優雅なる「ガタ・茶会」

有明海の広大な干潟は、時として戦場を忘れさせるほどの静寂に包まれる。しかし、その静寂を切り裂くように、泥の上に場違いな白のレースが敷かれたテーブルセットが出現した。


「あら、良いお天気ですこと。こんな日は、潮風を感じながらのお茶会が一番ですわね」

暗黒観光協会の首領、アニマの一角であるマダム・グラツィアが、泥の上に置かれた椅子に深く腰を下ろし、優雅に扇子を揺らした。彼女の周囲には、ガタニウム製の重厚な茶器が並べられている。 


「グ、グラツィア様……。お言葉ですが、ここは敵対勢力との交戦予想区域のど真ん中です……っ! 私の胃が、いつ飛んでくるかわからない砲弾への恐怖で、ティーカップのようにカタカタと震えています……っ!」

黄金のワラスボ全身タイツを纏ったまま、テーブルの脚代わりに泥に埋まっているのは仲田事務局長だ。彼は現在、新生ガタルギアの機動力を支えるバイオ・パーツとして組み込まれており、その胃痛はリアルタイムで戦場のデータと同期(シンクロ)していた。 


「おいおいおい、正気かだぜ?🌸」

遠くの堤防から、山本マキが『ワラスボ・ポーチ』の望遠カメラでその光景を捉えていた。 


「あたいのセンサーが、干潟の中央に異常な高エネルギー反応……いや、異常な『高級茶葉』の香りを検知したんだぜ🌸 戦場のど真ん中で優雅にお茶をしばくなんて、某・銀河を駆ける帝国貴族のパクリじゃねーのかぜ?🌸 法務部がティータイムを邪魔しに来る前に、あたいがあのテーブルごとハッキングしてやるんだぜ!🌸」


「わぁぁ🌼 マキちゃん、マダムがとっても美味しそうなクッキーを食べてるぉ🌼 幸来も、お茶会に混ぜてほしいぉ🌼」

鹿島幸来は、『ムツゴロウ・ショルダー』からおもむろに「ガタニウム配合お茶」を取り出した。彼女の天然な強運は、マダムの放つ威圧感さえも「ピクニックの誘い」と誤認させてしまう。 


「(通信音)……待て、幸来。あの茶会は、アニマによる精神汚染攻撃の一種だ🥷」

泥の中から、**REDDAS WRSB(レダス・ワラスボ)**のシリアスな警告が響く。 


「(通信音)……仲田の胃壁から送信されるバイオ・データが、マダムの優雅な所作に合わせて増幅されている🥷 起動コード『CICO(チコ)』の深層領域に干渉し、ガタルギアの出力を安定させようとしているようだ🥷 奴らは、一人の男の胃痛を『優雅な静寂』に変えて、兵器の制御に利用しているんだぜ🥷」


「REDDASさん……! 私の胃は、マダムの紅茶を美味しくするための『ティーウォーマー』じゃありません……っ! 胃が、胃が熱い……熱いんです……っ!」

仲田の悲痛な叫びを無視し、グラツィアは一口、静かに紅茶を啜った。その瞬間、干潟の泥の底から、仲田の苦悶と同期したガタルギアの咆哮が、重低音となって響き渡った。

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