ナビ妖精に恋しちゃった勇者

ナビ妖精に恋しちゃった勇者

「なあナナビ」

『ん? どうしたの勇者』

「俺たちってさ、魔王倒して姫救うためにここまで来たじゃん?」

『そだね』

「でさ? 俺は最終的に姫と添い遂げるらしいじゃん」

『そだよ』

「でもさ? もしもだよ? もしも俺がお前のこと好きになっちゃったとか言ったらどうする?」

『それヤバいって』

「やっぱり?」


 勇者ことフユキは、姫救出用のために駆り出されたキューティ・フェアリーに恋をしてしまった。どう考えてもヤバい。しかもそれを魔王城の中で言ってくるんだからなおのことヤバい。


 たしかにナナビは可愛い。妖精しか持ち得ない水色の髪の毛は見る人をときめかせるし、キューティ・フェアリーと言うだけある、と勇者の主張に対してもついつい首を縦に振ってしまうのが本音だ。


 ーーーこれまでも、勇者にその兆候はあった。


 例えば、先日。

 旅の途中立ち寄ったレストランにて、ナナビとフユキがディナーを楽しんでいた時のことだ。



***



「俺、お前のこと好きかもしれねぇわ」

『いや駄目だってマズいってそれ。どうすんだよボクのこと好きになって。姫と添い遂げろよ』

「いや、無理だ。もうこの気持ちを抑えきれない。付き合ってください」

『いやボクは妖精だぞ? どうやって付き合うんだよ』

「? 何が? そんなの関係なくないか」

『っ……素でドキドキさせてくるなマジで』




***




 ーーーと、このように勇者は完全に妖精ナナビに惚れていた。というかゾッコンである。


『勇者、それはどう考えてもヤバすぎる。考えてもみろ、どうして姫を助けに行った勇者とそのナビゲーターが恋すんだ。お前は良くてもボクはどうする? 皆に会わせる顔が無いって』

「でも好きなんだってば」

『もう知性のかけらも無いじゃんか』


 そんな会話をしながら魔王城を進んでいると、突然けたたましいブザーが鳴り響く。部屋全体も真っ赤に点滅し、明らかな危険が迫っていることを実感する。


『ほらぁ勇者、油断してるからトラップに引っ掛かっちゃったんですけど』

「良いってそんなの。それより俺とお前の未来のが大事だろ」


 勇者はそう言いながら、発生したボスクラスの強さを持つ何体かのモンスターたちを、でこぴんであの世へ送った。


『かっ……かっこいい♡』

「お前も大概だよなナナビ」




***




「良く分かった。要は、お前は世間体を気にしてるわけだな」

『い、いきなり何を』


 勇者は、粉々にしたモンスターたちを後ろにナビビに迫る。


「なら、こういうのはどうだ......」

『え?』


 ーーー間の悪いことに、その瞬間に魔王が現れる。


「えーとぐはははははっ! 待っていたぞ勇……者……?」


 魔王の目には、ナビビの両肩を掴む勇者の姿が。『勇者、まだかなぁ』と長らく待機していた魔王にとってこの光景は、彼の脳機能をしばし停止させるに十分すぎた。


「は……はい? 何してるんだ君ら」

『お、おい勇者! 魔王! 魔王来てるよ!?』

「魔王なんてどうでも良いっ……! 俺は……


 ーーーお前と付き合いたい?


 いや違う。

 それじゃ駄目だ。それじゃ、この真面目なナビ妖精は振り向かない。


 ーーーおい、俺様に着いて来いよ?


 いやおかしい。絶対におかしい。フラれる。これじゃフラれる。


 ーーー俺が、今言うべき言葉は。


「俺のっ……これからの人生も『ナビ』してくれっ......」

『はっ……はいいっ♡』


 魔王は叫んだ。


「えぇ〜っっっっっっっっっっっっ!!!!!!」


 魔王は迷った。

 こういう時、どうすればいいか分からなかったからだ。ご祝儀を包む? それとも将来を誓い合った二人にディナーを贈る?


 ーーー否。


「コ……コングラッチュレーションズッ! コングラッチュレーションズッ!!!」


 魔王の目には、涙が溢れていた。




***




「えー……本日は二人の結婚式へお集まりいただき、ありがとうございます。私から、多くを語るというのは無粋なものです。ここはあえて一言だけ」


 ーーーコングラッチュレーションズ。


 白いスーツに身を包んだ魔王は、三十メートルを超える巨体でもって、勇者とナビ妖精を祝福した。




***




 魔王との決戦(してない)から、早五ヶ月。

 

 本来は、勇者たる人間は魔王を倒し、姫を取り返さねばならなかった。そして国民に対し、それを報告せなばならなかった......

 

 しかし、それは叶わなかった。なぜならーーー


「勇者、ケーキ入刀いきまぁっすぅ!」

『ちょ、ちょっと待てよ一緒に切らないと』

「当たり前だ......ケーキ入刀でさえもお前の『ナビ』が必要だ一緒に切ってくれるか......?」

『お前そのセリフ気に入ってるだろ! プロポーズの時からそればっかり言ってるけどもう飽きたからっ!』


 そんなやりとりを、温かい表情で見つめる魔王軍所属の多種多様なモンスターたち。その中でもとりわけ楽しそうに笑うのは......もちろん魔王だ。

 

 その隣には、不恰好に切られていくケーキを笑顔で見守る姫の姿が。

 

 プロポーズを見た魔王が、手を叩いておいおいと泣いたわけ......

 

 そして、その魔王と姫が何故かカップル成立していたわけは、一つの理由で説明がつく。




***




「いやぁ〜っっ!!! 助けて勇者っ!」

「いいいいい今行きまちゅっ!」


 約二年前の今日。

 

 姫は、王都にある王女の間から突然に連れ去られた。もちろん、姫の望んだことではないーーー国王も、その側近も、そして国民たちも、そう思っていた。

 

 違ったのだ。

 

 一言で説明するなら『姫のこじらせた願望』が招いた事態であった。


 何と、姫と魔王は旧来の友人であり、互いに両思いというあり得んほどのロマンチック関係イェイイェイ。つまり、シチュが詰まった漫画作品を見過ぎたこじらせ姫による『魔王! 私をあえて連れ去って! あえてね!』という一通のメールが招いた国家単位の勘違い。それこそが、勇者とナビ妖精が無意味に冒険の旅へと駆り出された理由であった(!?)。

 

 なので、別に魔王は悪い奴じゃないし姫も連れ去られてない。どっちかと言えば『僕、そんなことできないよ……皆に迷惑が……』と終始しぶっていた、この物語唯一の良心こと魔王に無理言った姫の方がクソである。

 

 そのため、善良たる好青年の魔王(本名 山根 大輝)は、当然のように勇者たちの門出を盛大に祝った。ただそれだけである。勇者とナビ妖精の長きにわたる旅は、全くの無意味であった(かわいそう)。



***



「それじゃ……勇者とキューティ・フェアリーのナナビの、幸せなこれからを祈って……」


 乾杯っ!

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