勘違い勇者エリオの大冒険

塩塚 和人

第1話 村を飛び出す日


トルニア村の朝は、まだ夢の中にいるように

静かで、風も寝ぼけたように木々を揺らして

いた。エリオは布団の上で伸びをして、ため

息をつく。「ふう…このままじゃ、俺、強くな

れないのかもしれない…」小さな胸が期待と

不安でざわついた。


皮の胸当て、皮の靴、皮のヘルメット、皮の

盾、そして短剣――村の商人が「冒険者用だ」

と言った装備一式を背負う。見た目はボロく

、少し小さいが、本人は慎重に装備を確認した。

「これで…俺、なんとかなる…のかな…」


朝日が差し込む庭で、祖母が声を張る。

「エリオ!今日こそは忘れ物しないでよ!」

「あ、はい!忘れません!」返事と同時に勢い

よく走り出すが、荷物が背中で枝に引っかかり

ガコン!頭から転がった。猫が逃げ、草むら

に突っ込む。泥まみれの顔で、エリオは手足

をバタバタさせる。「やっぱり俺、弱すぎる…」


ようやく立ち上がると、葉っぱが顔に張り付き

服は泥だらけ。それでも心の奥には冒険への

期待がある。短剣を握ると、かすかな光が反射

した。「これで…きっと大丈夫…」自己暗示を

かけながら、小道を進む。


村の外れに来ると、風が強く吹き、砂や葉が

顔に当たる。慎重に進むが、足を取られ前の

めりに転倒。立ち上がろうとして、また転ぶ。

「うわっ…俺、やっぱり弱い…!」勘違い全開で

自分を責めつつも、心の奥では冒険心が踊る。


小川に差し掛かる。一本の丸太橋を渡ろうと

するが、丸太はぐらりと揺れる。慌てて足を

踏み出すと、川にドボン。「うわああっ!」

魚が跳ね、水しぶきが顔にかかる。全身びしょ

濡れのまま岸に這い上がるエリオは、「やっぱ

り弱い…」と自分を卑下するが、心のどこかで

「でも、この冒険、面白いかも」と思った。


昼近く、パンを取り出そうとリュックを開ける。

手が滑り、パンは地面へ。小鳥が飛んできて

くわえて飛び去る。「うわっ、俺の昼飯まで…」

勘違いで小鳥を敵扱いし、短剣を振り回す。

結局小鳥は逃げ、通行人は笑う。本人は真剣だ。


さらに道を進むと、風が帽子を飛ばす。エリオは

慌てて追いかけ、川を飛び越え、木に登り…

まるでドタバタ劇の主人公。周囲の人々は目を

丸くするが、本人は「慎重に行動しているだけ」

と本気で思い込む。


やっとゴールドリッジの町門が見える。塔が朝日

に輝き、エリオの胸は高鳴った。しかし、小石

につまずき転倒。泥だらけで立ち上がり、胸の

皮当てを叩きながら「はい…気をつけます…」

と答える。冒険の第一歩は、もうすでにドタバタ

だった。


町の雑踏を抜け、冒険者ギルドの建物が見えた。

胸の鼓動は最高潮。「ここから、俺の本当の冒険

が始まるんだ…!」泥だらけ、傷だらけ、勘違い

だらけのまま、少年は扉を押した。すると、ギルド

内の世界が彼を待っていた。


荷物が崩れ落ち、パンや水筒が転がり、通行人

にぶつかる。エリオは「すみません、すみません!」

と叫ぶ。本人は、これも冒険の一部だと信じて

胸を張った。


ギルドの扉をくぐると、空気は少しひんやりし

冒険者たちの気配が漂う。エリオは背筋を伸ばし

息を整えた。「これが…俺の、新しい世界…!」

ドタバタと勘違いだらけの出発は、ここで一区切り。

だが、彼の冒険は、まだ始まったばかりだった。

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