第7話「世界の向こう側で、誰かが応えた」

最初の変化は、

ニュースにも、SNSにも、

どこにも現れなかった。


それは、

音の隙間に起きた。



慶太は、

いつものようにノートを開いていた。


Sound Universeという名前をつけてから、

特別なことが起きたわけではない。


世界は相変わらず回り、

詩音は学校に行き、

自分は頼まれ仕事の音を整える。


それでも、

何かが“増えた” 感覚だけが残っていた。


ノートに書いた音の流れが、

勝手に続きを持ち始めている。


自分で考えた覚えはない。

けれど、

「次は、こうなる」

という確信だけが、

自然に浮かぶ。



その夜、

慶太は一つのデモ音源を受け取った。


知り合い経由の、

さらに知り合い。


無名のアーティスト。

ジャンル不明。

仮タイトルすらない。


「なんか変だから、

 一回聞いてほしい」


それだけのメッセージ。



再生ボタンを押した瞬間、

慶太は息を止めた。


音が、

Sound Universe側の配置をしていた。


完成形を前提にした展開。

余白を“待つ”構造。

聴き手が呼吸するタイミングまで

織り込まれている。


それは、

詩音の歌と、

自分のノートと、

同じ“世界の文法”だった。


——向こう側だ。



慶太は、

ほとんど無意識に返信を書いていた。


この曲、

最初から最後まで、

一つの流れとして聞こえます。


途中で削らないでください。


すでに、

完成しています。


送信してから、

自分が何を言ったのかに気づく。


完成している、だなんて。

それは、

今まで誰にも言ったことのない言葉だった。



翌朝、

詩音が珍しく黙っていた。


「どうした?」


「……昨日、夢見た」


そう言って、

彼女はゆっくり言葉を選ぶ。


「知らない人が、

 わたしの知らない曲を弾いてた」


「でも?」


「でもね、

 途中で止まらなかった」


慶太の背中を、

冷たいものが走った。


「その人、

 なんて言ってた?」


詩音は少し考えてから答えた。


「……

 “これでいい”って」



夜、

慶太のスマホが震えた。


例のアーティストからの返信。


正直、

なんで分かったのか分かりません。


でも、

初めて

“そのままでいい”

って言われました。


ありがとうございます。


短い文面だった。

けれど、

そこには確かな“応答”があった。



慶太は、

静かに椅子に座り直す。


Sound Universeは、

想像の世界じゃない。


名前を与えられたことで、

向こう側からも、こちらを認識し始めた。


それは、

門が開いた、というより、


——

耳が、つながった

という感覚だった。



詩音が、

隣に座る。


「ねえ」


「なに?」


「Sound Universeってさ」


彼女は、

少しだけ笑った。


「行く場所じゃなくて、

 聞こえる場所なんだね」


慶太は、

ゆっくりと頷いた。


「たぶん。

 それに、

 俺たちだけの場所じゃない」



その夜、

慶太はノートに

新しい項目を書き足した。


応答者:不明

ただし、

音楽の構造を共有している。


Sound Universeは、

まだ不安定だ。


けれど、

一方通行ではなくなった。


世界の向こう側で、

誰かが応えた。


音楽として。

意志として。


そしてその事実は、

やがて

現実世界に

静かな歪みを生み始めることになる。

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次の更新予定

2026年1月10日 18:00
2026年1月11日 18:00
2026年1月12日 18:00

SOUND UNIVERSE:特異点は、最初から音を知っていた けいた@The27Club @Keita-Sound-Universe

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