No.1ホスト「アイディ」の憂鬱〜姫の機種変におびえる美しき男達〜
夢野少尉
第1話 ホスト達の序列
「いらっしゃいませ、上杉
「キィ君、今日も素敵ね」
「ありがとうございます、いつも通りアイディをご指名ですか?」
「そうね、彼がいないと話にならないから」
ここは店名「ノゾミの部屋」というホストクラブである。
客は「上杉
俺達の唯一の「姫」。
彼女だけが、この店の全てであり、絶対的な存在だ。
ここにいるホスト全員、彼女のために存在している。
今日も来店されるのは、
上杉
彼女は豪華なソファに座り足を組んだ。
指名されたこの店ナンバーワンのアイディは、
彼はナンバーワンホストだが、とにかく若いのであまりスーツは似合わない。しかし、
「会いたかったです、姫。今夜は何をご所望でございますか 」
「そうね、まずは明日の天気はどうなっているのかしら?」
「はい、明日は午後から雨で⋯⋯」
ナンバーワンホストのアイディが情報を与えている間、彼の相棒であるキィがオレンジジュースを
次に彼女は買い物を希望したので、アイディは別のホスト「
そして、彼女はジュースを飲み干しサービスに満足して、その日は退店した。
※ ※ ※
「今日は早くにお帰りになられましたね」
閉店後、キィは玉座に腰掛け珈琲を飲みながらくつろいでいるアイディに話しかけた。
「最近、姫もお忙しいのだろう。しかし、俺達は24時間
アイディは、水商売に無関係に見える普通の少年だ。その辺を歩いている中高生にしか見えない。特に容姿も優れているわけでもなかったが、「上杉
見た目は幼いが、この店では4年になるベテランだ。彼はまさにこの店のオープン当初からのオーナーであった。彼が全ての指示を出し、この店を支配している。
「俺がいなきゃ、この店は成り立たないからな。
「はい。うらやましい限りでございます」
「お前だって、
アイディは、相棒の「キィ」を慰める。
「いえ、私なんかはノゾミ様に忘れられては、別のホストに切り替わる運命でした。しかし、最近はマネージャーが私達を管理してくれるので、命拾いしているだけです。しかし、アイディ様は忘れられたことがないのでは」
「……まあ、そうだな。しかし、俺は君を気に入っている。君は代わって欲しくない」
二人で会話していると、いかにも客をもてあそびそうなホスト仲間が割って入ってきた。
「よお! アイディとキィ! 久しぶり! 元気だったか?」
「お前は……ナンバー2の『アカ』じゃないか!
「まあ、俺はそれでいいんだよ。責任がないからな」
アカは髪を赤色に染め、化粧も濃い方だ。なんとか
「最近、
キィが寂しそうにつぶやく。
「しようがない。彼女も大学生になり、バイトで忙しいみたいだ。俺達は
二人は店内の上部に設置されている現実世界を映すモニターを見入っていた。そこには彼らの姫である上杉
※ ※ ※
「
「うん、お金稼がなきゃ」
この春、大学に進学した上杉望は、サークル仲間の田原
「頑張るねぇ? 欲しいものでもあるの?」
「うーーん、スマホ欲しい」
「
「そう、日本はP-phone多いじゃん。ちょっと悩んでるんだよね。Bandroidの機種変にするか、P-phoneにするか」
※ ※ ※
「ほら、あいつらは望様がいろんなアプリで忘れられたホスト《
「もう髪もボサボサだし、身なりもひどいものだな。望様の訪問がない証拠だ。外見も気にならなくなるのだろう」
店内をうろつくホスト達を眺めて、アイディとキィは酷評していた。
「パスワードとなるともっとひどい。空メールですぐ再設定されて捨てられる。そして新しいパスワードが採用される」
そう、「ノゾミの部屋」というホストクラブは「上杉望」のスマホ本体や様々なアプリ、サイトのID及びパスワードが、「ホスト」として勤めている仮想空間だ。
彼女がスマホを手にして、4年になるので4年分のホストがうじゃうじゃしている。
そんな中、忘れられたホスト、再設定され捨てられて店を出ていったホスト、パスワードマネージャーに管理されて命拾いしたホスト……いろいろ存在する。
しかし、アイディとキィは、「上杉望」のグールルのアカウントとパスワードいう最上級ホストとして、君臨していた。しかも彼女はBandroidユーザーだ。
彼らがいなければ、彼女のスマホライフは話にならない。アカはサブアカウントとして、たまにサブのメールアドレスやIDとして使われている存在だった。
※ ※ ※
「早く望様、俺を触ってくれないかなぁ……あの指使いがたまらないんだよ。ああ、お前らは、望様と触れ合うことできないんだっけ?」ある黒髪の美形ホスト「オクオス」が、アイディ達を挑発的に煽る。
「お前は望様の指で満足すればいい。私たちは、彼女の心を満たすのだから」
「ふん、実体のない奴らは哀れだな」
そんな捨て台詞を吐いて、スマホ本体のオクオスはその場を離れた。
「どうしたんでしょうか? 普段は穏やかな方なのに。何かストレスがあるのでしょうか?」
側に控えるキイはアイディに問いかけた。
「もうあのオクオスも4年になる。見てみろ、あいつの腹を」
キイはオクオスの下腹が少し膨らんでるのに気づいた。
「太ったのでしょうか?」
アイディは、いや違う、と答える。
「経年劣化だ。バッテリーが寿命なんだよ。そろそろあれがあるぞ」
「まさか……『機種変更』ですか?」
キィは顔を真っ青にして震えていた。
※ ※ ※
「う~~ん……もうスマホ変えないとなぁ」
でも、物というのは劣化するもので、バッテリーが膨らんできた。
機種変更する場合、移行作業が大変めんどくさい。
機種変更はBandroidアカウントを入力すればいいだけだけど、キャッシュレス関係が面倒なはず。
ーーそういえば、森下君元気かなぁ……4年前、グールルアカウント作成する時、あの子の情報で長いID作ったんだよね。懐かしい……
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