第6話 長谷川真昼、センターが大事と知る
勝三郎さんを勧誘したが、まだまだ先が長い。
私は今日も今日とて、清洲城の一角でとりあえず昼寝していた。
だって学校通わなくっていいんだよ? お姉ちゃんがいないんだよ? 私は自由の羽を手に入れたのだ。
昨日の夜は吉乃さんやお市ちゃんに、現代のお話喋りまくって睡眠不足だしね♪
「グオーグオーグオー」
私がいびきかいて寝ていると、センイチボールを持った信長様がノックもせずに襖を開けてきた。
「随分と無防備な姿だな。俺に跨ってほしいのか?」
「は⁉ 寝てません、寝てませんよ」
女の子が寝ている部屋に無言で入ってくるとは失敬な。
まあ、ここ寝室じゃないぞっと言われたらぐうの音も出ないんだけどさ。
てか、今の発言、吉乃さんと藤吉郎さんに言いつけちゃるぞ。
『おい小娘、進捗はどうなっとる? そろそろ道具が揃うぞ』
「えっと、とりあえず勝三郎さんを確保したよ!」
『ほう、あの真面目な若造か。悪くない人選じゃ。いいか真昼、野球には適材適所がある。ポジションごとの特性を理解せねばチームは作れんぞ』
センイチが偉そうに解説を始める。
長いので要約するとこうだ。
ピッチャーは当然、一番華があり、我が強い奴。これは信長で決まりじゃ。
キャッチャーは全体を見渡し、女房役として投手を支える包容力のある奴。
ファーストは背が高くて捕球が上手い奴。多少動きが鈍くても打撃でカバーじゃ。
セカンドとショートは連携の要。器用で素早く、気の利く奴がいい。
サードはホットコーナー。強烈な打球を恐れぬ根性と反射神経が必要じゃ。
レフト、ライトは打撃自慢の主砲候補を置くことが多いが、肩の強さも重要じゃな。
そしてセンター。ここは守備の要じゃ。足が速く、誰よりも広い守備範囲をカバーできる視野と判断力を持った奴が必要じゃ!
「へえ~、なるほどね」
めっちゃ多いじゃん! まだ信長様と勝三郎さんの2つしか埋まってないよ!
センターねえ。足が速くて、視野が広くて、判断力がある……。
「任せたぞ真昼、ちなみにポジションには控えも必要だそうな。まあ、投手は俺1人で十分だが」
なんてことを言って、信長様は去ってっちゃった。
もう、神出鬼没だからサボることもできないよ。
休日なしの24時間勤務って、お母さんと一緒に潰した闇バイト組織にそっくりだよ。
私はあくびを噛み殺しながら、お城を出て藤吉郎さんと合流して、センイチから聞いたことを話していく。
「藤吉郎さん、視野が広くて判断力のあるイケメンっています?」
私が訊ねると、藤吉郎さんは「うーむ」と悩みつつ、1人の人物の名を挙げた。
「広い視野と判断力……それならば、丹羽五郎左衛門殿が適任かもしれぬな」
「丹羽五郎左衛門? あっ! 長秀! 穏やかイケメン枠の人!」
マンガじゃ腕白系多い信長軍団で、理性的に描かれていること多い人じゃん。
「うむ。米五郎左というあだ名があるほど、米のように日々の食事……つまり織田家の軍事や政治に欠かせない、万能なお方だ。温厚で調整能力が高く、誰からも頼りにされている」
米五郎左……。
白米大好きな私としては、名前だけで好感度マックスだよ!
しかもやっぱり温厚で万能。これは期待できる!
「採用! 癒やし系イケメン、ゲットしに行くよ!」
***
長秀さんの屋敷を訪れると、彼は縁側で優雅にお茶を飲みながら山のように積まれた書類をさばいていた。
涼しげな目元、落ち着いた大人の色気!
勝三郎さんのような生真面目さとは違う、余裕のある大人の男って感じだ。
「やあ藤吉郎さん、それに噂のあや……南蛮少女かな? 歓迎するよ」
長秀さんは私たちに気づくと、人当たりの良い笑顔で手招きした。
おおっ、話が早くて助かる!
私は早速、単刀直入に切り出した。
「長秀さん! 私たちと野球しませんか! センターのポジション、空いてますよ!」
そんな私の大声に、長秀さんはニコニコしながらも手元の筆を止めない。
「うん、面白そうだね。勝三郎殿が参加したと聞いたよ。彼には息抜きが必要だったからね、良かった良かった」
「えっと、長秀さんは?」
「私は見ての通り忙しくてね。今日も野球道具なるものの予算案を現実に落とし込み、柴田殿と林殿の揉め事を仲裁し、那古野方面への物資を手配せねばならんのだよ」
やんわりだけど明確な拒絶。
しかも他人事として捉えているね、これ。
むむっ、この人、掴みどころがない。押しても暖簾に腕押し状態だ。
私は長秀さんの仕事ぶりをじっと観察する。
次々と持ち込まれる部下からの相談に的確な指示を出し、合間に書類に判を押し、藤吉郎さんにお茶菓子を勧める気遣いまで見せる。
まさに全体を網羅し、穴を埋める完璧な仕事ぶり。
でも、ふと見せる横顔に、どこか寂しさを感じた。
この人、自分のことより周りの調整ばかり優先してるんだ。
「ねえ長秀さん。貴方、いつもみんなのために動いてるけど、貴方自身は楽しいの?」
私の問いに、長秀さんの筆がピタリと止まった。
「……楽しい、とは少し違うかな。これが私の役割だからね。全体を見渡し、調和を保つ。それが私の性分なのだよ」
役割、か。
全体を見渡す広い視野。誰よりも早くカバーに入る気遣い。
これって、まさにセンターに合致じゃん。
「長秀さん、貴方にぴったりの場所があるよ!」
「ぴったりの場所?」
「そう! センター!」
私は身振り手振りで熱弁を振るう。
「グラウンドの一番奥、誰よりも広い場所を守るポジション! 内野手たちのミスを全て帳消しにし、全体を見渡して指示を出す司令塔!」
「全体を見渡す……」
「でもね、一番の魅力はそこじゃないよ」
私は長秀さんの目を真っ直ぐ見つめて言った。
「誰にも邪魔されず、広い空の下を自由に走り回れること! 調整とか顔色とか関係なく、ただボールを追うためだけに走れるんだよ! ちょっと庭に立ってて!」
「え?」
戸惑う長秀さんを庭に立たせて、藤吉郎さんの腕を掴んで50メートルぐらい遠ざかる
「藤吉郎さん、投げて!」
「えっ、また? ……よいしょ!」
藤吉郎さんが投げた石を、私は全力で打ち上げる。
カキーン!
石は高い放物線を描き、屋敷の広い庭の彼方へ飛んでいく。
「あそこまで走って! 誰のためでもなく、あのボールを捕るためだけに!」
長秀さんは一瞬ためらったけど、着物の裾を翻して走り出していた。
タタタタッ!
普段の冷静な歩調とは違う、全力疾走。
風を切る音。土を蹴る感触。
落下点へ一直線。最後は綺麗に刈り込まれた芝生の上へ、思いっきりダイビングキャッチ!
ズザザザ!
土に汚れた着物。
起き上がった長秀さんは、石をしっかりと握りしめていた。
いつもの作り笑顔ではなく、少年のように晴れやかにして。
「……驚いたな。こんなに無心で走ったのはいつ以来だろう」
「どう? 調整役もいいけど、たまには広い外野で俺の庭だ!って叫びたくない?」
長秀さんはフフッと笑い、泥を払って立ち上がった。
「悪くない提案だ。殿の背中を守りつつ、私自身も風になれる場所か……。よかろう。野球とやらをやってみるよ」
「うん! それでストレス発散させよう!」
私たちはガッチリと握手を交わした。
「さて、次は誰を誘うんだい? 柴田殿や佐久間殿といった古参衆は、私以上に頑固だよ?」
長秀さんが面白そうに聞いてくる。
「うーん。勝三郎さんに長秀さんゲットしたし、次の若手枠は……あっ! 成政さんがいた! 成政さんにしよう!」
次のターゲットは、マンガでやんちゃ系イケメンによくされている佐々成政。
「成政殿……か」
「どうしたの藤吉郎さん? なんか問題あるの?」
「いや……協力するよ」
藤吉郎さんも疲れちゃったのかな?
なら私と一緒にお昼寝しよって誘ってみますか!
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