第10話 GW事件

 校外学習も無事に終わり、土日を挟んであっという間に俺達は日常に帰ってきていた。


 いつも通りの平日、変わらない日常の退屈な授業と休み時間の日々が戻ってきたのだ。

 別に俺は、この日々も嫌いじゃないんだけど、今週の彼らはなんというか浮き足立っていた。

 それもそのはず、GWゴールデンウィークが足音高らかに近づいてきているからだ。


「宣言通り、遊びに行く計画を立てまーす!」


 当然、光一もその例に漏れず。いや、漏れるわけがない。

 ましてや、光一が気になってる輝山さんと遊ぶんだ。浮かれるに決まってる。

 昼休み、弁当を広げて机を囲み、俺達はそんなことを相談していた。


「ずばり、どこに行きたい?」

「はーい! カラオケ行こ〜♪」

「好きだなぁ陽葵ちゃん!」


 歌が上手い、とは言っていた。たしか、月城さんのバンドのボーカルだったっけ。ちょっと聞いてみたさはあるな。


「いいぜ! でもカラオケだけで1日潰すのはさすがになぁ」

「あたしは別にそれでもいいけど」

「いやいや、せっかくだから他にも行こう。スポーツレジャーは? 青原市にあるんだよ、2,3駅行ったところだけど」


 光一がスマホで見せてくれたのは、室内で遊べる運動のテーマパークみたいなところだ。なるほど、これは面白そうだ。サッカーボールを使ってやるストラックアウトもあるらしい。光一はこれをやりたいんだろうな。


「いいんじゃないかな。価格も学生料金なら、ほら、滅茶苦茶安いし」


 俺はそう言って料金表を見せる。うんうん、と全員が頷いた。


「いいねぇ光一ぃ〜、ナイスプラン賞あげる〜」


 と、輝山さんがウエハースのおまけカードをあげる。


「うわぁ、嬉しい! ……なにこれ、こうせいシリウス?」


 光一がカードを傾けながらまじまじと見ると、銀色のホログラフィックがキラキラと光る。なんか、レアカードそうだ。


「月城さんはこれで大丈夫そう?」


 俺の問いに、月城さんはいつものようにクールな顔で頷いた。とても楽しそうに見える。


「私、こう見えて動くの好きだよ」

「はは、どう見えてると思ってるんだよ?」

「ないしょ」

「なんだそれ」


 自然と笑みがこぼれる俺。なんだか目を細めてる輝山さんと目が合う。


「ん、どうしたの?」

「……んーん、なんでもなーい♪」

「?」


 なんだかいたずらに笑う輝山さんの目が、ちょっと不気味に見えた。

 

「よっしゃ! そんじゃ、歌って騒いで盛り上がろう計画、閣議決定だぁー!」


 最近の授業で出てきた言葉を楽しそうに使いながら、光一が高らかに宣言する。

 彼だけじゃなく、俺もまた4人でのGWを楽しみに連休へと突入した。




――はずだったのだが。

 

「え? 来れなくなった!?」

 

 計画の前日。突如電話をしてきた光一が、俺にそう告げたのだ。

 

「あぁ、悪いな。俺も滅茶苦茶行きたかったんだけど……」

 

 いつもより声がワントーン低い。光一が真剣な証拠だ。


「ちょうどその日に、サッカー部で他校との練習試合が入っちゃって。さすがにそれは、そっち優先かなってさ」

「あぁ……」


 光一は別に、エースという訳ではない。MFミッドフィルダーというポジションで、2年になってようやくスタートメンバーになれたらしい。

 それをすごく嬉しそうに教室で話していたから、よく覚えてる。


「そっか。どうせなら点決めてこいよ、応援してる」

「あぁ、そっちはそっちで楽しんできてくれ。これ、叶奏ちゃんと陽葵ちゃんにも響から伝えてもらっていい?」

「はぁ、仕方ないな」

「助かる! あと……」


 一瞬の間を置いて、光一がいつものトーンで語り始めた。


「陽葵ちゃんがどんな私服だったか、写真撮って送ってくれ!」

「あぁ……はいはい、分かった分かった」

「おう。本当ごめん! じゃあな!」


 プツリと電話が切れ、部屋に静けさが戻る。

 仕方ない、伝えておくか。

 そう思い、スマホを手に取りメッセージアプリを開く。

 このGW作戦をきっかけに、俺達はお互いの連絡先を交換した。アプリには「かののん」と意外にもあだ名で名前を登録している月城さんのアカウントが、「新しい友だちリスト」の中にある。

 自分のお気に入りであろう、紫色のエレキベースのアイコンをタップしようとしたその時だった。


『橘くん』

「うぉっ!」


 思わず小さく声が飛び出た。

 俺が送ろうとしていた月城さんから、先にメッセージが飛んできたのだ。


『陽葵ちゃん、明日用事があって来れないって』


 淡白で顔文字や絵文字などの遊びのない文章。うん、なんとなく、月城さん本人が打ってるんだな、という確信を得る。


『そっか。残念だ。実は光一も来れなくなったらしい。部活の練習試合だってさ』

『鷹野くんも?』

『どうしようか、2人でレジャー行っても――』


 ここで、俺は初めて気がついた。文字を打っていた指が止まる。

 ……2で?

 ……いや、大丈夫。

 俺はただ、と、GWに遊びに行くだけだ。


『行き先変更、希望』


 向こうから先にそんな風に飛んできた。俺もそれはしておきたいと思っていた。送ろうとしていたメッセージを消して、書き直す。


『いいよ。その方がいいと思う。どこ行きたい?』


 次に送られてきた彼女の、とある施設のURLに俺は目を見開いた。

 青原市での定番、青原ソレイユ水族館のURLじゃないか。


『ここ行きたい』


 一切絵文字も何もない、ストレートなその言葉。真っ直ぐな瞳で見つめてくる月城さんが目に浮かぶ。

 俺は震える指で、『OK』と書かれているスタンプを送信した。

 それに対して、謎の白い2等身のふわふわした生き物が『たのしみ』と笑顔を見せているスタンプだけが返ってきた。

 そんなスマホの画面を見て、俺は画面を切ってからベッドに放ると、そのまま俺も枕に向かってうつ伏せになるように飛び込む。

 スタンプを見た瞬間、月城さんがふっと見せる温かい笑顔が浮かんできた。

 明日、俺は。

 異性の友人と2人で水族館に遊びに行くらしい。

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