短編集
和楽 詩
第1話 春のネモフィラ
『春』それは、始まりの季節でもあり、別れの季節でもある。
私と彼との出会いも桜の花咲く季節だった。
彼と出会ったのは、私が高校生の頃でその時私は、この町に引っ越して来たばかりだった。
私は本が好きで図書委員もしていた。
その日もいつものように午前の授業が終わると、図書室へ向かう。
いつもは私が一番乗りの図書室だがその日は先客がいた。
彼は、光が差し込む窓際で小さな文庫本を開いていた。
彼の周りだけどこか空気が違っていた。
「……さん、…みねさん、藤峰さん!」
「はいっっ!」
彼の顔が近くにある。
どうやら、見いってしまったようだ。
「大丈夫?」
「ありがとう。
でも、なんで……私の名前……」
「?ああ。なんでって俺毎日、
ここ来てたじゃん。俺、磯田。」
「そうだっけ?」
「本当に大丈夫か?」
「ごめんね。なんでもないの。」
曖昧に返事を返す。
でも、彼とは初めて会った気がする。
私は不思議な気分だった。
彼といくつか話した後、クラスの女子がプリントを届けに来たので、彼女と一緒に図書室を出た。
「藤峰さん。
さっき、誰と話してたの?」
廊下で唐突にそんなことを言われた。
「誰って、磯田君。」
「?そんな子居たっけ?」
私はどういうことなのか、よく分からなかった。
翌日学校に着くと、真っ先に図書室に向かう。
彼は、いつもの場所にいた。
「どうしたの?そんな血相変えて。」
私は静かに聞いた。
「あなたはいったい誰なの?」
「磯田だよ。」
当然のように答える。
「……昨日クラスの子がそんな子は居ないって言ってた。もちろん、先生にも確認した。でも、言われたことは一緒だった…」
すると、彼は文庫本をゆっくりと閉じて私を見る。
「君と俺は似てるんだ。だから君の気持ちは、わかる。でも、逃げるばかりではダメだ。君を必要としている人は必ずいる。後は、君が勇気を出すだけだ。」
そして、笑った。
でも、その顔はどこか寂しそうな笑顔だった。
ひときわ強い風が吹いてカーテンがはためく。
風がおさまった頃、そこには彼が読んでいた、文庫本があった。
もうそれきり彼とは会えていない。
しかし、彼の言葉を胸に私は現在を生きている。
─────────────────
同じ頃、ここは数十年後の世界。
何日か前に過去にとんだ
ヤツがそろそろ帰ってくる。
マシンの扉が開いて、ヤツが出てきた。
「おかえり。‘‘藤峰’’」
「……」
「お母さんには会えたのか?」
「……あぁ」
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