名も無き彼方

一二三

「開始」



もう何千と日が過ぎて、沈黙した荒廃の捨て街にただ鳴き続ける彼女がいる。


名も忘れられた誰かの石像が彼女の姿であった。


誰が置いたかも、誰に奉られたやも知れない彼女は天に向かって顎を上げ、大きく口蓋を開き、その口蓋に雨水が溜まる。


溢れ出した雨水は一筋、二筋と身体へ伝ってゆきそこに苔が生える。


彼女は鼻下から上の顔が砕けていて相貌が分からない。


無名の孤独な彼女は一体どうしてここにいるのか。



大きく口蓋を開いてる彼女は何か意図して作られた人工物とは思えない。


まるで悲しくて悲しくて大きく口を開き泣き喚いてる姿を固められたような、自然でかつ不自然な石像であった。


これで身体に動きがあれば良かったのだが、風化され残っている身体は胸元から片足だけで断定も出来ない。


あぁ、情報が足りない。




ブーーーーーン、と低音が鳴り僕は名残惜しくゴーグルを外した。


人類の文明が発達した恩恵で、人類は星を選ぶことが出来るようになった。このゴーグルもその一部だ。


そして代償も多くあった。



「放棄リスト、旧惑星:[-----]、観測を終了しますか?観測を終了すると、旧惑星[-----]の情報は約2分17秒で抹消されます。」


「終了。」




遠い遠い何億光年のあの惑星で、彼女は鳴き続けるのだろうか。


もう何も知ることはない。

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名も無き彼方 一二三 @pasuta_53

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