第31話 神社④
私たちは夜景を見る神社の入り口に着いていた。
「やっと見つけたー」
「ちょっと入った道にあったね。サクラ、それにしても…」
目の前には鳥居と上に向かうための頂上が見えない階段があった。
「また階段ー。もう私たち部活生じゃーん」
サクラはため息をこぼした。私はそんなサクラに冗談を交えて話した。
「でも神社って、なんか雰囲気あるから以外とすいすい登れちゃうかもしれないよ」
「本当?じゃあ頑張ろー」
ここの階段は植物園の時とは違い、しっかりした造りをしていた。これなら植物園の時に比べたら楽かも。
「やっぱりきついー」
サクラは明らかに疲れた表情をしていた。まあ、ここの入り口を探すまでに駅から三十分くらい歩いてきてたからね。それにこの階段も段数が多いし。
「夜景スポットなだけあって結構上まで行くかもね」
「アザミそれ今言わないでー」
「頑張ろう」
階段を登りきると目の前にライトアップされた神門があった。
「着いたー!」
サクラは境内に到着するやいなや夜景が見えるところまで走って行ってしまった。
「サクラー、走ると危ないよ」
サクラ、気にせず先に行っちゃった。目の前を見ると拝殿は既に閉まっていた。でも明かりはついてて、雰囲気があった。さっきの神門もそうだけど、ここの神社全体が綺麗。それに山の上にいるからかな、空気が澄んでいるように感じる。何だか、悩みが自然と吹き飛んで行く感覚になる。
「アザミー!こっちこっち!」
サクラは既に夜景が見えるところにいて、そこから私に声を掛けてきた。サクラは夜景にしか興味がないみたい。
「今行くよー。わぁ…」
サクラの元へ歩いていくと、目の前に幻想的なパノラマ夜景が広がっていた。
「綺麗…」
私は思わず声が漏れていた。明かりのついた高層ビル群が辺り一面に広がっていて、キラキラと輝いていた。
「アザミすごく綺麗だね!ほらあそこ!タワーがライトアップされてる!てかずっと奥までキラキラしてる!」
サクラはすごくはしゃいでいた。植物園の時も思ったけど、サクラって絶景を前にすると一段とテンションが上がるよね。サクラは境内を見渡すと夜景を背にして歩き出した。
「アザミ!この神社も見て回ろ!なんかここすごいよ!」
「そうだね」
サクラは気になるものがあるとそこに向かって走っていった。
「アザミ見て!馬と牛の像があるよ!なんでかな?」
そこには走っている馬の像と伏せている牛の像があった。像のそばにも説明書きがなかった。
「え、なんでだろう。そういう伝説があるのかな」
私の返事も聞いていないのだろう、サクラの興味は次々と変わっていく。
「わっ!この神社ゆるキャラいるの!?可愛い!アザミ一緒に写真撮ろ!」
サクラはこの神社の公式キャラクターと書かれた看板の近くに設置された赤ずきんが特徴的なマスコットキャラクターのそばに立っていた。しかし、ライトアップされた案内の看板とは違い、マスコットキャラクターの周りに明かりはなかった。
「だいぶ暗いよ。ちゃんと映るかな」
「いいからいいからー撮るよー」
暗さを気にしていないサクラに手招きされ、私もマスコットキャラクターのそばまで歩いた。サクラはマスコットキャラクターを私とサクラの真ん中に挟んで自撮りをした。写真を確認したサクラは口を尖らせていた。
「…暗い」
「やっぱり」
「写真は明るい時にリベンジだね。ってか私たち神社に来たのにお参りしてないよ!」
サクラは拝殿を探している。キョロキョロしてるサクラ可愛い。サクラはここに来てからずっと楽しそう。
「でもサクラ、拝殿にはもう入れなさそだったよ」
「アザミ!あっちでお参りできそうだよ」
サクラが指を差した方を見ると確かにこじんまりとはしているけど、鳥居と賽銭箱があった。しかし鳥居には別の神社の名前が刻まれていた。
「神社の中に神社?」
サクラも不思議そうにしていた。あんまり神社に行かないけど、さっきの動物の像とか神社の中に別の神社があったりとかは普通なのかも。
「アザミ、せっかくだしここでお参りしよ」
「そうだね」
私たちは小銭を賽銭箱に入れて参拝した。せっかくだから、お願い事もしちゃおうかな。…サクラの笑顔をたくさん見れますように。先に参拝を終えていたサクラは私の参拝が終わると私の顔を覗いてきた。
「アザミは何かお願い事したの?」
「内緒」
「えーなんでー」
サクラはわざとらしく拗ねた表情をした。
「そんな顔しても教えないよ」
「けちー」
「けちでいいもん」
私は話を逸らすために境内を歩いた。すると来た道とは違う下に行く階段を見つけた。
「サクラ、こっちにも何かあるかも」
「本当?今行くー!」
同じく境内を歩いていたサクラが私の元まで駆け寄って来た。二人で階段を下りると二十体程の地蔵が祀られていた。
「お地蔵様の圧が凄いね」
サクラは一体ずつ地蔵を見ている。地蔵は一体ずつ特徴が違っていて、それぞれに名前がついていた。地蔵の前には賽銭箱があった。
「せっかくだからお賽銭入れる?」
「そうだねー」
サクラが私の提案に乗り、私たちはお賽銭を入れた。辺りを見渡すと鳥居が並んでいる通路があった。奥には稲荷大明神と書かれた旗があった。
「サクラ、あっちも見てみていい?」
「いいよー」
私たちは鳥居の道をくぐった。鳥居の道の先には狛犬ではなく狐が鎮座していて、小さな社があった。隣の案内文を見ると京都の文言があった。
「この神社何でもあるじゃん」
サクラが感心していた。ここは夜景に限らず、有名な神社なのかもしれない。
「この神社は大体見終わったかな?」
「アザミ、ゆっくり夜景見よ」
サクラは再び夜景を見に行った。サクラはここの夜景が気に入ったのかな。本当に綺麗だもんね。私もサクラの隣に立ち、夜景を見ていた。…ここに来るまでは、二人で夜景なんか見に行ったら虚しくなって、また苦しくなると思っていたんだけどな。実際来てみたら、ここが神秘的な空間だからかな、今は純粋に楽しい。サクラも楽しそうだし、来てよかった。私はサクラの顔を見て言った。
「サクラ、いいところを見つけてくれてありがとう。本当に綺麗」
「うん!綺麗だよね!」
サクラが私を見ながら満面の笑顔を見せた。その笑顔はさっきまで見ていた夜景よりも眩しく見えた。その瞬間、サクラの笑顔だけが私の頭の中に浮かんだ。他には何も考えられなくなっている。サクラはもう私の顔は見ていなくて、夜景に夢中になっていた。私も夜景に視線を向けるけど、さっきまで綺麗と感じていた夜景に何も感じず、サクラのことしか考えられないでいた。そして無性に私の気持ちをサクラに伝えたくなった。
「アザミ見て!星も見える!しかも今日満月だ!」
勢いで口が滑りそうになっていた私は、サクラの声で我に返った。私は今、一線を越えようとしている。なのに、あれだけ怖かったのに、今は全くサクラに嫌われてしまうって考えが浮かんでこない。多分、口に出したらもう止められない。それでも、これだけは言ってしまった、じゃなくて、ちゃんと自分の意思で伝えたい。私にはいきなりここで自分の気持ちを伝えることはできないけど、それでも前に進みたい。
「サクラ」
「何?」
私が呼ばれたサクラは私の顔を見た。私は真っ直ぐにサクラの顔を見た。
「サクラ、月が綺麗だね」
サクラはそのままの意味で捉えたのか、軽い感じで言葉を返した。
「そうだね」
サクラはそのまま夜景を見ていた。サクラにはきっと私の気持ちは伝わってない。今はそれでいい。でもいつかちゃんと言う。もう逃げない。私はサクラの特別になる。
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