第14話 飯塚敏郎の回顧録(未公表)

あの日、仕事から帰ると、里美と翔がいなくなっていた。


アパートの周辺を探したが、どこにもいない。


まさかと思って駐車場へ走った。


真夏の炎天下。


車は締め切られていた。


ドアを開けた瞬間、熱風と共に異様な甘い匂いがした。


里美は後部座席で、翔を抱きしめたまま笑っていた。


「あなた、見て。子供たちがこんなに」


里美が指差す誰もいない空間。


俺は見てしまった。無数の小さな白い手が、里美と翔を掴んでいるのを。

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