俺、映画化決定!

Yukl.ta

第1話 「俺の映画化が決定した!」

ある日テレビを観ていたら、

『俺が映画化した』

そんなニュースが流れてきた。


その時にはもう既に、

映画に必要な撮影も録音も編集も、

俺の知らぬ間に全てが終わっていた。


俺はその事実を、

映画初公開前日の今日、

始めて知る事となる。



…勘違いしないで欲しいのだが。

それは例えば『俺が書いた小説が映画になった』ではない。

文字通り『俺自身が映画になった』という意味だ。







俺には夢がある。

『小説家になりたい』

それが俺の夢だ。


文章を書くのが好きだった。

物語を描く事が好きだった。

自分の中に世界を創る事が好きだった。


しかしその夢は、今もまだ叶わない。


新人賞への応募。

出版社への持ち込み。

Web小説サイトでの発表。

創作教室での学習。

パソコンスキルの会得。

いわゆる、夢を叶える為の努力は重ねてきたつもりだ。


だが、未だ俺の夢は陽の目を見ない。叶わない。


そもそも「小説家ってなんだ?」

「何をすれば小説家なんだ?」

そんな哲学的染みた事すらも頭に浮かび始めている。


しかし。

多様なジャンルの本を読み。知識を増やし、多くの経験を積み…。

「ひたすらに書き続けること」

それだけは小説家の必須条件であり、絶対の大前提だと信じている。


けれど…。

そうと頭では理解していても、ストレスは溜まる。

いくら努力を重ねようと、俺の夢は叶わない。そんな鬱屈。

俺の夢は多分、夢半ばで終わりの時が訪れる。そんな恐れ。


そんな負の情念が重なった結果…。

いつしか俺は、『夢を追う事』事態が自分の夢なのだと錯覚し始めた。



友達達との酒の席で。

「俺はいつか小説家になるんだ!」


職場の喫煙室の井戸端会議で。

「俺は夢の為に努力してるんだぜ!」


そんな事を言い続けた。

その結果…。

周囲の人間が俺の夢など理解してはくれるはずもなく。

「変なことばかり考えている奴」

「不気味な人」

「付き合い辛くなった」

そんな評価を他人は下す。


しかしそれでも懲りずに俺は、自身の夢への賛同と賞賛を求めて、今度はインターネット上で、ひたすらに自身の夢をアピールした。

ブログに。Twitter(X)で。動画投稿も使って。

「夢を諦めない」そう書き込み続けた。

…当然、俺の求めるような反応は返ってこない。



そこでやっと俺は気付くのだ。

それらは全て、単なる抑圧の発散であり。

自分は努力しているのだというという見栄であり。

儚い夢への依存であり。

…それらは結局、コミットメントと一貫性の法則に支配された、サンクストとコンコルド効果による、自身の歪んだ執着の証明でしかなかったのだ。


高潔な決意のもとで心に芽生えた夢を、目標を。

これから成し遂げようとする計画を。

これらを軽々しく他人に語ってはならなかったのだ。


言葉とは力である。

決意を持って『変わる』というその意思を軽率に吹聴してはならなかったのだ。

言葉とは質量である。エネルギーそのものである。

蒸気機関と同じく、漏れ出せば車輪は決して回転しない。


話したその瞬間に一瞬の満足感は得れり、しかし本来留まるべきエネルギーも同時に霧散してしまった。


決意という精神的エネルギーは、軽々しく外に漏らしてはならなかったのだ。



…まぁ、何が言いたいのかというと。

俺は今、自分に限界を感じている。

そして『自分の夢を諦めようと考えている』


つまり俺は、自身の夢の果てを意識し始めていたのだ。


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