹線駅、そして県庁所在地である盛岡市を結ぶ形で、期間限定のワープゲート運用を試みてはいかがでしょう。費用については、村の予算と、クラウドファンディングで集まった資金、そして遠藤さんの会社からもご支援いただけるとのことです」
高橋氏はしばらく考え込んでいたが、やがて顔を上げ、タケルと遠藤氏、そして権三村長を順に見渡した。
「…分かりました。そこまでおっしゃるなら、実証実験という形で協力しましょう。ただし、あくまで実験です。安全性や経済効果、そして既存交通網への影響を厳密に検証し、その結果次第では、計画そのものを見直す可能性もあることをご承知おきください」
「もちろんです!ありがとうございます、高橋さん!」
タケルは、思わず立ち上がり、深々と頭を下げた。
こうして、タケル(発明者)、遠藤氏(電力会社)、高橋氏(JR)という、それぞれの立場と利害が異なる三者の間に、ワープゲートの実用化に向けた協力体制が奇跡的に構築されたのだ。それぞれの知見やリソースを持ち寄り、具体的な実証実験計画が練られていった。
数ヶ月後、波音村と最寄りの新幹線駅、そして盛岡市を結ぶ3地点に、ワープゲートが設置された。事前に公募された地域住民や観光客モニターが、期待と興奮の面持ちで、次々とワープゲートを通過していく。初めての瞬間移動体験に、誰もが驚きの声を上げ、その利便性と快適さに感動していた。物流実験では、波音村で朝採れたばかりの新鮮なアワビやウニが、わずか数分で盛岡市内の料亭に届けられ、その鮮度の高さに料理人たちも目を見張った。災害時を想定した避難訓練も行われ、高齢者や体の不自由な人々を迅速かつ安全に避難させることに成功した。
実証実験は大成功を収め、その様子は全国のメディアによって好意的に報道された。「未来の扉、ついに開く!」「三陸発の技術が日本を変える」といった見出しが新聞紙上を飾り、以前のネガティブな論調は影を潜めていた。タケルのもとには、国内外から多くの賞賛と問い合わせが寄せられた。
この成功は、タケルの技術力はもちろんのこと、立場の異なる関係者がそれぞれの利益だけでなく、地域全体の発展という共通の目標を見据え、対立ではなく協調の道を選んだ結果であった。それは、まさにタケルが目指した「すべてにWin-Winとなる」未来図が、現実のものとして共鳴し始めた瞬間だった。
リアス式海岸の美しい空に、希望の虹がかかったように見えた。
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