Break it!! -壊せ!!-

Mostazin

Break it!! -壊せ!!-

 僕と外の世界を繋ぐものはこの窓ガラスからの景色だけだ。


 部屋から見える外の世界は綺麗に見える。


 でも、綺麗に見えるだけで、本当に綺麗なわけでは無い。


 この世は嫌でも強者と敗者が出てしまう仕組みになっている。


 動物でもライオンや虎が弱肉強食のトップに立ち、シマウマは彼らに捕食されてしまう。


 それは人間同士でもそうだ。僕みたいな陰気でコミュニケーションもまともに取れない奴には友達なんてできない。


 そして、いつの日か、僕を見る目線が段々と冷ややかになっていき、誰も僕に手を差し出してくれなくなった。


 そうなると、僕は家の外に出るのが怖くなった。


 なぜなら、僕以外の人間が冷たい目線で僕を見ている気がしたから。

 

 そういう考えや疑念が積み重なり、高校一年生の三学期のある日、僕は学校に行けなくなってしまった。


 そして、そこから、半年が経った。


 学校に行けなくなった時はまだ結構寒かったのに、外は随分と暑く、明るくなっていた。


 「そうか、もう夏休みになったのか」


 僕は一瞬外を見たが、すぐに布団の中に潜り込んだ。


 今の僕には外の景色が眩し過ぎる。


 その時、急に僕の部屋の窓ガラスが大きな音を立てて割れた。


 ガシャーン!!


 驚きで飛び起きると、部屋の中に野球ボールが落ちていた。


 「やっば……」


 小さな声で女の子が外でそう言っていたのが聞こえた。


 久々に聞いた家族以外の生の声。


 だけど、心地よさより、僕は恐怖の方が強かった。


 なぜなら、強制的に外の世界と僕の世界を繋げられたからだ。


 だからなのかわからないが、僕は野球ボールをすぐに拾い、強く握りしめた。


 その時、勢いよく僕の部屋の扉が開いた。


 「マサル、どうしたの!?」


 そこにはかなり慌てている様子のお母さんがいた。


 というのも、いつもはちゃんとノックしてから入ってきてくれるのだが、それをせずに入ってきたから、慌てているのは確定だった。


 「えっと……」


 ピンポーン


 僕が答えようとした瞬間にインターホンが鳴った。


 「ちょっと、お父さん、出て!」


 お母さんは急ぎお父さんにそう伝え、僕を抱きしめた。


 恐らく、すごい嫌な事を考えていたかもしれない。

 不登校になった息子がとうとう……みたいな。


 だから、僕は早く事実を伝えることにした。


 「お母さん……外から野球ボールがきて、窓ガラスが割れたんだ」


 僕がそう伝えると、お母さんは安心したのか、僕を抱きしめている力がだいぶ緩んだ。


 その時、階段を上がる音が聞こえて、すぐに半分開いた僕の部屋のドアにお父さんの顔が出てきた。


 「お母さん、バッティング練習やっていたら、窓ガラス割れちゃったのだと」


 お父さんがそう言うと、その隣から日に焼けた女の子の姿が見えた。


 「すみません……。ちょっと野球の練習をしていたら、ガラスを割ってしまい……」


 その女の子は申し訳なさそうにそう言った。


 それから、女の子は何度も僕達家族に謝っていた。


 その姿に特にお母さんが反対に申し訳なさを感じてしまったようで、そのまま一緒に昼食を彼女と食べることになった。


 僕は半年ぶりの家族以外の人との食事で変に緊張していた。


 だからか、僕はずっと黙って、食事をしていた。


 その反対に彼女は明るい性格なようで、家族と仲良く話をしていた。


 その会話によると、彼女の名前は橋本マドカといい、僕と同じ高校二年生とのこと。


 現在は近くに親戚が住んでいるようで、部活が休みの1週間に旅行に来ているらしい。


 この彼女のおかげなのか、久々に家族の事についても聞くことができたような気もしていた。


 「ごちそうさまでした。後、本当にすみませんでした。窓ガラスの弁償って……」

 「大丈夫よー。その代わり……ね。後、気をつけて野球の練習してね」

 「分かりました! ありがとうございます」


 彼女はそう言って、去っていった。


 何度も言ってしまうが、久々の家族以外との繋がりだったが、今では変な意味で心地よくを感じていた。


 部屋に戻るとそこには窓ガラスにぽっかりと開いていた穴。


 正直言うと、エアコンをつけているのにそこに穴があるせいで、部屋が外とあまり変わらない温度になっていた。


 だが、それも悪く無いと感じていた。


 でも、同時に僕はそれだけでは、変わることはできないとも感じていた。

 

 きっと、明日も外に出ることはできないのだろう。






 だが、その予想はすぐに外れた。


 「マサル君、ちょっと手伝ってよ!」


 なんと、次の日の朝に、彼女が外から僕の名前を大声で呼んできたのだ。


 当然窓ガラスにできた穴は空いたままで、虫が入らないように網戸をかけるという応急処置だったから、外からの音がよく聞こえた。


 その声が彼女の声だと分かるくらいには。


 正直にいうと、彼女から声をかけられて嬉しかった。


 でも、嬉しさよりも恐怖の方が大きく、外に出れる自信なんてものはなかった。


 「む……無理だよ」


 だから、僕はそう彼女に答えた。


 「え? なんて?」


 でも、随分と長い事を声帯を使っていなかったから、彼女に僕の声は届いていないようだった。


 「とりあえず、そっち行くね」


 彼女はそう言って、すぐに家の中、僕の部屋へと入ってきた。


 「マサル君、キャッチボール手伝ってよ」


 彼女は仁王立ちで僕を見ながらそう言った。


 僕はこの瞬間、お父さんとお母さんは何をしてるんだと思ったと同時に、昨日の出会いを後悔した。


 僕は彼女の質問に答えずにベットに潜り込んだ。


 すると、彼女は僕を引きずり出した。


 僕は運動も全くしておらず、ガリガリな体だったので、女の子にもパワーで負けてしまうくらいだった。


 当然、彼女に勝てる訳もなく、ベットの外に出され、そのまま引きずられるように外に強制的に連れ出された。


 「二人とも気をつけるのよー」


 お母さんもお父さんもそれに我関せずみたいな感じで彼女の行動を放っておいた。


 だから、外が怖いとか思う間もなく、強制的に玄関の外に出された。


 「私がいるから大丈夫」


 彼女は僕の手を引きながら、砂浜まで走った。


 僕は髪がボサボサ、格好はパジャマのまま引きずられた。


 そして、砂浜に到着するや否や彼女は僕に野球のグローブを渡した。


 「早くキャッチボールするよ!」


 彼女は僕にそう言って、一回大きくミットを叩いた。


 僕はその時、なんて横柄な人なんだと少しのイラつきを感じていた(昨日とは随分とイメージが変わっていた)。


 本当なら久々の外なんだから、もっと感慨深くなった方がいいのではと思うのに、そんな時間も彼女はくれなかった。


 僕がグローブを付け終えるとすぐに彼女はボールを放ってきた。


 僕は慌ててキャッチをする。



 パンッッッッ!



 海岸に乾いた綺麗な音が響いた。


 「マサル君、キャッチ上手いね」


 彼女は笑顔でそう言った。


 それから、僕と彼女は何度も何度もボールの交換をした。


 だけど、僕は野球をしたことがないから、強くは投げられなかった。けど、彼女は真剣に僕のボールを受け取ってくれていた。


 ちなみに、そこに会話はなかった。


 ただそこにあったのは、何度も何度も乾いたグローブとボールのぶつかる音。


 でも、それが心地よかった。


 キャッチボールをし始めてから、何分、何時間が経ったのだろう。


 太陽は随分と上に上がっていて、僕の顔には、汗がベットリついていた。


 「マサル君、休憩しよう」

 

 彼女がそう言ったので、僕は縦に頷いた。


 そして、彼女と僕は砂浜にある階段に隣同士で座った。


 でも、特に会話はなかった。


 だからか、波の音がやけに鮮明に聞こえた。


 座ってから10分くらい経った時に、彼女は僕に質問をした。


 「マサル君は夢ある?」


 唐突な彼女の結構深い質問。


 「……ない……よ」


 僕はいきなりすぎて、そう短く答えることしかできなかった。


 「そっか」


 彼女はそう答えて、また黙ってしまった。


 僕は空気を壊してしまったと申し訳なく思い、彼女に同じ質問をすることにした。


 「き……君には夢があるの?」


 彼女は驚いた顔で僕を一瞬見てから、海に視線を戻してこう答えた。


 「うん。甲子園で野球するって夢があるの」

 「え……でも、甲子園って」

 「そう、私は出れないの。女だから」


 彼女は弱い声でそう答えた。


 そう、彼女の夢は現時点では確実に叶わない夢だったのだ。


 僕はなんて事を聞いてしまったのだと後悔し、どう声をかけていいかわからなかったからとりあえず、黙ることにした。


 すると、彼女は続けて話をした。


 「小学生の時に見た甲子園の試合がどうしても忘れられないの」


 僕は彼女の言葉をそのまま静かに聞くことにした。


 「何かね、野球部のマネージャーになれば、甲子園に立てるかもしれないと言われたの。でも、私はそれだけは絶対に嫌だ。私は選手として甲子園に立ちたい」


 彼女は手元にある野球ボールを見ながらそう言った。


 僕はそのボールを握っている彼女の手が震えていることに気づいた。


 その時、僕は何か、スイッチのようなものが入った気が、何かが壊れたような気がした。


 「なら、マネージャーにならなくていいと思う。けど、野球は続けてよ」

 「え?」

 「ぼ……僕はどうせ暇なんだ。だから、君のその夢、僕も叶える為に頑張りたい」

 「え……え、意味がわからないんだけど」


 うん。僕も自分が何言ってるか分からない。


 けど、思ってしまったんだ。

 

 君の夢を僕も叶えたいって。



*******



 「WPBLの開幕戦がまさか日本で開催するなんて、誰が想像したのでしょうか?」

 「まあ、誰も想像していなかったでしょうけど、MLBの開幕戦は韓国とか日本でやってますので、あり得ない話ではなかったですが……」

 「やっぱり、世界的スターになった伊藤マドカ選手の影響とあの映画でしょうか?」

 「そうですね。そうとしか言えないですね」


 夕方のテレビの番組でそう言っていた。


 「だってさ、世界の伊藤選手」


 僕はそのテレビを見ながら、そう言った。


 「やめてよ。◯◯さんの方が全然すごいのに、恥ずかしいよ」

 「でも、努力の量は君も負けてないでしょ?」


 僕がそう言うと隣にいる彼女は小さく頷いた。


 「私はもう寝るわ。明日は大事な試合だし」

 「そうだね。君の夢の舞台だ。……でも、随分と時間がかかってごめんね」

 「何言ってるの。貴方がいたから、ここまで来れたのよ。後、お母様との約束のおかげね」

 「なるほど……。まあ、ならよかったよ」


 僕がそう言うと彼女は僕に軽く口付けをして、寝室に向かっていった。


 「では、その伊藤マドカ選手を元にした映画、『Brake it!!』を今から放送します。脚本を書いたのはご主人の伊藤マサル監督です。では、また明日、甲子園でのWPBLの開幕戦の結果と共にお会いしましょう」


 テレビはそう高らかにお別れの挨拶をしていた。

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