第23話

📘 第23章:緻密なる改訂



🔷 【無音のプログラミング室】


2046年、秋。


RE:CODE研究所 第5階層 プログラミング室。


深夜、無音の室内に、端末の光と無数のコードスクロール音だけが響いていた。


結城維人は、淡いホログラムに映る三人のプロファイルを見つめていた。


【不破翔真】

【不破真羽】

【結城望】


(……始めるか。)



🔷 【黒峰新太 – 父性再構築】


【第1号被験者:山下泰輔】


彼のコードラインは、既に何百にも枝分かれしていた。


“暴力衝動抑制”

“支配欲求変換”

“父性形成”


(抑制では不十分だ。)


結城の灰色の瞳に、淡い光が反射する。


(“父親”という社会役割を人格の最上位パラメータに再構築する。)


無感情にコードを書き換える指先。


【黒峰新太 – 娘への保護行動優先付与】


(これで……暴力衝動は家族保護衝動に統合される。)


電子音が短く鳴り、人格改訂シナリオの第一段階が完了した。



🔷 【月陽 – 幼児改訂への挑戦】


次に映し出されたのは、幼い少女の脳スキャン映像。


【不破真羽】


【初:4歳幼児への記録改訂】


ホログラム上に、赤い警告タグが点滅する。


《ECHO発現率:高》


幼児期の脳は可塑性が高く、記憶改訂の副作用は未知数だった。


結城は指を止めない。


“父への服従記憶”

“母の喪失記憶抑制”

“日常適応シナリオ挿入”


(……危険性は高い。)


灰色の瞳に、恐怖も迷いもなかった。


(だが、成功すれば……幼少期改訂適応理論が実証される。)


未来の“理想社会”を拓くための一歩に過ぎない。



🔷 【沙耶 – 妻という監視者】


【結城望】


モニターに表示されたファイル名が切り替わる。


【改訂後:黒峰沙耶】


改訂そのものは最小限だった。


“結城維人への従順性保持”

“新太への妻役シナリオ挿入”

“ECHO監視抑制役割”


「望。」


静かに結城が呟くと、背後に立つ沙耶が微笑んだ。


「はい。」


「君なら出来る。」


「……はい。新太さんを支えます。」


その瞳は虚ろで、けれど微かな喜びさえ帯びていた。


(望……お前は役割を果たすだけだ。)


結城は無感情にそう結論づけた。



🔷 【橘との会話 – NOISEへの懸念】


2047年、冬。


プログラミング室に入った橘が、タブレットを結城へ差し出した。


「主任。NOISEの活動が……活発化しています。」


結城はコードを叩きながら呟いた。


「そうか。」


「それと……甲斐からの報告頻度が減っています。」


「……必要最低限の報告のみ、か。」


橘は唇を引き結んだ。


「スパイ化……失敗の可能性もあります。」


結城の指が止まった。


「失敗……か。」


しばし沈黙し、灰色の瞳が僅かに細められる。


「……だとしたら、どうやって失敗する。」


「……?」


橘が首を傾げる。


「改訂前、甲斐はメンテナンス室で長時間PCに向かっていました。」


「記憶を……残したか。」


結城は無表情のまま、再びコードを打ち込み始めた。


「……だとしても。」


橘が微笑む。


「このRE:CODE研究所のセキュリティ暗号システムを突破できる者など……」


橘は短く笑った。


「主任も認める天才の仕事です。」


「……ああ。」


結城の声に感情はなかった。


(突破できるはずがない。)


(……。)


コードスクロール音が、再び無音の室内に響き渡った。



🔷 【改訂完了】


2048年 春。


処置室。


電子音が鳴り響き、処置台の上で翔真と真羽が微かに痙攣する。


《記録改訂プロセス – 完了》


ホログラムに浮かぶ、新たな名前。


【黒峰新太】

【黒峰月陽】

【黒峰沙耶】


結城は冷たい瞳でそれを見つめ、短く告げた。


「……改訂者専用区域へ移送しろ。」


「了解しました。」


スタッフの声が無感情に響く。


(……理想社会への……一歩だ。)



🔚 第23章・完

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