繭住懐古の短編集

繭住懐古

《卒業式。静かなあの子に告白をする》

 クラスメイトの佐倉さくらさんは常にクラスの隅で本を読んでる大人しい子で、友達もほとんどいないみたいだった。僕はふとしたきっかけで佐倉さんとたまに話すようになった。


 彼女と話せる男子なんて、クラスで僕くらいのものだったろう。やがて僕は彼女の静かな魅力に惹かれていった。


 そして卒業式の今日。僕は佐倉さんを校舎裏に呼び出した。


「……ごめんね佐倉さん。急に呼び出したりして」


「ううん。良いの。別に話したい人もいないし、一緒に写真撮る人もいないし」


「そう……。僕も、まあ、同じかな」


 小さく笑ってから、僕は本題を切り出した。


「実は……僕、ずっとあなたのことが好きでした。もし良かったら……付き合ってもらえませんか?」


 用意した言葉を一息で言う。佐倉さんは少し驚いたらしく、少しの間無言だったが、やがて小声でこう答えた。


「……ごめんなさい」


 そうだよな。覚悟はしていたことだ。僕はゆっくりと顔を上げて、作り笑いを浮かべた。


「……だよね。ごめんね、佐倉さん。困らせるようなこと言っちゃって」


「ううん。困るだなんて、そんな。でも……キミは素敵な友達だったから、その、私は恋って感じには思えなくて。ごめんね」


「謝らないで。佐倉さんは何も悪くないんだから」


「キミと本の話したり、一緒に帰ったりした時間は、私とても好きだった。ずっとつまらなかった学校生活が……キミのおかげで色づいた気がしたんだ」


「僕もだよ。佐倉さんと過ごした時間は……宝物だ」


 僕は本心から言った。そして……なんだか涙が出そうになってきた。そうか、振られたってことは、もう会えないんだ。


 黙りこくってしまった僕に気を使ったのか、佐倉さんは提案をしてくれた。


「もし良かったら……その、一緒に写真撮らない?思い出として……」


「良いね。うん、そうしよう」


 僕らは二人、写真を撮った。どちらも自撮りに慣れていないため、表情も固く画角もおかしい。肩が一瞬触れ合って、僕の心臓は飛び出そうだった。


 ……ついさっき振られたばかりだっていうのに……。


 写真を撮り終えてから、僕は佐倉さんに言う。


「この写真、後で送るね」


「うん。ありがとう。……じゃあね。楽しかったよ」


 そう言って去って行く佐倉さんの後ろ姿を、僕は黙って見送ることはできなかった。


 衝動的に、声をかけてしまった。


「……ねえ!もし、良かったら……」


 佐倉さんの足が止まる。僕は言葉を続けた。


「もし良かったら……来週、一緒に映画見に行かない……?その、友達として……」


 佐倉さんが、前に見たい映画の話をしてくれたのを、僕は覚えていた。その公開日が来週なのだ。


 少しでも、彼女との関係を繋ぎ止めたかった。恋人になれなくたって良い。例え友達と言う関係性であっても…………。


「……ごめん。彼氏と見に行く約束してるから…………」


 申し訳なさそうに言って、彼女はそのまま去って行った。


 その日の夜。今日撮った写真を僕は彼女に送った。


 既読は一生つかなかった。

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