第26話 植物園⑤

 食事を済ませた私たちはカフェを出た。


「サクラもう動物園に行く?」


「せっかくだし、上で景色を見ていこうよ」


「わかった。あそこから上に行けるみたい」


「来た時の階段に比べたら、あんな階段楽勝だね」


「本当だね」


展望台まで上がると、ビル群の街並みを一望できた。サクラは景色を見るとテンションが上がっていた。


「すごい!街を一望できるよ!」


「サクラの家も見えるかもね」


「探してみよ!どこらへんかなー」


「見つけたら教えてね」


サクラは自分の家を本気で探している。


「ここ夜景だともっと綺麗なんだろうな。でもここ夜は開いてないしなー」


サクラは自分の家を探しながら言葉を漏らしていた。私は勇気を振り絞ってサクラに提案した。


「…じゃあ今度は夜景を見に行こうよ、二人で」


「ありー!私、夜景が綺麗な場所探しておくよ!」


サクラはいったん私の方を見て答えた。その後すぐにまた景色を見た。


「ありがと…」


サクラが喜んでくれた。でも、夜景を二人で見に行くんだよ?自分から言っておいてなんだけど、私は嫌でも意識しちゃうよ。サクラは景色を見るのに満足したのか私の前まで来て私に笑顔を見せた。


「こんなに二人きりでお出かけするのはアザミが初めてだよ。アザミは私の一番の友達だなー!」


「あり…がと…。何急に…照れるよ」


急に言われた私は上手く話せなかった。


「こんな絶景を前にしてるからかなー、気分も開放的になってるかもー!」


望んでいたサクラの一番の友達になれたのに、全く嬉しくない。なんでだろう。実感が湧かないだけ?今、私はどんな気持ちなんだろう。


「アザミー、動物園行こ!」


「うん…」



 植物園から動物園へ向かう道を進むとスロープカーがあった。


「動物園にはこのスロープカーに乗って行けるみたいだよ!せっかくだから乗っていこうよ!」


「そうだね…」


サクラは私の同意を聞いてすぐにスロープカーに乗っていった。私も続けて車内に入った。観覧車のことを思い出すから、こういう密室にサクラと乗るのはちょっと嫌なんだけどな。サクラは来る時を思い出したのか、眉間にシワを寄せて話してきた。


「これ逆に植物園にも行けるんだよね。尚更動物園から来ればよかったよね」


「私も小学生の時以来来てなかったから全然覚えてなかったよ」


「短い距離だけど、なんか楽しいねアザミ」


「もうすぐ下に着くね」


下まで着いたスロープカーから降りると目の前にトラの檻があった。サクラは走ってトラの檻の前まで行った。


「トラ可愛い!アザミ、あっちにはライオンもいるよ!」


「本当に可愛いね」


 

 しばらく動物を見ながら園内を歩いていると小さい遊園地があった。


「ここ、アザミの思い出の観覧車じゃん!乗る?」


サクラはいたずらっぽく笑ったけど、明らかに子供向けの観覧車で、大学生二人が乗れる様なものではなかった。


「流石に私にはもう乗れないよ」


「もうこんなに小さいんだね。私たちも大人になったね」


サクラがまじまじと観覧車を見ているなか、私は向かいにぬいぐるみが置かれた棚を見つけた。


「あっちにサクラが好きそうなぬいぐるみがたくさんあるよ」


サクラはぬいぐるみに気付くとそのままそっちへ走り出した。


「本当だ!買ってくる!」


「ふふ、いってらっしゃい」


本当に行っちゃった。思いっきり棚の後ろにこども動物園食堂って書いてるのに。サクラは可愛いな。サクラはぬいぐるみの棚から私に声を掛けた。


「アザミ、このぬいぐるみってハズレなしのくじの景品みたい!アザミもやろうよー」


「もー、わかったよー」


私もサクラに促されるままぬいぐるみの棚に向かった。サクラと一緒にいると楽しい。でも、今日は楽しいだけじゃない。なんで少し苦しいって思っちゃうんだろう。


 ペンギンのエリアに着くと、サクラのテンションはさらに上がった。


「アザミ!ペンギン!たくさいんいるー。やっぱり小さくて可愛いなー」


「本当だ、ペンギンのエリアすごく広いね」


「ペンギンってやっぱり癒されるなー」


「そうだね」


「ペンギンを見てるとアザミと水族館に行った時のことを思い出すね」


サクラから水族館の時の話をされて、私は一瞬表情を曇らせてしまったけど、すぐに表情を戻した。


「サクラ、水族館の時もペンギンを見てはしゃいでたもんね」


「はしゃいでたって言われるとなんか照れる」


「ごめんごめん」


「動物園は小学生の遠足ぶりだけど、今でも楽しいね」


「うん、楽しいね」


「アザミの可愛い格好も見れてるし」


「もう!恥ずかしいんだから!」


忘れていた事を思い出して私は恥ずかしくなって下を向いた。


「いやー、水族館の時を思い出したからかな。可愛くオシャレしてきてくれた女の子と二人で動物園って、今日デートしてるみたいだね!」


下を向いていたから、サクラがどんな顔をしていたのかわからなかった。けど、サクラの言葉を聞いて私は苦しくなった。私は辛うじて言葉を返した。


「そ…そう?」


笑顔を作れない。会話ができない。体が全く動かない。ふとケイコちゃんの言葉が頭をよぎった。


『女の子同士で恋愛をすることは我慢しなきゃいけないことじゃないんだよ』


なんで今ケイコちゃんの言葉を思い出すの?…わかってる。私には最初から無理だったんだ。私には自分の気持ちを抑える事はできない。サクラに嫌われるからって言い訳をしていただけだったんだ。私はサクラと友達でいたいんじゃない。私は最初から、サクラのことを好きになった時から、ずっと思っていたんだ。だから今日はずっと苦しい気持ちだったんだ。私は、サクラの特別になりたい。

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