勝者の君に祝杯を……
雲条翔
勝者の君に祝杯を……
……ふう。
さんざん歩いたな。
アルタノスの町外れって、お前の故郷はどんだけ田舎なんだよ。
駅からバスも出てないし。
ずーっと、徒歩だぞ、徒歩。体がクタクタだよ。
俺がこうして酒を持って、わざわざ歩いて、お前のところへ来たんだ。
あの「例の賭け」の結果は、言うまでもないよな。
レイリアに言われたんだ。ハッキリとな。
二人で飲みながら、昔話といこうじゃないか。
やっと合法的に酒を飲める年齢になったんだ、堂々と飲もうぜ。
ま、昔から、俺とお前は大人に隠れて、こそこそと飲んでたけどな。
ハイスクールの寮長に見つかったら怒られるぜ、とか言いながら、皆で夜中に回し飲みしていたもんな。
ジェイスとフレッドは一番の問題児コンビだな、とか笑われながらも、ルームメイトを煽って、一緒にバカばっかりやってたっけ。
お前はまだいいぜ、勉強ができたし、別名が「素行不良だけど秀才のジェイス」だろう?
格好がつくってもんだ。
俺なんてヒドイんだぜ、ついたあだ名が「脳筋フレッド」「暴力ゴリラのフレッド」。
言ったヤツは、片っ端からぶん殴ってやったけどな。
ああそうか、だから俺、暴力ゴリラって言われたのか。はははっ。
思い返せば、あの頃が一番楽しかったよ。
ハイスクールを出る頃には、かなり情勢も不安になっていたよな。
俺の両親は、妹を連れて早めにばあちゃん家に疎開したんだ。
ラザイン共和国との戦争が始まったのはその一週間後だった。
俺もお前も、兵役で政府軍に引っ張られてな。
今でも夢に出てくるぜ、教育係のメイアード軍曹。あのヒゲヅラの。
暴力ゴリラの称号は俺じゃなくて、あの軍曹にこそふさわしい。譲ってやるよ。
とんでもないスパルタだった。
俺の背中には、メイアード軍曹が打ったムチの傷痕がまだ消えないんだ。
ただ、あいつにシゴかれて、武器の扱い方、戦場での行動、生きるスキルを学んだから、戦争の中でもなんとか無事に、俺は生き残れた。
そう思う時も、たまにあるんだ。
あんな鬼軍曹に、感謝なんかしたくないけどな。
平和だった街に爆弾が落とされて、あっという間に残骸になって。
銃弾と爆撃、誰かの叫び声、泣き声、悲鳴。
昼も夜も聞こえてきて、無遠慮に鼓膜をノックし続ける。
あれは、精神がやられちまうよな。
即席で軍人になった十八歳のガキに何ができるってんだ、とイヤになったよ、マジで。
仲間の死体を片付けるのも、段々と慣れていって。
それに気づいた時、悲しくなるんだ。
自分が、他人の死を悼むこともできない薄情者みたいで。
多分、そのうち、自分も「片付けられる側」になる。
薄情な奴らの手で、モノみたいに運ばれて、積み上げられて山になって、ボウボウ燃やされるんだ。
そんなことを考え始めると、震えが止まらないくらい、怖くなった。
だから、俺とお前は、現実逃避気味に、「賭け」をしたんだよな。
この戦争がいつ終わるか分からない。
だから、二十歳まで生き残ったら。
生きて帰った方が、ハイスクール時代に好きだったレイリアに告白する。
俺もお前も、ひとりの同じ女を好きになったライバル同士。
これで絶対に生きて帰れるぜ、なんてったって、お前より俺の方が、レイリアのことが好きだからな!
好きって気持ちは、戦争より強いんだ!
そんなことを、お前と言って、ふたりとも笑ってたっけな。
戦争が始まってから、久しぶりに心から笑った気がしたよ。
言っとくけど「レイリアの好きなところを先に十個言った方が勝ち」の勝負は、俺の方が一秒早かったからな!
ほとんど同時だったけど、一秒早かった! 神に誓ったっていいぜ。
そこからだ、お前の変貌ぶりは。
お前は、戦うことに本気になったんだろうな。
秀才のお前が、戦況から計算した敵軍の予測進路と、対抗策を立案して。
軍部の連中に披露して、それが採用された。
俺はヒラの少年兵のまま。
上に気に入られたお前は、出世して戦術部の司令官様だ。
ああ……出世なんてするもんじゃないよな。
敵国も、スキのない戦術に恐れおののいたんだろう。
我が軍の上層部や、幹部連中がいるテントを狙って爆撃してきて……。
お前は、出世したせいで、同じテントにいて……。
ああ……今でも、目に焼き付いているよ。
血まみれになった、お前の死体。
もしもお前が、俺と同じテントにいたら、助かったかも知れないのに……。
ぐすっ、うう……すまん、泣かないつもりだったんだが。
ガマンができなくて……ぐっ、ううっ。
昨日、レイリアと話していてな、お前の話題が出たんだ。
レイリアは、俺よりもお前のことが好きだった。
英霊となったお前は、永遠に彼女の心に残り続ける。
「二十歳まで生き残った方が告白する」って条件だったのになあ、そんな勝ち方は、ズルイぜ、ジェイス司令官様。
二十歳まで生き残ったのは、俺の方なのに……。
これもお前の策略かよ……うううっ。
和平条約で戦争が終結した今となっちゃ、こうして「英霊碑」の下で眠っているお前は、永遠の「勝ち逃げ」だよ。
さあ、勝者へのお祝いだ。俺は飲ませてもらうぜ。
お前も飲めよ。
酒をたくさん、石碑に供えてやるよ。花と一緒にな。
あっ、レイリア。
お前も、ジェイスの墓参りに来たのか?
えっ? 違う違う、泣いてなんかいないさ。
親友の勝利に、祝杯を上げていただけだ。
何の勝利かって?
それは言えないね。男同士の約束だからな。
勝者の君に祝杯を…… 雲条翔 @Unjosyow
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