第2話 森下君の救済活動

「いよいよ機種変か…… 」


 アイディはため息をついた。


 しょうがない。本体のオクオスの腹があれでは……。

 しかし、自分はそのまま変わらず「ノゾミの部屋」のNO.1ホストのままだろう。機種が変わっても、グールルアカウントの存在は変わらないから。俺(アイディ)とアカは安泰。さらに俺はメインのアカウントだ。機種変しても、誰も俺の地位を脅かすことはできない。


 アイディは初めての望の機種変更にも余裕の表情を見せていた。




 ※ ※ ※

「ねー、P-phoneにしようよ、のぞみ~」


 サークル仲間の田原愛弓が、P-phoneに変えろ、とうるさい。


「そうだねー、贅沢にこのまま機種変して、P-phoneも持つとか。憧れの2台持ち」

「ノゾミ、金持ち~~」

「でも、実際無理かな。お金ないし」


 スマホをポチポチ押しながら、二人はカフェで会話を楽しんでいた。


「そういえば、望が中学で片思いしてた森下君って、彼女と別れたんだって」


 望はその言葉に心臓が跳ねた。


(森下君……好きだったなぁ……)


 上杉望と森下まことは、中学三年の時のクラスメートだ。彼は望の淡い片思いの相手だった。田原愛弓は、森下君とは高校が一緒で、よく彼の噂は愛弓から仕入れていた。

 しかし、今まで告白することもできず、ただ思い続けるだけだった。



※ ※ ※

 中学三年生の9月。望はクラスで三人組のグループにいた。目立つ存在でも地味な存在でもない三人組。

 ある日、何故か他の二人から話しかけてくれなくなった。話しかけても無反応。二人から冷たい視線と空気を感じる。

 本能的に自分は何かやらかしたと悟った。

 もう秋。全ての女子はグループが出来上がっているので、私は一人で過ごすことが多くなった。


(なんだろう……何かしたんだろうか)


 日中、一人でいると耐え難い視線が過剰に突き刺さる。ゆえにトイレに頻繁に行ったり、うろうろ校内を歩くことが多くなった。

 数日一人でいると、他の女子グループの「今さらグループ内に入れたくない」という空気を感じた。無視し続けている二人は満足気に私を観察している。何かしでかしたとしても、ここまでひどい扱いを受けるいわれはない。悔しくて涙が込み上げてきた。


 すると、ある男子数人が近寄ってきた。


「次、実験室に移動だよ。ほら、上杉さんも行くよ!」


 そのグループは増田君、笹川君、森下君のグループだ。そして、増田君はとにかく学年内でも人気があった。顔も成績も良く面白い。まるで漫画のヒーローだった。


 私がそのグループと廊下を歩いてると、

「何あれ、増田君と喋ってる女子」

「あんな子、あのクラスにいたっけ」

「いいなぁ~、一瞬でいいから増田君の視界に入りたい」


 なんだかいろんな女子の声が聞こえてくる。

 私はとにかく目立っていることに恐怖を感じた。

 わかっている。

 この世界は目立つと攻撃されるのだ。

 私をグループから外した女子二人も驚いた様子だった。


 実験室では、班に分かれて作業しなさい、と先生から指示を受けた。6人グループに分かれて作業するらしい。

 その時も増田君グループに声をかけられ、一緒に班を形成した。あと二人必要なので、ここぞとばかりに、無視している女子二人が加わってきた。

 共同作業していると、彼女達と話さないわけにいかないので、最低限の会話をして、実験を進めていた。

 それよりも、増田君と話せる方が彼女達は重要なのだ。

 その時、森下君が無視している女子二人組に話しかける。


「時間って有限なんだよね」


 女子二人は急に森下君が口を開いたので、驚いて彼の方に顔を向けた。


「誰かをイジメて、そいつが学校来なくなったら、クラス全体で『アンケート』とか書かされたり、全員が個別で事情聞かれたりするんだろ?」


 女子二人は、不機嫌そうな表情になった。


「俺達の貴重な時間取らないでくれる? なあ、増田もそう思うだろ?」

「あ、ああ……そうなると少し面倒だね 」


 増田君は、ちょっと躊躇ちゅうちょしながらも返答する。


「これからもお前達が上杉さんのこと無視するなら、俺達が救済するだけだけど」

 森下君が邪魔くさそうに、無視女子二人に忠告した。

 その二人のうち一人が、森下君に一番中学男子が恐れている質問をする。


「何? 森下君は望のこと好きなんじゃないの?」


 森下君は、一瞬目を見開いたが、すぐにニッコリと笑って、その発言をした女子の目線にあわせた。そして、彼女の顔近くでつぶやく。


「俺はお前みたいな性格悪い女子がタイプだけど」


 すると、その女子は一気に顔が紅潮して言葉を失った。

 そして、森下君は私に向き直る。


「お前も頑張れよ」


 そう言って、笑った。

 その時、世界が真っ白に変化を遂げた。


(ヤバい……。これはしばらく捕らわれる。)


 直感した。そして、その直感は的中した。

 見事にずっと望は森下君に片思いするはめになった。

 小心者の私は、中学で告白できず、高校も別々になってしまった。噂では、彼は高校で彼女ができた、とも噂を聞いた。

 私は彼にとって、とるに足らない小さな救済者だったのだ。

 その後、彼はBandroidユーザーでオクオスを使っていると情報を得た。


 ーー あれからずっと、このスマホを使っているから、もう4年かあ……。もう彼のことは良い思い出として、P-phoneにしようかな。でも、彼を忘れることなんて、できるんだろうか。


 

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