第1話
「…ーー、…ーみ、君、大丈夫か?」
肩を揺さぶられ、意識が浮上する。
頭が重い…。
「ん…」
なに…?
「よかった、気が付いたか…」
安堵する男性の声。重たい瞼を開き、その声の主を見る。そこにはとても精悍な顔つきの男性が膝をつき、心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
「うわぁっ」
距離の近さに思わず身を引き、その拍子に後頭部をぶつける。
「った~」
振り返るとそこには大きな木があり、私はその大木に寄りかかって座っていたみたいで、そして頭をぶつけたらしい。
何でこんなところに木があるの?
頭をさすりながら疑問に思っていると、男性を咎める女性の声。
「ほら、あなたが驚かすから」
「ああ、すまない。大丈夫だろうか?」
慌てて謝る男性。視線を戻すと、私を心配していた男性の後ろには、長い髪の女性と少年が立っていた。三人とも西洋人のようだ。しかもかなりの美男美女、それに美少年だ。
すごい…親子かな?てか、リアル美少年…初めて見た…。
三人ともそれぞれに大きな荷物を背負ったり肩から掛けていたりして、私の前に跪いている男性はかなり大きな荷物をさらに背負っている。
旅行者だろうか。それにしては日本語が堪能だけど。
けどなぜこの人達は中世ヨーロッパ時代の庶民のような服装をしてるんだろう?しかも男性は帯剣までしていて本格的だ。十月だからどこかでハロウィンイベントでもしてるのかな。そんなことを考え、ハッとする。
と言うか、私さっき車に撥ねられてーー。
慌てて体をまさぐり確認する。が、どこもケガしたところはない。
あの時感じた痛みも嘘のようになくなっていた。
何?どういうこと…?
「…?」
だけど何かが変で…。
けどその違和感が何なのか分からずにいると、また焦った声がかかる。
「君、どこかケガしてるのか?」
私の動きに再び心配させてしまったらしい。
「あ、いえ、大丈夫みたいです。すみません」
私が慌てて謝ると「それならよかった」と男性はホッとした表情を見せた。
「君はどこかいいところのお嬢さんのようだが、ブンゲルト領の子だろうか?俺達もそこに向かっているんだ。よかったら家まで送ろう」
男性の申し出に「?」となる。
…ぶんげるとりょう?聞いたことがない単語に戸惑う。どこかお店の名前だろうか?
反応が遅れたせいか、後ろに立っていた女性が慌てたように付け加える。
「あ、警戒しないで!私達、怪しい者じゃないの」
女性の言葉に男性も、私が見知らぬ人に警戒してると思ったようで、自己紹介をしてくれた。
「すまない、名乗ってなかったな。俺は冒険者をやっているエルンスト。彼女は妻のアンネリーエ。それから息子のエメリヒだ。俺達はこの道の先あるブンゲルト領で仕事をするために向かっているんだ」
紹介された順に目で追うと、アンネリーエは笑顔で、エメリヒは少し警戒している様子で会釈してくれた。が、せっかくの自己紹介も、その内容に余計混乱してしまう。
だってこの人、真顔で『冒険者』って。冒険者のコスプレ中だったとしても、なりきるにも程がある。いくら日本だからって、やり過ぎると警察に捕まるーー…。
そう思って周辺に目を向けてピシリと固まる。
だってそこにはどこまでも続く森林と、そこに通る一本道しか見えなかったから。
えっ……ここ、どこ…?
慌てて周辺を見回す。私が寄りかかっている大木の前に通る一本道には、外灯や電線は全くない。人によって踏み固められたような凸凹とした田舎道だけだった。
そして上を見ればさっきまで夜だったはずなのに、森林の隙間からは綺麗な青空が見えている。
見たこともない風景に不安になり、思わず立ち上がる。
膝の上にあったカバンがずり落ちたのが分かった。
けど、私はそれどころじゃなくてーー
「ここ、どこ…」
嫌な想像が頭をよぎる。
車に撥ねられ、死んだと思った。
でも気が付くと私は死んでなくて、そこは見知らぬ場所で。
目の前には時代錯誤した服装の人達がいて。
しかも『冒険者』なんて単語が出てきて。
「そんな、まさかね…」
思わず口元が引きつる。
だって、多少の状況は違えど、これじゃまるでーー。
弟がよく読んでいた『異世界転移』の小説みたいじゃないの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。