『俺達のグレートなキャンプ224 限界ギリギリ!下痢気味でシュトーレン作ろうぜ』

海山純平

第224話 限界ギリギリ!下痢気味でシュトーレン作ろうぜ

俺達のグレートなキャンプ224 限界ギリギリ!下痢気味でシュトーレン作ろうぜ


「よっしゃああああ!今日も最高のキャンプ日和だぜええええ!」

石川が両腕を空に突き上げ、冬の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んだ。目の前には雪化粧をした山々、足元には霜で白くなった芝生。千葉県某所のキャンプ場は、朝の静寂に包まれている。

「石川さん!テント張り終わりましたよ!いやー、冬キャンプって空気が美味しいっすね!」

千葉が満面の笑みで駆け寄ってくる。その顔は紅潮し、目は期待に輝いている。だが、その額にはうっすらと脂汗が浮かび、顔色が若干青白い。

「そうだろう!?冬のキャンプは最高なんだよ!そしてそして、今日の『奇抜でグレートなキャンプ』はこれだ!」

石川がバッグから取り出したのは、ドイツの伝統菓子『シュトーレン』のレシピ本。表紙にはドライフルーツがぎっしり詰まった、粉砂糖に包まれた美しいパンの写真が印刷されている。

「おおおお!シュトーレン!あの、ドイツの菓子パンっすね!」

「そう!ドライフルーツとナッツがたっぷり入った、あのグレートな菓子パンだ!アウトドアで作ったら、めちゃくちゃ映えるぞ!」

二人がハイタッチを交わそうとしたその時。

「ちょっと待って」

低く、冷たい声が割り込んだ。振り返ると、富山が腕組みをして立っている。ダウンジャケットに身を包み、ニット帽を深く被ったその表情は、明らかに疑念に満ちていた。眉間に深い皺が刻まれ、唇が一文字に結ばれている。

「二人とも、顔色悪いけど大丈夫?」

「え?」

石川と千葉が顔を見合わせる。確かに二人とも、若干青白い。石川の額にも脂汗が浮かび、千葉は時折腹部を押さえるような仕草をしている。

「あー、それがさ」

石川が頭を掻きながら苦笑いする。その笑顔が微妙に引きつっている。

「昨日の夜、冷蔵庫の奥から牛乳見つけてさ」

「賞味期限1週間過ぎてたんすけど」

千葉が続ける。その声が若干か細い。

「まだいけると思ったんだよな」

「僕もそう思ったんす。匂いも大丈夫だったし」

「二人で1リットル飲んじゃいました」

「は?」

富山の顔が凍りつく。眉間の皺がさらに深くなり、口が半開きになる。両手が腰に当てられ、完全に説教モードの体勢だ。

「バカなの!?というか、バカでしょ!?」

「いやいや、1週間くらい大丈夫だろうって」

「全然大丈夫じゃないでしょ!?今どんな状態!?」

「えーっと」

石川が腹部に手を当てる。グルグルグル、と明らかに異常な音が腹の奥から響いてくる。顔が一瞬歪み、額の汗が増える。

「ちょっと、お腹の調子が」

「僕も、さっきから」

千葉も同じように腹部を押さえる。その顔が苦悶に歪み、膝が若干内側に入る。明らかに我慢している様子だ。

「はぁああああ!?そんな状態でシュトーレン作るの!?」

富山が両手で顔を覆う。指の間から呆れ果てた目が覗いている。

「大丈夫大丈夫!むしろこういう限界状態でチャレンジするのが『奇抜でグレート』なんだよ!」

石川が親指を立てる。だがその笑顔は明らかに無理をしている。額から汗が一筋流れ落ちた。

「そうっす!どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなる!限界ギリギリでも!」

千葉も拳を握りしめる。だがその拳は小刻みに震えている。

「楽しくならないから!というか、今すぐ帰ったほうが」

「よっし、材料確認するぞー!」

石川が富山の言葉を遮り、大きなバッグから材料を取り出し始める。強力粉、バター、砂糖、ドライフルーツ、アーモンド、スパイス類。次々とテーブルに並べられていく。その手つきは若干震えており、時折動きが止まる。

「うわー、めっちゃ本格的っすね!」

千葉が目を輝かせる。だがその輝きの裏に、明らかな苦痛の色が混じっている。

「だろ!?本場ドイツのレシピで作るんだ!発酵時間も含めて4時間コースだぜ!」

「4時間!?」

富山の声が裏返る。

「あんたたち、4時間もつの!?」

「もつもつ!余裕余裕!」

石川が胸を叩く。その瞬間、グルルルルルと腹が大きく鳴り、石川の顔が一瞬青ざめる。両足がピンと伸び、全身が硬直する。

「...余裕じゃないじゃない」

「いや、これくらい...!」

石川が歯を食いしばる。額から汗が滴り落ち、首筋にも汗が流れている。

「よし!じゃあまず生地作りから!千葉、強力粉を計ってくれ!」

「了解っす!」

千葉がボウルに強力粉を入れ始める。だがその手が微妙に震えている。粉が周囲に散らばり、テーブルが白く染まる。顔は蒼白で、唇を噛みしめている。

「砂糖とバターも!」

「はい!」

千葉が材料を次々と加えていく。その動きが時折止まり、腹部を押さえる仕草が挟まる。膝が内側に入り、腰を少し曲げた姿勢になる。

「石川、あんた大丈夫?顔、真っ青よ」

富山が心配そうに覗き込む。

「へーきへーき!これくらい!」

石川が強がるが、その声は明らかに弱々しい。両手でテーブルの端を掴み、体重を支えている。

「じゃあ次、生地をこねるぞ!これが重要なんだ!」

石川が生地に手を突っ込む。ベチャベチャと粘着質な音が響く。その手つきは力強いが、時折動きが止まり、全身が硬直する。

「うおおお、いい感触だ!」

だがその顔は笑顔と苦悶が混ざり合った奇妙な表情だ。額の汗が生地にポタポタと落ちそうになり、慌てて顔を背ける。

「千葉も手伝ってくれ!」

「了解っす!」

千葉も生地をこね始める。二人並んで、必死に生地と格闘する姿は、傍から見れば微笑ましい光景だ。だが、二人とも明らかに限界が近い。千葉の膝がガクガクと震え、時折「うっ」と小さく呻く。

「もう見てられない...」

富山が頭を抱える。

その時、隣のサイトから若いカップルが様子を見に来た。

「あの、何作ってるんですか?」

女性が興味津々で覗き込む。

「シュトーレンです!ドイツの菓子パン!」

千葉が満面の笑みで答える。だがその笑顔は完全に引きつっており、額からは滝のような汗が流れている。

「わー、すごい!冬っぽくていいですね!」

「でしょでしょ!?めっちゃグレートでしょ!?」

石川が親指を立てる。だがその瞬間、グルルルルルルルという異様な音が響き渡る。周囲の空気が凍りつく。

「...お腹、空いてるんですね」

男性が気を遣って笑う。

「あ、ああ!そうそう!超腹減ってて!」

石川が慌てて誤魔化す。その顔は真っ赤になり、汗がさらに増える。

「じゃあ、完成楽しみにしてます!」

カップルが去っていく。

「...恥ずかしい」

富山がぼそりと呟く。

「よし!生地をこねたら、次は第一次発酵だ!」

石川が生地をボウルに入れ、ラップをかける。その手が震えている。

「30分くらい置いとけばいいから、その間にドライフルーツの準備を!」

「了解っす!」

千葉がドライフルーツを刻み始める。レーズン、オレンジピール、クランベリー。色とりどりのフルーツがまな板の上に広がる。だがその手つきは明らかに乱れており、時折包丁を持つ手が止まる。

「ううっ」

千葉が小さく呻き、腹部を押さえる。顔が歪み、全身に力が入る。両足を交差させ、必死に耐えている様子だ。

「千葉、トイレ行ってきたら?」

富山が優しく声をかける。

「いや、大丈夫っす!まだ、まだいけます!」

千葉が歯を食いしばる。その目には涙が浮かんでいる。

「無理しないで」

「石川さんと一緒にやるって決めたんで!」

その健気な言葉に、富山は何も言えなくなる。ただ、深いため息をつくだけだ。

30分後。

「よし!発酵完了!いい感じに膨らんでる!」

石川が生地を取り出す。プクッと膨らんだ生地は、確かにいい状態だ。

「次はドライフルーツとナッツを混ぜ込むぞ!」

石川が生地にフルーツを加え始める。その手つきは真剣そのものだが、顔は蒼白で、唇が紫色に近い。時折、全身が硬直し、数秒間動きが止まる。

「うおおおお、いい感じだああああ!」

叫び声が若干悲鳴じみている。

「千葉、ナッツも入れてくれ!」

「はい!」

千葉がアーモンドスライスを加える。だがその瞬間、千葉の膝がガクンと折れる。

「うわっ!」

「千葉!?」

石川が慌てて支える。だがその石川自身も膝が震えている。二人でよろめきながら、なんとか体勢を立て直す。

「だ、大丈夫っす...まだ、まだ...!」

千葉の声は蚊の鳴くような小ささだ。

「もう止めなさいよ!二人とも限界でしょ!?」

富山が立ち上がる。その表情は真剣で、本気で心配している。

「いや、ここまで来たら...!」

石川が生地を成形し始める。シュトーレン特有の楕円形に整えていく。その手つきは驚くほど丁寧だが、全身から尋常じゃない量の汗が流れている。シャツが完全に汗で濡れ、背中に張り付いている。

「よし、形できた!あとはオーブンで焼くだけだ!」

石川が持参したダッチオーブンに生地を入れる。その手が震え、ダッチオーブンが揺れる。

「千葉、炭の準備頼む!」

「了解...っす...!」

千葉がフラフラと炭を準備する。その足取りは完全に千鳥足で、今にも倒れそうだ。炭をつかむ手が震え、何度も落としそうになる。

「大丈夫っす、大丈夫...」

自分に言い聞かせるように呟きながら、なんとか炭に火をつける。

「よっし!じゃあ焼くぞ!40分だ!」

石川がダッチオーブンを炭の上に設置する。その瞬間、またグルルルルルという音が響く。今度は石川と千葉、両方からだ。二人の腹が不協和音を奏でている。

「...もう聞いてられない」

富山が耳を塞ぐ。

40分間、石川と千葉は地獄のような時間を過ごした。二人とも椅子に座っているが、その姿勢は異様だ。石川は両手で腹部を押さえ、前かがみになっている。顔は完全に青ざめ、唇は紫色になっている。額だけでなく、首筋、背中、全身から汗が噴き出している。

千葉はさらに酷い状態だ。椅子に座りながら、両足を交差させ、上半身を丸めている。時折「ううっ」「あああ」と小さく呻き、全身を震わせている。目を固く閉じ、歯を食いしばり、必死に耐えている。その姿はまるで修行僧のようだ。

「あと10分...あと10分...」

石川が呪文のように呟く。

「もう無理っす...無理っす...」

千葉が泣きそうな声で言う。

「頑張れ千葉!もうすぐだ!もうすぐグレートなシュトーレンが...!」

石川が励ますが、その声には全く力がない。

富山は二人の様子を見て、完全に諦めの境地に達していた。ため息すら出ない。ただ、呆然と二人を見つめている。

そして、40分が経過した。

「タイマー鳴ったぞ!完成だ!」

石川が立ち上がろうとするが、膝が笑って立てない。

「ちょ、ちょっと待って...」

なんとか立ち上がり、フラフラとダッチオーブンに近づく。千葉も同じように、まるでゾンビのような動きでついていく。

「開けるぞ...!」

石川が蓋を開ける。その瞬間、甘い香りが広がった。

そして現れたシュトーレン。

こんがりと焼けた表面、ドライフルーツが透けて見える断面。確かにシュトーレンの形をしている。

だが。

その色は、妙に灰色がかった茶色だった。どこか不健康な、濁ったような色合い。

石川と千葉は、そのシュトーレンをじっと見つめる。

そして、石川がぼそりと呟いた。

「...昨日の牛乳も、こんな色だったな」

その言葉が引き金になった。

千葉の顔が一気に青ざめ、そして緑色に変わる。

「うっ...うぇっ...!」

「千葉!?」

石川も同じように顔色が変わる。

「やば...やばい...!」

二人が同時に腹部を押さえ、その場にうずくまる。

「ちょっと!?二人とも!?」

富山が慌てて駆け寄る。

だが、次の瞬間。

石川と千葉は、完全に意識を失った。

「え!?ちょっと!?石川!?千葉!?」

富山がパニックになる。

「誰か!救急車!救急車呼んでください!」

周囲のキャンパーたちが慌てて駆け寄ってくる。

「どうしたんですか!?」

「食中毒だと思います!腐った牛乳飲んだって!」

「え!?」

瞬く間に救急車が呼ばれ、サイレンの音が近づいてくる。

救急隊員が到着し、石川と千葉をストレッチャーに乗せる。二人とも意識は朦朧としており、うわ言のように何かを呟いている。

「グレート...グレートな...」

「キャンプ...楽しい...」

「もう黙って!」

富山が二人の額を叩く。その目には涙が浮かんでいる。

救急車が出発する直前、石川が微かに目を開けた。

「富山...シュトーレン...食べて...」

「食べるわけないでしょバカ!」

富山の怒鳴り声を背に、救急車は去っていった。

キャンプサイトには、灰色がかったシュトーレンだけが残された。

その隣には「俺達のグレートなキャンプ224 大成功!」と書かれたメモが風に揺れていた。

周囲のキャンパーたちは、呆然とその光景を見つめていた。

「...あの人たち、大丈夫かな」

「きっと大丈夫だよ。でも、もう二度とやらないでほしいね」

「でも、なんか楽しそうだったよね」

「楽しそう...だった?」

誰もがそう思った。限界ギリギリで、苦しみながらも、二人は確かに楽しんでいた。

それが『奇抜でグレートなキャンプ』。

石川と千葉の、止まらない冒険は、今日もまた伝説を作ったのだった。

そして数時間後、病院のベッドで目を覚ました石川は、第一声でこう言った。

「次は、下痢気味でフランスパン作ろうぜ」

隣のベッドの千葉が親指を立てる。

「いいっすね!グレートっす!」

「あんたたち、本当にバカでしょ!!!」

富山の怒号が、病院中に響き渡った。

(完)

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『俺達のグレートなキャンプ224 限界ギリギリ!下痢気味でシュトーレン作ろうぜ』 海山純平 @umiyama117

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