彼女が祝うのであれば、それは。

うびぞお

彼女が祝うのであれば、それは。

 おおよそ真面目な女子大生であるカヌキさんこと香貫かぬき深弥みやは、無類の映画好きであり、特にホラー映画を好んで観ている。そんなカヌキさんは、大人っぽいけれどちょっとばかしワガママなミヤコダさんこと都田みやこだ架乃かのとお付き合いをしていて、古い一軒家で同棲生活を送っている。

 そんな二人のなり初めなどは、さておいて。





 __________





 事の起こりは、カヌキさん宛の1通のメッセージ。


 それは、カヌキさんのお兄さんである、広大こうだいさんからだった。

 広大さんは、カヌキさんより8歳年上で、実は、


 とんでもなく恐ろしく凄まじくびっくり仰天の妹大好きシスコン男なのである。



『親愛なる僕の妹、深弥へ

 明日が何の日か、君は覚えていてくれている筈だ。

 たまにはお兄様である僕の誕生日を祝ってほしい。

 兄より


 愛を込めて』


 

「……キモいです。特に最後の一文」

 カヌキさんは顔を顰めた。香貫深弥が可愛くて可愛くて仕方がない、香貫深弥を幸せにしたい、そんな気持ちだけなら、もしかしたら広大さんの方がミヤコダさんより上かもしれない。ただ、当のカヌキさんは、広大さんのそんな重すぎる妹愛を約20年押し付けられて、もはや「うんざり」を通り越して「鬱陶しいにも程がある」というレベルである。カヌキさんが広大さんの反対を押し切って実家から新幹線の距離の県外の大学に進学した理由の一つは、広大さんの妹への偏愛から逃げるためであったと言っても、まぁ過言ではない。知らんけど。


「ま、もう祝ってあげるような年齢でもないし、無視するしかありませんね」

「それは、広大サンがちょっとカワイソウじゃない」

 カヌキさんの決断に、ミヤコダさんが心のこもらない声で広大さんをフォローした。しかし、カヌキさんは、それにすら耳を傾けず、毒を吐く。

「兄貴なんて、犬のう⚪︎こ踏んじゃえばいいのに」

「それは文太さんがカワイソウだわ」

 文太さんというのは、香貫家の飼い犬アイドル、雌だけど文太さん、シーズーである。犬のう⚪︎こより価値のない兄がこの世に存在するらしい。


 ちなみにだが、ミヤコダさんは広大さんにかなり疎まれている。

 理由は、広大さんにとって、ミヤコダさんは愛する妹を略奪した簒奪者だからだ。挙句、ミヤコダさんのことを『妹にまとわりついているギラギラした蛇女』と罵ったことがある。ところが、「蛇女って、メデューサ?、やだ私ってメデューサ? 受っけるー、そんな悪口、面と向かって初めて言われちゃったぁ」と、なぜかミヤコダさんには大ウケしてしまった。それで、広大さんはミヤコダさんに更に腹を立て、逆に、ミヤコダさんは広大さんを揶揄い相手としていたく気に入っている、という関係になった。

 なお、カヌキさんはカヌキさんで、どっちにも呆れているが、「なんか仲良くなったみたいで良かった」と言うだけで、間を取り持つ気などさらさらない。。

 


「……そういえば、『お兄さんの誕生日を祝う』映画があるんですよ」

 と、ここで脳内映画検索システムが稼働するのがカヌキさんである。 

「ほらぁ?」

「残念ながら、サスペンス・スリラーですね」

 そして、一緒に映画を見始めてしまうのが、この二人、カヌキさんとミヤコダさんなのである。


 

 主人公は銀行の社長だが、仕事ばかりの孤独な男。男の父親は48歳で自死しており、男も遂にその48歳の誕生日を迎えた。そんな男に、誕生祝いとして、弟から人生をもっと楽しく過ごすためのプレゼントを贈られた。ところが、そのプレゼントのために、男は散々な目に遭うことになる。だが、それは……


「なんたる、大どーんでーんがーえし!!」

 ミヤコダさんが両手を上げた。しかし、カヌキさんの反応は普通だ。

「何よ、深弥みや、この映画、面白くなかったの?」

「いえ、予想も付かなかったオチがとても面白かったですよ。この監督の映画にはハズレはないですし。ただ、見終わってしまったので現実に戻っただけなんです」

 カヌキさんがためいきをつく。

「あ、そうだった。広大さんの誕生祝い!」

 ミヤコダさんは既に広大さんのことを忘れていた。そして、思い起こす。この映画好きの恋人は、なんだかんだで善人なので、兄のことを気持ち悪いと罵りながらも、結局は、嫌ってはおらず、ガン無視なんてできやしないのだ。


「分かった! ね、深弥。『祝う』と『呪う』なんて紙一重の違いなのよ」

「はい?」

「今見た映画だって、主人公は呪いのような祝福を受けたでしょ」

 ミヤコダさんが何を言いたいのか、意味が分からなくてカヌキさんは首を傾げる。

 確かに、今見た映画は、弟から兄への呪いのようなお祝いの映画だった。


「深弥の幸せそうな写真を送ってあげればいいと思う。わたしが撮ってあげるわ。スマホ貸して」

 言いながら、ミヤコダさんはカヌキさんのスマホを取り上げた。カヌキさんは訳が分からず混乱している。

「いいから笑って、深弥」 

 ミヤコダさんはスマホのカメラアプリを起動し、反対の手をカヌキさんに伸ばした


「わたしがめちゃくちゃ幸せな顔をしたあなたの写真を撮るから、それを広大さんにお祝いに送ってあげて。きっと喜んでくれるわ」

 そう言って、ミヤコダさんがほくそ笑んだことに、カヌキさんは気付かなかった。






 かくして


 香貫広大の誕生日、彼のスマホにメッセージが届いた。

 妹からの待望の待望の待望のお祝いのメッセージだ。

「一応親愛なるお兄さま。お誕生日おめでとう」

 そのメッセージの後に続いた画像のカヌキさん


 ミヤコダさんと頬を寄せ合い

 ミヤコダさんに抱きしめられ

 ミヤコダさんに頬にキスされて


 どのカヌキさんも、恥ずかしそうだけれど、とても幸せそうな表情だ。




 そして、最後には、明らかにキスしているであろう二人の首から下を映した写真

 

 

  





 妹から誕生と称して贈られた愛する妹の幸せそうな写真は、広大さんにとって、妹の恋人からのいの写真でもあった。



 おめでとう!香貫広大

 







 ☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★

 ネタにした映画

「ゲーム」(1997)

 なかなか話を思い付かなくて、お兄ちゃんの登場となりました。本編にもほとんど出番がなかったので、カヌキさんのお兄ちゃんの存在を知らなかった方、ごめんなさい。しかも、なんか変な話だし(汗)。

 


 さて、カクヨムコン11【短編】参加4本目になります。

 そして、『お題フェス』参加3本目、お題『祝い』です。

 1本目お題『遭遇』:『彼女との遭遇」

https://kakuyomu.jp/works/822139841667177282

 2本目お題『卵』:『彼女が卵を、割ってしまった。」

https://kakuyomu.jp/works/822139842160211172

 こちら2本は予想していたよりも多く(自分比)の方々に読んでいただいて、★や♡もいただいております。ありがとうございます♪


カヌキさんとミヤコダさんシリーズ以外の短編でも参加しています。もし未読でしたら、よろしければ、読んでみて下さい。

 百合×アイドル 6000文字の割に濃厚?(ちょっとH)な、いかにも、うびぞおっぽい話です。

『あなたの特別になりたいあたしは誰かの偶像』

 https://kakuyomu.jp/works/16818622172080977946

 こちらは苦戦中。できれば★をちょんちょんちょんとしていただけると嬉しいです。


 うびぞお  




 


 


 

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彼女が祝うのであれば、それは。 うびぞお @ubiubiubi

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