第7話 わたしの未来と絶望
わたしは、天狗坂君にずっと嘘をつき続けてきた。本当はわたしのことを最初からすべて彼に曝け出せばよかったのかもしれない。しかし、嘘に嘘を重ねた今となっては、もはやそれをつきとおすことしかできない。
わたしが本当のことを伝えることで、天狗坂君はわたしを憐れんだり、わたしに悲しい顔を見せたりするのだろう。彼にそんなことはさせたくなかった。彼には将来のスターへの道を、何の邪魔もなく歩み続ける姿のままでいてほしい。そしてわたしと彼との関係は、慈悲や遠慮のない対等な今の関係のままでいたかった。
わたしは、幼いときから心臓の難病を患っていた。肺からの酸素を心臓がうまく体全体に送り出すことが出来ないという病気だ。治療をしなければ最悪の場合意識障害を起こし、死に至る。天狗坂君は、わたしが病気にかかっていることすら知らない。
小学校入学前までは、ほとんどが入院生活だった。その生活の中で、わたしが願っていたこと。それは、わたしの幸せな将来が見えるようになることだった。小さいときわたしは、大人になればなるほど幸せになるのだと思っていた。大人になれば、好きなことを仕事にして、行きたいところに自由に行けると周りから聞かされていた。だからわたしの将来が見えれば、今の辛い生活を耐え抜くことが出来るのだと信じていた。
そして小学校2年の時だった。
「ねえママ、わたし病気良くなって学校行けるみたいだよ」
「そうだね、そうなるといいね美彩」
「違うわたし見えるの、病気がよくなること。わたし絶対にもっと広い世界に行けるんだよ」
わたしは、自分の病気がどうなるのか少し先の未来まで予知することが出来るようになったのだ。当然周りはそんなこと信じない。わたし自身も最初はそうだった。
だけど、わたしの予知はそれから面白いように当たっていく。いつ発作が起きるか、いつ入院しないといけないか、そしていつ退院できるのかすべてが当たった。予知して辛いこともあったが、年を取るにつれ症状が落ち着いていくことがだんだんと予知で分かるようになり、むしろ嬉しかった。
当たるたびに、もっと先の未来を見れるようになりたいと思った。きっと病気とは無縁の生活を大人になったらできるのだと信じていたのだ。どんなに苦しみの底にいても、我慢や努力をすればこの世界ではちゃんと報われて、絶望に打ちひしがれることなどないと思っていた。
わたしの予知能力は上がって、1年先のことまでも予知できるようになった。そして中学校に入ると予知通り入院をすることなく、定期的な通院だけで済むようになった。だから天狗坂君に病気のことを伝えなくても、彼から疑われることなくごく自然に中学生活を送ることができたのだ。
しかし、中学3年になってある時点より先の未来を見ることが出来なくなった。高校1年の9月に、わたしの予知では病院で人工呼吸器を付けながら意識がどんどん薄れていき、最後には真っ暗になって終わる。それ以降が続かない。
つまりわたしは、そのときに死ぬということなのだ。すべてを当ててきたわたしの予知がそう言っているのだから、ただただ事実として受け入れるしかない。将来はきっとよくなる、夢は叶うと信じて浮かれていた自分のことが、急に馬鹿らしくなった。なんだ、現実の世界は絶望であふれているじゃないか。
そのことがわかった時、わたしは天狗坂君にもこの苦しみを知ってほしいと身勝手ながら思ってしまった。前途有望としか思えない彼に、わたしみたいな人間がいるんだとわかってほしかった。だから学校からの帰り道、彼が大人気ゲームの話をし始めた時、わたしはこう言ったのだ。
「私はゲームの世界に入ってみたい。だってそこには、絶望がないはずでしょ? 天狗坂君はそんなことないか」
思いがけず話しながら泣きそうになってしまった。声が震えてしまった。彼は、そんなわたしの様子にびっくりしたのか、はっと真剣な目でわたしの顔を見たが、すぐにいつもの笑顔を浮かべてこう言った。
「美彩がどんな思い抱えてんのか知らないけど、俺も絶望感じるよ。だって俺サッカーしかできないんだ。クイズ番組とか見てると、莫大な知識量を持って周りから尊敬される人間になりたいと思うけど、俺はそっち側には行けないんだよなぁ。あと俺自分のことしか考えてなくてさ、サッカーでも全然連携取れたプレーができない。だから俺一人の個の力で何とかしないといけないんだ」
「それって絶望とは言わなくない?」
「まあそうかも。だけど生きてる限り、本当の絶望を味わうことはないだろ。俺たち人間って、どんな暗闇にいても光を諦めず求めてしまうと思う。あと希望が無くなったからこそ、気づけることもあると思うんだ」
そう言った後すぐに彼は、「やべ忘れてた!」と頭を抱えた。
「宿題やってなくて放課後職員室に来るように言われていたの、すっかり忘れてた。ごめん俺学校戻るわ。今度からちゃんとタスクのメモとるようにする」
「もーしっかりしてよ!」
天狗坂君は、そう言って手を振りながらダッシュで学校へと戻っていった。彼がいなくなった帰り道、堪えていた涙が一気にあふれ出た。
そして思った。わたしがこの暗闇の中でできること、それは天狗坂君にわたしの将来の夢を託すことなのだ。
レッドカード歴代最多記録の俺は、どん底からチート能力を得て、サッカーW杯を優勝する 田中ピノ吉 @kichitanaka11990
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