貞操逆転世界に転移した俺、無垢なフリして優しく接しただけなのに『神』扱いされて溺愛される 〜男女比1:1000の学園で実は絶倫だとバレたら大変なことになりました〜

大気圏

第1話 境界線はターミナル駅

「……よし、時間は大丈夫。気合入れていくか」


直人(なおと)は、鏡を見るまでもなく、新しい制服の襟をピシッと正した。

今日から始まる高校生活。中学時代の親友、山田や髙橋も同じ高校だ。高校の最寄り駅で待ち合わせて、馬鹿話をしながら校門をくぐる――そんな「当たり前の日常」が続くはずだった。


ターミナル駅での乗り換え。

学校の説明会や入試などで、何度か通った経験があった為、慣れた足取りで反対側のホームに停まっている電車に飛び込む。

だが、自動ドアが閉まった瞬間、直人は言いようのない違和感に襲われた。


(……なんだ? 空気が、やけに……甘い?)


普段の通勤電車なら、おっさん共の淀んだ汗の匂いや、むせ返るような加齢臭が混じっているはずだ。

しかし、この車両に満ちているのは、春の嵐のようなシャンプーの香りと、華やかな柔軟剤の匂い。


顔を上げてみて、直人は絶句した。

車両の端から端まで、視界に入るすべてが「女性」だった。

女子高生、OL、マダム。

しかも、全員が雑誌のモデルと言われても信じてしまうほどの美女ばかりだ。

その彼女たちが、一斉に――まるで獲物を見つけた肉食獣のような、熱を帯びた瞳で、直人を凝視している。


(な、なんだ!? 女性専用車両に間違えて乗ったか!?)


焦ってドアの表示を確認するが、そんなステッカーはどこにもない。

電車が走り出し、凄まじい乗車率で周囲との距離がゼロになる。

背中に当たる柔らかい感触、腕に触れるしなやかな肌。


(やばい……っ! この状況で少しでも手が当たったら、人生が終わる!)


現代日本の男子高校生として叩き込まれた「冤罪防止」の生存本能。

直人はとっさに、「私は一切抵抗しません」と言わんばかりに両手を高く上げ、吊り革をガッチリと掴んだ。


その時だ。


『急停車します、ご注意ください』


無機質なアナウンスと同時に、激しい揺れが襲う。


「あ、きゃっ……!?」


直人の目の前にいた、小柄な女子高生がバランスを崩した。


(危ない!)


直人は反射的に、吊り革を離した左手で彼女の肩を抱き寄せた。

さらに、彼女が壁に叩きつけられないよう、自分の身体をクッションにして受け止める。


「……っ、ふぅ。大丈夫? 怪我はない?」


直人の腕の中にすっぽりと収まった少女は、栗色のふわふわしたボブカットが可愛らしい、小動物のような女の子だった。

見上げた彼女の瞳は、守ってあげたくなるような潤んだタレ目で、驚きで丸くなっている。

吊り革に手が届かないほど小柄な彼女からは、日向の綿菓子のような、淡くミルクっぽい甘い匂いがした。

直人は彼女を気遣い、これ以上ないほど優しい声で言った。


「また揺れるかもしれないから。……俺の服の裾、掴んでていいよ。それか、腕でも。嫌じゃなければ、だけど」


その瞬間、車内の至る所から「ヒッ……!」という短い悲鳴のような息を呑む音が漏れた。


(え、俺、なんかマズいこと言ったか!?)


直人の不安を余所に、少女は顔をリンゴのように真っ赤に染め、震える手で直人の袖をぎゅっと握りしめた。


(な、何この男子……。触っても、怒らないどころか、自分から……?)

(ありえない……聖母……いや、聖父だわ……)

(あの袖、一億円積んでも掴みたい……!)


周囲の女性たちの視線が、好奇心から「狂気」に近い熱狂へと変わっていくのを、直人はまだ知る由もなかった。


……

直人が座席の前に立っていると、急に目の前の席に座っていた女性が急に立ち上がった。

その女性は凛とした涼しげなツリ目が印象的な、モデルのようなスーツ姿の美人だった。

彼女は、艶やかな黒髪をハーフアップにし、座席に座ってコンパクトで化粧直しをしていたのだが、直人に気づくや否や、弾かれたように立ち上がったのだ。


「あ、あの! ど、どうぞ! こちらへお座りください!!」


「えっ、いえ、俺は男なんで大丈夫ですよ」


「滅相もない! あなたのような尊いお方が立っているなど、国家の損失です! さあ!」


(国家の損失……!?)


あまりの気迫に押され、直人は困惑しながらも小柄な女の子に席を勧めた。


「せっかく譲ってもらったのに申し訳ないんですが、また揺れたら危ないから、君が座って?」


彼女は驚愕したような表情を浮かべた。


(え? 男が女のために席を譲る? 私は夢を見ているの?)


スーツ姿の女性からも熱い視線を感じながら、直人は制服を掴んでいる小柄な女子高生に席を譲ろうとするが、彼女は悲しそうな顔をして、頑なに座ろうとしない。


(席に座ったら、もうこの男の子の服が掴めなくなっちゃう。そんなの嫌!)


少しの時間が流れるが、小柄な女子高生が全く動かないので、仕方がなく直人は自分が座る事にした。スーツの女性からの好意を無駄にしてはいけないと思ったのだ。

ちなみに、小柄な女子高生は直人の服を掴んだままだ。


しばらく電車に揺られていると、隣に座っていた別の女子高生が、ウトウトと船を漕ぎ始めた。

カクンと、直人の肩に頭を預けてきたのは、透き通るような白い肌に、さらさらとした薄紫髪色でロングが美しい、清楚な雰囲気の少女だった。

目を閉じている彼女の顔は、スッと通った鼻筋に、長く密度の高い睫毛(まつげ)が影を落としており、まるで精巧な人形のようだ。

彼女からは、洗い立てのシーツのような清潔感のある石鹸の匂いと、柑橘系の爽やかなシャンプーの香りが混ざり合って漂ってくる。


(おわっ、寝ちゃった……。うわっ、めちゃくちゃいい匂い。それに、すごく綺麗だ……

彼女も疲れているかもしれないし、寝かせといてあげよう)


直人は、彼女の体温を肩に感じ、漂ってくる甘い匂いに内心で「ラッキー!」とガッツポーズを決め、彼女が寝やすいように少し肩の角度を下げてやった。

直人は元の世界でも、困っている人を放っておけない性格だった。

それどころか、彼は「人並みの男子高校生の性欲(猿並み)」を持っている。

女の子に免疫のなかった直人は、股間が元気になりそうなのを必死に抑えるのに苦労した。


(ここでおっ勃てたら、通報されても文句言えないもんな)


そんな直人の内心はいざ知らず、立っている女性たちがスマホのカメラ(音消しアプリ)で直人を連写する。


(見て……寝顔を優しく見守ってる……)

(あんなに無防備に、女に肩を貸す男の子がいるなんて……)

(え?あの男の子、股間の部分膨らんで無い?まさか女の子が近いから興奮してるの?いやいや、そんな男は物語の中だけか……)

(ここは天国なの? 私は今、死んで天国にいるのね!?)


……

「……ようやく着いた。なんか、疲れたな……」


学校への最寄り駅へ電車が着く。

隣に座っていた薄紫の髪色の女子高生は、途中で起きたように見えたが、結局最後まで直人の肩に頭を寄せて、目を瞑っていた。

服を掴んだ栗色の髪の女子高生も、直人が降りるまでずーっと服を掴んでいた。

普段女の子と接する機会のない直人は、役得だと感じながらも、これまでにない気疲れを覚えていた。


駅前で待っていても、通り過ぎるのは女子ばかり。ようやく見かけた数少ない男子は、数人の女性に仰々しく守られながら、不機嫌そうに歩いていた。


(……おかしい。何かが、根本的に狂ってる)


「……それにしても、あいつら、遅いな」


約束の時間を5分過ぎても二人は現れない。

不審に思い、山田たちに催促の連絡を入れようと通話アプリ「MINE」を開く。


「……え?」


直人の指が止まった。

いつも使っているはずの「いつメン(男子3人)」のグループトークが、跡形もなく消えている。

履歴を探しても、山田や髙橋の名前すら見つからない。通信障害か、あるいは――。


「……ま、いいか。あいつら、先に学校行ったのかも」


不安を抱えたまま、直人は高校の正門をくぐる。

すると、校門の影から一人の女性が飛んできた。


「あら! あなた、新入生男子の、直人くんね!? 早く、こっちへ!」


直人の腕を強引に引くその女性は、この学園の教師だった。

ゆるくウェーブがかった明るいピンクの髪に、おっとりとした優しいタレ目。

そして何より、歩くたびに激しく揺れる、暴力的なまでに大きなバストが、彼女の白いブラウスを内側から猛烈に押し広げている。

唇の端にある小さな艶ぼくろが、彼女の美しさをより妖艶に引き立てていた。


「あ、あの……先生? 腕、当たってます……」


「あら、ごめんなさい。でも急がないと、あなたが女子たちに囲まれて大変なことになっちゃうわ」


美女巨乳教師に半ば拉致されるように案内されたのは、まるでホテルのスイートルームのような豪華な部屋だった。

ふかふかのソファに、専属のメイド(のような格好をした女子生徒)が淹れてくれた紅茶。


(おかしい。山田も髙橋もいない。……それどころか、さっきから男の声を一度も聞いていないぞ?)


この高校が共学化したばかりなのは知っている。

だが、それにしてもだ。

不安に駆られながら、直人は入学式会場である体育館へと案内された。


「新入生男子、入場でーす!!」


女性教師の、割れんばかりの大声。

重厚な扉が開かれた瞬間、直人の耳に届いたのは――「地鳴り」のような歓声だった。


「キャアアアアアアアアア!!」

「本物よ!! 本物の男の子よ!!!」

「可愛い!! 信じられないくらい、優しそうな顔してる!!!」


直人は立ち尽くした。

広い体育館を埋め尽くす、数百人の女子生徒たち。

壇上に並ぶ、二十数名の女性教師たち。

そして、整然と並べられたパイプ椅子の群れの中で。

たった一つだけ、最前列の中央にポツンと置かれた、金色の装飾が施された王座のような豪華な椅子。


(……待て。嘘だろ?)


どこを見渡しても、短髪の、自分と同じ制服を着た「男」の姿がない。

中学の友達も、他校から来たはずの男子も、影も形もない。

校長が感極まった様子でマイクを握る。


「……皆さん。ついに、ついに我が校に……奇跡の結晶である『男子生徒』が、一名、入学されました!」


(……やっぱりそうだ。山田も髙橋も……この世界には、いないんだ)


スマホのMINEグループの消失。

ありえないほど美人とエロい視線ばかりの街。

さらに、自分一人だけの「男子生徒」という扱い。


(ここは、俺の知っている日本じゃない。……俺、男女比も貞操観念も狂った、パラレルワールドに迷い込んだんだ……!)


冷や汗を流しながらも、直人は内心で、自分の中の「猿」が歓喜の声を上げるのを感じていた。

目の前の美女、美少女たちの、あまりにも熱烈で飢えた視線。


(……じゃあ、この学校の美女、美少女たち全員が、俺を狙ってるってこと……?

 ……最高かよ、この世界!!)


直人の、優しさと下心が入り混じった、前代未聞のハーレム生活が幕を開けた。

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