第30話

📘 第30章:封じられた天才



🔷 【NOISE仮拠点 佳乃】


(この国は、誰の手の中にある――?)



2050年、NOISE仮拠点。


暗い会議室に、無数のコードとファイル名がホログラムモニターに滝のように流れていた。


「……ここもダメ……こっちは……!」


佳乃の指先が走る。


RE:CODE本部のセキュリティは突破不可能。

彼女は方向を変え、古い地方行政区、教育委員会、福祉機関、地方裁判所と、最新暗号システム未導入の端末群へ次々と侵入を試みていた。


その時だった。


《help.H》


「……?」


《help.a》

《help.g》

《help.y》

《help.o》

《help.u》

《help.M》

《help.i》

《help.k》

《help.a》

《help.g》

《help.e》

《help.n》

《help.s》

《help.e》

《help.i》


赤い警告と共に、連続で出現する【help.○】ファイル。


佳乃は即座に解析スクリプトを走らせた。


(文字列……並べ替え……丁寧に大文字混ぜやがって……)


モニターに、一つの名前が浮かび上がる。


《genius Mikage Hayato》


【天才、、、、、ミカゲ ハヤト】



息が詰まった。


「……ミカゲ……?」


背後で真田が振り返る。


「誰だ?」


「……同業者。いや……」


佳乃の指先が震えた。


(アイツは……私より速かった。誰よりも……速かった。)



──回想


高校生の頃。

夜な夜な続いたハンドルネームネット対戦。

ハッキング、暗号破り、侵入速度。


画面越しに表示される【winner: mikage】の文字。


(くそ……なんで……!)


何度挑んでも、届かない背中だった。



「あいつ……なんで……」


モニターに並ぶファイル群。その最終更新者欄に刻まれた【Mikage_Hayato】という文字列が、無機質に光っていた。


(大金積まれて依頼受けたって噂があった……でもあれは……嵌められたんだろ……この匿名が分かるのは、そんなにいないはず)


かつて、国家システム侵入未遂で逮捕されたミカゲ。

そこから先は、ネットの世界でも消息不明になっていた。



🔷 【榊原のオフィス – ミカゲ】


同時刻、RE:CODE統合管理局。


榊原廉也の執務室。

重厚な扉の奥、暗い照明の下で、褐色の長髪を一つに結んだ人物が、薄光りする6画面モニターを前に座っていた。


28歳、ミカゲ ハヤト(ハンドルネーム)。

元・闇のハッカーにして、RE:CODEシステム暗号設計責任者。


無数のコードが流れるディスプレイに、無表情のまま指先を走らせる。


「進捗は?」


榊原の低い声が背後から落ちた。


「……順調だ。侵入させない」


答える声は淡々としていた。


榊原はわずかに笑みを浮かべる。


「良かったな。妹さん、退院できそうだぞ。」


ミカゲの指が、一瞬止まった。


しかし視線は画面から逸れない。


「……それが、何だ。」


榊原は何も言わず、ゆっくりと踵を返した。


オフィスを出る榊原の背に、光の届かないデスクで、ミカゲの震える拳が沈黙のまま握り締められていた。



🔷 【NOISE仮拠点】


「……何やってんだよ……あんた……こんなとこで」


佳乃の震える声が零れた。



画面には尚も無数の【help.○】ファイルが踊っている。


気づきを求めるように。

挑発のように。



佳乃は拳を握り締め、笑いを堪えた。


(あんたを……取り戻す……やってやるよ!)


指先が再びキーボードを叩く。


全てを取り戻すために。

あの天才を、もう一度自由にするために。



(誰がこの国を支配しても――心までは奪わせない。)



🔚 第30章・完

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