第7話 利用後


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### 『利用後の隙間』


ラブホテルの清掃員は、

基本、何も気にしない。


シーツのシワ。

甘い匂い。

床の濡れ。


「利用後です」の札が出ていれば、

中で何があったかは関係ない。


それが、

この仕事のルールだ。


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その部屋は、

いつも最後まで埋まらない。


ベッドと壁の、

妙に細い**隙間**。


掃除機のノズルも入らないし、

覗くと暗すぎる。


新人の頃、

先輩に言われた。


「そこは触らない」

「クレーム出ないから」


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ある夜。


シーツを剥がすと、

ベッドの端が

**不自然に凹んでいた。**


二人分、ではない。

三人分でもない。


**挟まった形**だった。


気持ち悪いな、と思いながら、

ベッドを少し動かした。


その瞬間、

隙間から

**長い髪**が出てきた。


黒くて、湿っている。


一瞬、

誰かがまだいると思った。


でも、

声をかけても返事はない。


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ライトで照らす。


隙間の奥に、

**顔があった。**


目は開いている。

でも、

見ていない。


笑顔だけが、

変に整っていた。


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慌てて管理室に連絡しようとした。


そのとき、

背後から声。


 まだ、

 途中ですよね


振り向くと、

鏡の中の自分が、

ベッドと壁の隙間に

**半分入っていた。**


現実の自分は、

まだ立っているのに。


---


耳元で、

何人分もの声が重なる。


「ここ、落ち着くよ」

「誰にも見られない」

「利用後だから」


足が、

勝手に前に出る。


体が、

**横に伸びる。**


無理やりじゃない。

慣れた動き。


毎日、

ベッドを押してきたのと

同じ力加減。


---


翌朝。


その部屋は、

「清掃済み」になっていた。


異臭なし。

忘れ物なし。


ただ、

ベッドと壁の隙間が

**少しだけ、狭い。**


次の客は言った。


「ここ、

 なんか落ち着きますね」


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ラブホの部屋は、

今日も回転する。


誰にも見られず、

誰にも数えられないまま、

**隙間だけが、満室**になっていく。


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隙間について、(僕のことではありません) @haruto_sabanomisoni

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