第7話 長谷川真昼、ツンデレを攻略する

 勝三郎さんと長秀さんを仲間に引き入れ、意気揚々の私。

 次なるターゲットに向けて、清洲城の廊下を藤吉郎さんと共に歩いていく。


「ねえねえ藤吉郎さん、成政さんってどんな人? マンガだと結構オラオラ系だけど」

 

「オラオラ……? まあ、気性は激しいな。又左がいない現状だと、若手の中で武勇はピカイチだが、少々短気だ」


 藤吉郎さんはそこで言葉を切り、深い深いため息をついた。


「それに、何故か私のことを嫌っておってな。顔を見るなり『猿め! こっちに来んな』と罵倒してくるのだ。きっと私のことが生理的に受け付けぬのだろう。無理もあるまい」

 

「罵倒? 生理的に無理?」


 私の乙女センサーがピーンと反応する。

 男装の麗人である藤吉郎さんで中身は帰蝶様に対し、罵倒を繰り返す猛将。

 嫌ってる? 本当に?

 それって実は……。


「好きの裏返しってやつなんじゃ?」

 

「は?」

 

「ツンデレだよツンデレ! 心配で心配で仕方ないけど素直になれなくて、ついキツい言葉を投げつけちゃう不器用な愛の形!」


 藤吉郎さんはポカンとしているけど、私は確信した。

 待ってろよ成政! そのツンデレ仮面、私が剥がしてやるからなー!


 ***


 案内されたのは城内の道場。

 中から木刀が打ち合う音と怒号が聞こえてくる。


「声が小さい! 気合を入れろ! 戦場で死にたいのか!」


 一番奥で若手たちをシゴいている青年がいた。

 鋭い眼光! 引き締まった筋肉! 汗が滴るワイルド系男子、発見!

 彼こそが佐々内蔵助成政。


「テメエら、休んでんじゃねえ!」


 うお? 50メートルは離れてる場所でへたり込んでる人たちの横に木刀投げたよこの人。

 あっぶないなあ。当たったらどうすんのさ。

 でもすっごい肩。横に投げたのも狙った通りだとしたら……。


 私たちが近づくと、成政さんは藤吉郎さんに気づいて顔を歪めた。


「チッ、猿か。何しに来た。貴様のような軟弱者が来る場所ではないぞ」

 

「……すまぬ、邪魔をするつもりはないのだが」

 

「ならば失せろ! 武士の真似事がしたいなら他所でやれ。貴様のへっぴり腰を見るだけで反吐が出るわ!」


 うわあ、キッツい。

 藤吉郎さんがシュンとして俯く。

 でも私には見えたよ。成政さんの目が蔑みじゃなくて焦りの色を帯びているのを。

 それに罵倒する声色が、ほんの少し震えているのをね。


(ほら来た! ガチで心配してるやつだ!)


 私は一歩前に出て、成政さんの前に立ちはだかった。


「こんにちは成政さん! 私と野球しませんか!」

 

「ああん? なんだそのチャラついた格好の女は。気が散る! 去れ!」

 

「長谷川真昼です! 野球は戦の役に立ちますよー」

 

「くだらん!」


 成政さんは一蹴した。


「戦場は遊び場ではない。一瞬の油断が死を招く修羅場だ。特に貴様のような、覚悟のない者がふらついていい場所ではないのだ!」


 成政さんは私に言っているようで、視線は鋭く藤吉郎さんを射抜いている。


「猿! 貴様もだ! 刀も振れぬ者が戦場に出るな。足手まといになる前に、さっさと商人あがりに戻るんだな」


 藤吉郎さんが唇を噛み締める。

 そこまで言う必要ないじゃん。

 これだから俺様系はムカつくんだよ。さあてと、吹き出し口がないから口から直接吐かせるとしますか。


「ねえ成政さん」

 

「なんだ」

 

「本当は藤吉郎さんが心配なんでしょ? 戦場で死んでほしくないから、厳しく当たって追い出そうとしてるんじゃない?」


 道場の空気が凍りついた。

 成政さんの顔がみるみる赤くなる。


「なっ、何を馬鹿な! 誰が猿のことなど! 俺はただ、織田家の武勇を汚す者が許せんだけだ!」

 

「でも、死んでほしくないって顔に書いてあるよ?」

 

「貴様ァ! たたっ斬るぞ!」

 

「はい、ツンデレ確定ー。たたっ斬れるもんならたたっ斬ってごらんなさーい。どうせ女の子には攻撃できないとか抜かして、無視決め込もうと考えてるでしょ?」


 成政さんの顔が怒りのあまり茹でダコになっている。

 でも木刀で私を攻撃してこようとはしない。


「き、き、貴様! 一体何なんだ!」


 これ以上怒らせるのは可哀想かな?

 にっこり微笑んで手打ちとしますか。


「私は織田家野球部マネージャー、長谷川真昼、16歳!」


「まねえじや?」


 よしキョトンとした。ここからが勝負だ。

 私はセンイチから聞いたポジション解説を思い出す。

 

『外野は打撃自慢の主砲候補を置くことが多いが、肩の強さも重要じゃな』

 

 強肩。遠くから味方を助ける力。


「成政さん、貴方の熱いハートと強肩、誰かを守りたいという強い想いと正確無比な送球……野球で爆発させてみない?」

 

「はあ?」

 

「貴方にぴったりのポジションがあるの。ライトはどうかな!」


 私は成政さんの目を真っ直ぐ見て言った。


「ライトはね、強肩の持ち主が守る場所。遠く離れた場所から、バックホームで走者を刺す! 味方のピンチを豪腕で救うんだよ!」

 

「豪腕で……救う……?」

 

「そう。貴方がライトにいれば、内野が抜かれても貴方が後ろからカバーできる。遠くから見守り、いざという時に助ける……今の貴方にぴったりじゃない?」


 成政さんの視線が、チラリと藤吉郎さんに向く。

 遠くから見守る。いざという時に助ける。

 そんな私の言葉が、彼の不器用な心に刺さったようだ。


「証明してよ! 貴方の愛……じゃなくて、強さを!」


 私は道場の隅に転がっていた手頃な石を拾い上げ、成政さんに手渡した。


「あの道場の入り口に的当て用の木の板、ここから当ててみて! かなり遠いけど、貴方の肩なら届くでしょ?」


 さっき木刀投げた距離より遠い80メートル以上。普通の投擲では届かない距離だ。

 成政さんは石を受け取り、フンと鼻を鳴らした。


「茶番だ。……だが、軟弱者に示しがつかんからな」


 成政さんが大きく振りかぶる。

 引き絞られた筋肉が唸りを上げる。

 ブンッ!

 剛速球が一直線に伸びる。重力なんて無視したかのような、まさにレーザービーム!


 バゴォッ!


 石は的のど真ん中を射抜き、なんと的を支えていた木の棒ごとへし折ってしまった。

 若手たちが「うおおっ!」とどよめく。


「すっご! 肩強すぎ!」

「ふん、この程度」


 成政さんは息一つ乱さず、藤吉郎さんの方を向いて吐き捨てた。


「おい猿。……戦場に出るなら、せめて俺の視界に入るところにいろ。後ろから見ていてやる」


 それ、俺が守ってやるという遠回しな告白じゃん。

 藤吉郎さんが驚き、そして穏やかに微笑んだ。


「……かたじけない、成政殿」

 

「勘違いするな! 俺はただ……チッ、もういい! 貴様らの遊びに付き合ってやる。俺がいてやらねば、すぐに壊滅するだろうしな!」


 成政さんは顔を背け、再び若手たちへの怒号に戻った。

 やったね、頼れるライト兼ツンデレ要員、ゲットだぜ!


「これでいぶし銀、センター、ライトが埋まったね」


 道場を出た私は手応えを感じていた。

 若手有望株は確保した。

 でもまだまだ集まり悪いんだよなあ。

 私を見ると全力疾走するのもいるし。

 可成さんとか直政さんとか新介さんとか。


「古参衆たちの顔色を窺っている者が多いのだ」


「窺っている? なんで?」


「古参衆たちが、野球にうつつを抜かす信長様を苦々しく思ってるからだ。若者は信長様も怖いが古参衆たちにも怖れを抱いているのだ」

 

 要は板挟みってやつだね。どっちかにどっぷり浸かったら、もう片方から恨まれるもんね。

 私も小学生の頃、敵対してる二つの女子グループからクリスマスパーティー誘われて、うわあああああどうしよおおおお! って頭を抱えたことあるから、その気持ち痛いほどわかるよ。

 ちなみにクリスマスパーティーはお姉ちゃんが主催してくれて、なんとかどっちのグループも呼ぶことに成功して丸く収まったけど。


「そっか。じゃあ藤吉郎さん、そろそろおっさんたちも説得しないとね」

 

「ああ。そうだね。いくら信長様といえど、古参衆たちが苦々しく思っていたら集中力を欠いてしまうだろうし」


 望むところ!

 おじさまは女子高生が好きなのがド定番。

 私渾身の上目遣いをお見舞いしちゃる!

 待ってろよ~イケオジども!

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