向日葵

一 色彩

 晩夏か、あるいは晩秋か。

 きっと晩夏だろう。

 ​午後四時を回ったというのに、太陽はまだ殺意を失わず、アスファルトを白く焼き続けている。

 肌にまとわりつく風には、腐りかけの果実のような、甘ったるい湿気が混じっていた。

 黒の喪服が、皮膚に張り付いて重い。

 首筋を伝うのが汗なのか、それとも冷や汗なのか、私にはもう判別がつかなかった。

 ​蜩が鳴いている。

 カナカナ、カナカナ、と。

 その金属的な響きが、空間を引き延ばすように感じた。

 時間と空間をぐるぐると間延びさせ、この黄昏の手前の気怠い時間が、此岸とは別の異界へ迷い込んだのではないかと錯覚させる。


 ​私は歩いている。

 墓地へと続く、長い坂道を。

 右の手には、包装紙に包まれた向日葵の花束を握りしめて。

 ​花屋の店先で、最も大ぶりで、最も元気なものを選んだから。

 彼女が好きだった花だから。


 彼女へ供えるために。それ以外の理由などない。


 ​だというのに、私は、この右腕を切り落としたい衝動に駆られている。


 ​手の中で、太い茎たちが擦れ合う感触がする。

 びっしりと生えた硬い産毛が、私の手汗を吸って、じっとりと掌に食い込んでくる。

 まるで蠢く、一つの巨大な生き物のように。

 ​

 ​視線を落とすと、包装紙からはみ出した「黄色」が、西日を反射して網膜を焼いた。


 眩しい。痛い。

 その溌剌とした色彩は、黒に飲み込まれた私の世界において、あまりにも異質だった。

 ​あぁ、疎ましい。

 吐き気がするほど、疎ましい。


 ​それでも私は、指が白くなるほど強く、その花束を握りしめた。

 茎からミシリと音が聞こえた。


 この不快感だけが、今の私に残された唯一の贖罪であると言い聞かせるように。


 ​陽炎の向こうで、世界がぐらりと傾く。

 眩暈がする。


 強烈な黄色の残像が、瞼の裏に焼き付いて離れない。


 私の意識は、終わらない蝉時雨のノイズに混じって、この黄色がまだ「希望」の色をしていた頃の記憶へと、呑み込まれていく。

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