トー横キッズをやってたら、何故かメイドになった件

HAL

第1話 うん、ヤバい人だ

 新宿、歌舞伎町。そこは、きらびやかな光に溢れ、夜も眠らない街。そう言ってしまえば綺麗だけれど、実際はホストクラブや風俗店の立ち並ぶ、少しアレな所だ。

 

 そんな歌舞伎町の片隅に、トー横と呼ばれるところがある。TOHOシネマズの隣にあるその広場は、居場所をなくした子どもたちが集まる、溜まり場となっていた。


 私も、2年ぐらい前、中3の頃からトー横に通ってる。いわゆる、トー横キッズと言うやつ。


 家に帰ってる子もいるけれど、私は帰っていない。たぶん、半分くらいの子が、家に帰らず、ネカフェやホテルなどを割り勘して、暮らしている。


 トー横では、未成年飲酒は当たり前。オーバードーズや、何やら怪しげな薬を飲んでる子もいる。家に帰れない子は、生きるためにお金も稼がないといけないから、自ずと”そういう行為”に手を染めなければいけなくなる。


 きらびやかな街の影。それがトー横と呼ばれる場所。そんなところに住んでいる私の暮らしが、まさかあんなふうに変わるなんて。このときは、微塵も思っていなかった。





「今日の夜、どうするー?またホテル割り勘する?」


 涙袋を強調したメイクに、ダークカラーとフリルが特徴的な服。いわゆる地雷系と呼ばれるファッションをした友達が、スマホをいじりながら私に聞いてきた。


「うーん、そうしたいけど今の残金だと、2人での割り勘は厳しいかも。他にホテル泊まるって言ってる子とかいない?バレないように二人部屋に四人とかなら、泊まれるかも」


 私は財布の中身を思い出しなら、そう言った。確か、財布に残ってたのは5千円くらい。やすいホテルなら割り勘できるかもだけど、そういうホテルは狭すぎて、ネカフェのほうがマシに寝れる。


「そっかー。じゃあ、今日はネカフェに行く?それか、パパ捕まえてホテル代払わせるとか」


 友達の提案に、私は「うーん」と頭を悩ませる。


「残金少ないし、お金稼いどきたい気持ちもあるんだけどなー。でも、ここ数日まともに寝れてないし……」


 一昨日は警察がうろついてたせいで、トー横に集まれなかったし、昨日はなぜかどんちゃん騒ぎが始まって路上パーティになってしまい、眠れなかった。流石に三日目になると、肌の荒れが心配になってくる。


「今日はネカフェに泊まろっかな。明日、適当なパパ捕まえて、お金ゲットしてくる」

「おっけー。私は、そうだな……今日はパパ捕まえてくるよ。なんか靖国通りのあたりにみんな集まってるらしいし」

「わかったー。それじゃね」


 友達はそう言うと、靖国通りの方へと歩いて行った。

 私は、適当にスマホをいじりながら、ネカフェの方へと歩く。


(なんか、ご飯食べなきゃな……。てかコンシーラー切れかけてたんだっけ。また買いに行かなきゃ……)


 そんなことを考えながら、足を進める。その時、


「あ、ちょ待って待って――あぁ、切れちゃった……」


 駅前の交差点で待っているとき、急にスマホの電池が切れてしまった。


「まじかー。モバイルバッテリー充電し忘れてるのに……。早くネカフェ入って充電しよう」


 少し落ち込みながら、私は信号を渡る。そして、ネカフェのある路地に入ろうとしたその時、その男は私の前に現れた。





「ねえ君。ちょっといいかな」


 その人を見て最初に思ったのは、「ものすごく綺麗だなぁ」だった。もう、綺麗としか言いようのない、中性的なその顔立ちは、美術品のような美しさを持っていた。絹のように美しい白の長髪。きっと、女だろうが男だろうが、その魅力に魅入られずにはいられないだろう。しかし、


「あ、すみません。ちょっと急いでるんで」


 私は、急いでその場を離れることを選択した。なぜって?なぜなら、このトー横のある歌舞伎町で、イケメンが話しかけてくるのは、十中八九ホストクラブの勧誘だからだ。こういう勧誘にハマって、ホストに何十、何百万と貢いだ挙げ句、捨てられて破滅していったっていう子を、私は何人も見てきた。絶対にこの人について行ってはイケない。私の直感がそう語っている。


「ホストの勧誘とかは別の人にやってください。私はそういうの結構です」


 そう言って立ち去ろうとする。


「あ、ちょっと!ホストじゃないから話くらい聞いてよ!別に危害を加えるわけでもないし」


 立ち去ろうとする私を、その人はそう言って引き止めた。


「なら、なんだって言うんですか。そもそも、そんな目立つ格好した人に話しかけられたら、誰だって避けますよ」


 私は、その人に向かってそう言う。その人が着ている服は、厨二病臭い黒い長コートに、腰には金色に輝くベルト。奇抜なファッションの多い歌舞伎町だからなんとか浮いてはいないが、マンションの廊下とかですれ違ったら、速攻大家さんを呼ぶレベルだった。


「え、この格好そんなにヤバいの?僕、こういう服しか持ってないんだけれど……」

「…」


 その人は間の抜けた声で、そう言った。その姿に、私そんな沈黙を破ったのは、その人の、さらにヤバい発言だった。


「まあいいや。とりあえ君、うちのメイドになってくれない?」

「……は?」


 突然のぶっ飛んだ発言に、私は思わず言葉を失った。


「えっと、メイドというのは……」

 

 思わず、この場を離れることを忘れて、そう聞いてしまう。


「普通にメイドだよ。仕事内容はまあ、僕の家の家事全般をやってくれればいいかな」


 うん、ヤバい人だ。私はそう結論づけた。まず、私は16歳。見た目からも未成年ってことは分かると思う。そして、先程の発言。メイド?この日本で?

 未成年にその発言。私は、目の前にいる人をヤバい人認定し、さっさと逃げることにした。しかし、


「お給料は月100万もあれば足りるかな?もちろん家事で必要なモノの経費は別で払うけど」

「!?」


 私は耳に入ってきた単位に、驚きを隠せなかった。一ヶ月で百万円なら一年で1200万円。日本人の平均年収の三倍もある。


「えっと、それは本気で言ってるんですか…?」

 

 私は、そう疑いながら質問する。もしかしたら、若そうな女の子を見つけて、こうやってからかうのが趣味の変態なのではないか。いや、たぶんきっとそうだ。


「え、本気に決まってるじゃん。契約書でも書こうか?何なら今の会話を録音して、もし僕が払わなかったら労基にでも行ったらいいよ」


 そう言って、その人はコートの中から契約書らしきものを取り出し、ヒラヒラと見せる。


「で、どうする?僕としては、君が家のメイドになってくれたらとても嬉しいんだけれど……」


 その人は、私に先程の契約書を渡しながら、そう言った。私は契約書の内容に目を落としながらも、少し迷いの気持ちが生まれていた


(どうしよう。イタズラにしてはこの契約書、手が込みすぎてるし……。それに騙すような話し方じゃないんだよな……。それにもし月給の話が本当なら……)


 もしも、月に100万円ももらえるならば、私がこれまでトー横キッズだからと諦めていたことができるかもしれないし、高校や大学にも行けるかもしれない。私は悩んだ末に、その人にこう質問をした。


「                  」


 私のその質問に、その人は笑って「もちろん」と答えた。私は、その答えを聞き、契約書にサインをすることを決めた。


 今いる路地から見える、大通りの景色はとても綺羅びやかに見えていた。けれども、それが綺麗なだけでないことを、私は知っている。私は、新たな暮らしに期待と不安を抱きながら、この煌めきから出ていった。


 

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