第9話 瀬山
飛騨の山奥から
しかし暫く妓楼に住んで、地獄に売られたと合点がいったのだろう。早蕨は暗い顔をするようになった。自分を見るようで切なく、早蕨のことを気に掛けるようになった。お付きの新造にしたのも、おたかに言われたからじゃない。早蕨を可愛がってやりたかったからだ。そうして自分を可愛がっていたのだろう。
じゃらんじゃらんじゃらんじゃらん
若い者がやかましくお触れの鈴を鳴らしてる。暮れ六つだ。
「扇屋の薄雲のいいひとは四千石の御旗本だとよ。
「恋咲岬から飛び込んだんじゃないんか?」
「女を岬から落として、男は腹を掻っ捌いて自害したそうだから、男の死骸は岬に残ってたそうだ。」
「男は身投げしなかったのか。」
「あぁ、力尽きたんじゃないか。その死骸を当主じゃなくて家来のだと言っちまったから、罪が重くなったんだろう。」
「死んじまったのに仕置きも何もあるもんか。」
「死人に仕置きじゃねえよ。残された母様と奥方が仕置きを受けるのさ。久枝家は改易、母様と奥方は押込だよ。」
「改易ってなんだい?」
「お武家さんの身分も領地も屋敷も家禄も一切没収だよ。文無しさ。」
「押込はどっかに閉じ込められるんだろ?」
「あぁ、罪人みたいだなぁ。」
「なんで嘘なんてついちまったんだろうな。」
「
「いずれにしろ、後の祭りだな。」
生きるも地獄、死ぬも地獄。
「瀬山さん、お仕度ぅー。」
見世番が座敷まで通る声を上げる。あと何回この声を聞かなきゃならないだろう。
「淵川さんのお越しです。」
若い者に連れられて、淵川が
「やっと来てくだすった。」
「何を言う。ぬしがわしを待たせるのだぞ。」
「わっちの手紙は御覧かね?」
「あぁ、読んださ。漢詩は難しいな。あれは誰の詩だ?」
「杜甫です。お気に召しませんかね?」
淵川も詩の話ができない。漢詩の中でも杜甫の哀しい詩が好きだ。李白より杜甫が好きだ。誰もわかっちゃくれない。男は
淵川の着物を預かる。三本縞の羽織の裏に龍の描絵が鮮やかに見える。お屋敷さんのくせに商人のようなことをする。
「裏勝りだねぇ。豪奢に洒落た羽織だ。」
「あぁ、呉服屋に高い着物を買わされた。」
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六道輪廻 @YUKKOCHAN8
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