ギャンブルの神

ごとうもろい

ギャンブルの神

日曜日、男がアパートで寝ていると呼び鈴が鳴った。

目をこすりながらドアを開ける。

「わしじゃよ」

白髪の老人が立っていた。背は低く、地面に届くほど髭が長い。

「どなたさまでしょうか」

「ギャンブルの神じゃよ、ほれ」

部屋に入ってこようとする。手で押しのけるとすり抜けて触ることが出来ない。老人は笑った。

「無駄じゃ、わしは人外の者、物理的な力ではどうにもできんのじゃ」

老人はひょい、と男の肩に乗った。

「出かけるぞい」

わけもわからぬまま商店街を歩く。他の者には見えないらしい。

「いいところがあった。入ろう」

パチンコ店を老人が指す。男はパチンコなどしたこともなかったが見よう見まねで席に着き、打ち始めた。大当たりにつぐ大当たり。

「すごいものですね」

「わしはギャンブルの神じゃからの」

それも最初だけだった。だんだん当たらなくなり、勝ったり、負けたり、結局閉店までいた。

家に帰り計算してみると、少し負けていた。

「負けておりますが」

「まぁそういう日もある」

老人は肩からひょいと降りた。

「また明日来るからの」


次の日、男はぼんやり仕事をした。どうにも集中できない。つまらないミスを重ねて上司に怒られた。ギャンブルの神と言っていた。最初は勝てたのだ。昨日は本調子ではなかったのかもしれない。ブランクがあるとか。今日も来ると言っていた。最初の調子で勝ちまくれるなら、仕事を続ける必要もないのだ。


調子のいいことを考えながら最寄りの駅を降りると、改札の前に老人がいた。

「では今日もいくぞい」

ひょいと肩に乗る。昨日のパチンコ店に入った。

最初はやっぱり大当たり、で勝ったり負けたりになる。途中で止めればいいのだが、楽しくて席から離れられないのだ。

また閉店までいた。帰って計算してみると、やはり少し負けている。

「どういうことでしょうか」

「ふむ」

「ギャンブルの神様なのでしょう?」

「いかにもわしはギャンブルの神、ギャンブルの輪を拡げなければならん」

男はわけがわからなくなる。

「つまりだな、お前が勝てばあの店に損害が出ることになる。何度も勝てばあの店は潰れる」

「はぁ」

「つまりギャンブルの輪が狭まってしまう。わしはギャンブルの輪を拡げなければならん」

「つまり一緒にいる限り……」

「お主は一生勝てんということだ。ただ楽しかったはずじゃ。楽しませるのはわしの能力じゃからな」

男は馬鹿馬鹿しくなってきた。

「帰っていただけますか」

「うむ、明日も来るからの」

老人はひょいと肩を降りた。


次の日、また改札口に老人がいる。

「では行くかの」

ひょいと肩に乗ってくる。追っ払おうとしても物理的な力は効果がないのだ。

またパチンコ店の席に座ってしまう。楽しい。老人がそう感じさせているのだろう。大きく負けることもない。ただ勝つことも絶対にないのだ。仮に老人を追っ払えたとしても二度とギャンブルを楽しいと思うかどうか……。

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ギャンブルの神 ごとうもろい @moroi

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