2月14日 / 影

初詣の日から悪夢は、よりひどくなった。

いくら頑張っても、最後には彼女たちと終わってしまう。

枯葉のようにどこかへ飛んでいき、風化した欠片しか残らない。

僕は新しい銀杏の葉を大事に手で包むのに、それすら消えてしまう。


抗うように、僕は舞との関係を良くするため努力した。


「何か助けになれることがあれば言ってほしい」

そう伝えると、「ありがとう。大丈夫だよ」と返された。

食い下がろうとしたが、冷静に考える。

いま手伝えることなんて、ほとんどない。

たまに会った時に研究が大変だという話を聞くことしかできない。

だから次の週末が、待ち遠しくてたまらなかった。


週末、雪が降り始めた。

僕は傘を持って駅まで迎えに行き、白い息を吐きながら到着を待つ。

駅の賑わいが心を揺らし、遠くを眺めていた。


「久しぶり、ゆうくん。」

「わ、久しぶり!」

「驚きすぎだよ。」

「ちょっと考え事しててさ。ほら、行こう」


雪に打たれながら自宅へ向かう。

寒いとか、傘なんて役に立たないとか、そんな会話をしながら駆け足で帰った。


家に着いてコートを脱ぎ、暖をとる。

温かさのせいか、ぼーっとどこかを見ていた。

震えが落ち着いた頃、舞がカバンから何かを取り出し、僕に渡した。


「これ、バレンタインだから。」

「ありがとう……っ。」


咄嗟に出そうになった言葉を飲み込み、笑顔を作る。

一瞬、舞じゃなくて「――」だと思ってしまった。

ほんの一瞬だったが、舞も目を細めたように見えた。


「ね、開けてみてよ。」


包装紙を破いて箱を取り出す。

シンプルで可愛らしいデザイン。

手作りで用意してくれたことが分かった。

蓋をそっと開けると、可愛らしい動物たちのチョコが顔を出す。


「うわー、すごいね! めっちゃ可愛い。」

「でしょ。かわいいよね。上手にできたんだ!」


得意げな表情に、僕は安堵して箱に戻す。

中にはクラゲのチョコが混ざっていた。

犬や猫は分かる。けれど、どうしてクラゲなんだろう。

関連性は浮かばない。


「食べていい?」

舞は小さく頷いた。

チョコを口に運ぶ。

僕の熱でゆっくり溶け、甘い香りが広がった。


「どう?」

「うん、おいしいよ。すごく甘い。」

「甘すぎたかな。ゆうくん、もう少し控えめな方がよかった?」

「そんなことない。舞の作ってくれたチョコ、すごく嬉しい」

「よかった。私も嬉しい」


僕は舞の肩を引き寄せ、唇にそっと触れた。

「やっぱりちょっと甘すぎたかも」

そう言って舞ははにかむ。

愛おしさでいっぱいになり、抱きしめた。


「好きだよ」

「私も……好き」


触れた肌から伝わるのは、陽の光みたいな温かさ。

指先を少し動かすと、舞も答えるように深く指を絡めてきた。


「クリスマスのあとからさ……少しぎこちなかったでしょ。私も忙しかったし。だからね。こうしてね。気持ちが通じ合ってるの、嬉しいなって思ってるんだ」

「僕も同じだよ。君のことをずっと考えてた。支えになりたいって思ってたんだ。だからこうして一緒に過ごせるのが嬉しい」

「プレゼントでもらったクラゲのフィギュアね。毎日見て、ゆうくんのこと思い出してるんだよ。」

「……そうなんだ……嬉しいな。一緒だね、僕たち」


小さく口が開いて、指先が震えた気がした。

舞は肩に頭を寄せているから、表情は見えない。

誤魔化すように、僕は強く手を握った。

ああ、分かってる。

あの言葉を言えば、楽になれる。


「ね、言ってほしい。私に教えてくれるんでしょ。」

「愛してるよ」


再び唇を重ねた。

柔らかな温かさと、苦い舌触りが後に残る。

舞の表情は酔ったように赤く染まり、緩んだ体を預けてくる。

頭痛がひどい。

愛とは素晴らしいものだ。

甘い微睡に沈んでいくのも、悪くない。

意味の分からないものが、僕を上書きしていく。

彼女の瞳に映る僕をみてそう感じた。

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