レスバしてた相手がメンヘラ地雷系Vチューバーだった話
こうちん
第1話 終末の世界 エターナル・クライシス
人は何のために生まれ、人生には一体なんの意味があるのか。
どんなに考えてみたところで、答えなんて出ないに決まっている。だが時間が無駄に有り余ると、そんな余計なことすらも考えたくもなってしまう。
俺が今この世界に生きている理由。
平たく言ってしまえば、死にたくないからだろう。
19歳大学生、友人なし、恋人なし。
将来成し遂げたいこともなければ、目標といって思い当たるものもない。
人生に希望などというものはないが、かといって死後の世界が分からない以上死ぬのも怖いのでなんとなく生きている。
兎角、俺は面倒なことが嫌いな性分だ。
「すみません、英語の参考書はどこにありますか」
制服を着た、大人しそうな女子学生が声をかけてきた。
バイト中でもなければ、まずありえないシチュエーションだ。
「それでしたら、どうぞこちらへ」
「あ、どうもありがとうございます」
「いえ。お役に立てて光栄です」
コミュ障の俺でも、これくらいのやり取りは出来る。本棚の配置は一週間ほどで覚えた。
この書店員のバイトという仕事は、適度に暇で、適度にやることが用意されているのがいい。
そしてなによりこのエプロンを着けていさえすれば、最低限、社会の一員としての帰属意識を持つことができるのが素晴らしい。
実際、ここにいる間はほんの少し、罪悪感から逃れられるような気がしていた。
「陽ちゃんお疲れ。そろそろ上がっていいよ」
「あ、もうそんな時間ですか。ではお先に失礼します」
「うんうん。また次もよろしくね陽ちゃん」
店長はふくよかな見た目に違わず親切で面倒見がよく、また話しやすい。
だが、困ったことに俺のことを下の名前で呼ぶ。
冥堂陽翔、というのが俺のフルネームなのだが、陽キャラみたいな下の名前よりかは中二病の香りが漂う苗字の方が、性分に合っていて好きだ。
エプロンを脱ぎ外へと出ると、空はすっかりと暗くなっていた。
特に寄るところなどなくとも、夜のモードへと様変わりした街を歩くのは嫌いじゃない。
同年代くらいの若者グループが楽し気に談笑する横を足早に通り過ぎ、駅の建物の中へと入る。
電車はホームへ降りてから間もなくしてやって来た。
『ご乗車ありがとうございます。 この電車は開王線、凱旋台行きです。次は金鳥ケ丘……』
適当に空いている座席を探して腰を下ろし、まっさきに鞄からスマホを取り出す。
ヴゥーンという駆動音が鳴り響き、心地よい振動が臀部から伝わってくる。
同時に、いつものゲームアプリを起動させた。
かつては生産性のないゲームなど時間の無駄だ、などと思っていた時期が俺にもあった。
だが今はそうも思わない。
たとえ娯楽を我慢し、必死になにかを成し得たとしても、死んでしまっては何も残らない。
成功者となり人から称賛される喜びも、ゲームでなにかを達成して得られる喜びも、同じ自己満足という名の脳内の快楽物質に過ぎない点で違いはない。
最近はなんとなく、そう思うようになった。
いわゆる、看板キャラクターの勢揃いしたキービジュアルをタップすると、トップ画面が開かれる。
さすがに公共の場である車内で音は出すわけにはいかないが、親の声ほど聞いたタイトルコールを脳内で再生することなど、赤子の手をひねるように簡単だ。
『終末の世界。エターナル・クライシス……キュピーン』
「エターナル・クライシス」とは、人類、魔族、天使族、宇宙人、機械生命体の中から好きな種族を選び、世界の崩壊を止めるべく戦うアクションRPGだ。
この手のゲームのお約束である"基本無料プレイ"だが、特に課金をせずとも十分にやりこむことができ、いつでも何処でも手軽な冒険感が楽しめる神ゲーと言っても過言ではない。
まずはホーム画面から、お知らせの欄をタップしてみる。
どうやら本日はガチャやらイベントの情報は来ていないらしい。
となれば、日課のデイリークエストをこなした後、高難易度ダンジョンにて推しキャラクターの育成に励むのみだ。
一撃、二撃、三撃。ゲージをためて必殺技。
グロテスクだがどこか愛嬌のあるモンスターたちが倒され、エフェクトとともに画面から消滅する。
そしてこれまた脳内再生余裕なファンファーレが鳴り響き、画面上の赤髪幼女天使は、天真爛漫な微笑とともに歓喜のVサインを掲げてみせた。
これでまたひとつ、俺のソフィアちゃんのレベルが上がった。
自分の分身たるゲームキャラクターが強くなるのは、単純に成功体験として嬉しいものだ。なにより、ゲームであるがゆえに努力しても報われないことがないというのが素晴らしい。
このゲームをインストールをしてはや一年と半年。
バイトで稼いだお金も随分と課金に費やし、もはや俺はこのゲームなしでは生きられない体になってしまっていた。
『次は鉄門町、鉄門町。お出口は左側です』
そんなこんなで今日も今日とてスマホの画面に視界を固定されたまま、電車を降りる。
――そう。
この日々の「エタクラ」のプレイこそが、現在の空っぽの俺の人生における、唯一と言っていい楽しみなのである。
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