『俺達のグレートなキャンプ223 現代に蘇った彰義隊の苦労話を聞こう』
海山純平
第223話 現代に蘇った彰義隊の苦労話を聞こう
俺達のグレートなキャンプ223 現代に蘇った彰義隊の苦労話を聞こう
「さあ!彰義隊の皆さん!現代の我々の声が聞こえますか!」
石川が掛け軸に向かって大声で呼びかける。焚き火の前に線香を立て、団子を供え、両手を合わせる。パンパンと二回手を叩く。
「どうか現代に降臨して、その物語を聞かせてください!」
「ちょ、ちょっと声が大きいって...!」
富山が周りを気にしながら小声で注意する。案の定、隣のサイトから「何やってんだあいつら...」というヒソヒソ声が聞こえてくる。
その瞬間だった。
地面がゴゴゴゴゴ...と振動し始める。
「え?地震!?」
千葉が立ち上がる。焚き火の炎が揺れ、火の粉が舞い上がる。
「違う...これは...!」
石川の目が爛々と輝く。期待に満ちた表情。
焚き火の周囲の地面が盛り上がり始める。ボコボコと土が膨らみ、草が引きちぎれる音。そして次々と、手が突き出してくる!泥だらけの、ボロボロの着物を着た腕が!
「うわああああ!!」
富山が悲鳴を上げる。
「すげええええ!!本当に出てきた!!」
千葉がスマホを構えて連写開始。カシャカシャカシャ!
一人、二人、三人...次々と地面から這い出してくる幽霊たち。いや、もはやゾンビに近い。体はボロボロ、服は泥と血で汚れ、髪は乱れ放題。でも確かに江戸時代の武士の格好をしている。刀を差し、中には鉄砲を担いでいる者も。
「げほっげほっ...久しぶりの地上だぜ...」
「あー肩凝ったぁ...土の中、やっぱ狭いわぁ...」
「誰だよ呼び出したの。いい夢見てたのに」
ゾンビ化した彰義隊士たちが、口々に文句を言いながら地面から這い出てくる。その数、なんと二十人以上!
「お、おお...大成功だ...!」
石川が感動のあまり涙ぐむ。
「成功じゃないわよ!どうすんのよこれ!キャンプ場がゾンビだらけじゃない!」
富山がパニック状態。
「いやー、悪いねぇ。急に呼び出されちゃってさ」
一人の隊士が土を払いながら近づいてくる。顔の半分に大きな傷跡があり、左目が白く濁っている。でも口調は妙に軽い。
「あ、あの...どちら様ですか...?」
石川が恐る恐る聞く。
「俺?俺は彰義隊士の天野ってんだ。まあ、下っ端の鉄砲隊だけどな。こっちは佐藤、あっちは田中、そんで山田に鈴木...」
「全員現代的な名前じゃねえか!」
富山がツッコむ。
「いやいや、江戸時代にもこういう名前多かったんだよ。ってか、俺らみんな元々は農民とか商人の次男三男坊だしな」
天野がニヤリと笑う。歯が数本欠けている。
「で、何?話聞きたいって?」
「は、はい...上野戦争前後の苦労話を...」
「苦労話ぁ?嫌んなるほどあるわ」
すると、他の隊士たちもゾロゾロと焚き火の周りに集まってくる。勝手に地面に座り込む者、木に寄りかかる者、宙に浮いてあぐらをかく者。完全に我が物顔。
「ちょ、ちょっと...周りのキャンパーさんたちが...」
富山が周囲を見回す。既に複数のテントから人が出てきて、こちらをジロジロ見ている。当然だ。ボロボロの格好をした怪しい集団が二十人以上、突然現れたのだから。
「何あれ...?コスプレ...?」
「いや、リアルすぎない...?」
「通報した方がいいんじゃ...」
ヒソヒソと不安そうな声が聞こえてくる。
「あー、気にすんなって。どうせ一般人には俺ら半透明にしか見えねえから」
天野が手をヒラヒラ振る。確かに、遠くから見ると隊士たちの体は半透明で、向こう側の景色が透けて見える。
「それでも十分怖いわよ...」
富山がため息。
「それより!話聞かせてくださいよ!」
石川が急に元気を取り戻す。
「あ、その前にさ」
天野が指を立てる。
「何か飲み物ない?喉渇いててさ」
「幽霊が喉渇くんですか...?」
千葉が首を傾げる。
「渇くんだよこれが。ずっと地面の中いたし」
「えーっと...お茶でいいですか?」
富山がヤカンからお茶を注ごうとする。
「お茶ぁ?もっとこう、気の利いたもんないの?」
「贅沢言うな!」
富山がキレる。
「あ、俺コーヒーがいいな」
別の隊士が手を挙げる。小柄で、顔に大きな火傷の跡がある。
「私も!ブラック で!」
「俺はミルク多めで!」
「砂糖三つ!」
次々とリクエストが飛んでくる。
「なんなのあんたたち!図々しいにも程があるわよ!」
富山が怒鳴る。しかし、長年のキャンプ経験から、律儀にもコーヒーの準備を始める。ドリップセットを取り出し、お湯を沸かす。
「いやぁ、すまんすまん。でもな、俺ら死ぬ前にコーヒー飲めなかったんだよ」
天野が申し訳なさそうに言う。
「コーヒー?江戸時代末期にコーヒーあったんですか?」
千葉が興味津々。
「あったあった。長崎とかで飲めたらしいぜ。でも俺ら貧乏武士だから飲めなくてさ。『いつか飲んでみてぇなぁ』って思ってたんだよ」
「そうだったんですか...」
「だから今、チャンスだろ?」
天野がニッと笑う。憎めない笑顔。
「はいはい、わかったわよ...」
富山がブツブツ言いながら、二十杯以上のコーヒーを淹れ始める。キャンプ道具でこれは相当な重労働。ドリッパーからポタポタとコーヒーが落ちる音が静かな夜に響く。
「それで、苦労話なんだけどさ」
天野がコーヒーカップ(使い捨ての紙コップだが)を受け取りながら話し始める。
「まず、彰義隊ってのがそもそも苦労の塊よ」
「と、言いますと?」
石川が身を乗り出す。完全にインタビューモード。
「だってさ、俺らって要するに『徳川家を守る!』って集まった連中だろ?でも肝心の徳川慶喜様がさっさと江戸城明け渡して、水戸に引っ込んじまったわけ」
「あー...」
「そう、『あー』なのよ。俺ら何のために集まったんだっけ?ってなるじゃん」
天野がコーヒーを一口飲む。「うめぇ!」と感動の声。
「でも上野に立て籠もったんでしょ?」
「立て籠もったっていうか...行き場がなくてな」
別の隊士が口を挟む。顔が細長く、前歯が出ている。名札には「佐藤」と書いてある。
「だって考えてみろよ。『幕府のために戦う!』って意気込んで集まったのに、戦う相手もいないし、慶喜様は『戦うな』って言うし。じゃあどうすんのって話よ」
「それで上野に...」
「そう。寛永寺に『とりあえず』集まった。『とりあえず』がキーワードな」
佐藤もコーヒーを飲んで満足そうな顔。
「でもその『とりあえず』が長引いちゃってさ」
今度は別の隊士が話し始める。名札には「田中」。顔の右半分が焼け焦げている。
「最初は百人くらいだったんだよ。でもどんどん増えてって、最終的には五百人超え。寛永寺パンパン」
「五百人...すごい数ですね」
千葉が目を丸くする。
「すごいっていうか地獄だったぜ。まずトイレが足りない」
「また トイレの話...」
富山がため息。
「いや、マジで切実な問題なんだって!朝なんて行列が五十人とかだぜ?で、我慢できなくなって裏の林で...」
「言わなくていいです!」
富山が手で制する。
「あと食事もヤバかった」
天野が続ける。
「だってさ、五百人分の飯なんてどうすんのって話。米が足りない、味噌が足りない、薪が足りない。毎日『足りない尽くし』」
「大変だったんですね...」
「しかもな、その時期ってもう新政府が江戸に迫ってきてるわけじゃん?だから物資調達にも行けない。『あ、彰義隊だ』ってバレたらアウトだし」
「じゃあどうしてたんですか?」
「変装よ変装。農民の格好して買い出し行ってた」
佐藤が笑う。
「でも俺らって農民出身多いから、逆にリアルすぎて怪しまれたりしてな。『なんでその農民、米を五俵も買うんだ?』って」
「バレバレじゃないですか」
千葉がツッコむ。
「バレバレなのよ。でも店の方も『聞かなかったことにする』ってスタンスでさ。みんな優しかったよ」
その時、遠くから「おーい、何やってんだー?」という声。隣のサイトのキャンパーが心配そうにこちらを見ている。
「あ、大丈夫です!ちょっと...演劇の練習してるだけなんで!」
石川が慌てて手を振る。
「演劇...?夜中に...?」
「そうです!野外劇です!ご迷惑おかけします!」
「...まあ、頑張ってください...」
キャンパーが不審そうに自分のテントに戻る。
「演劇って...苦しい言い訳ね」
富山がため息。
「それより話の続き!」
石川が興奮気味に隊士たちに向き直る。
「あ、そうそう。話してて思い出したんだけど」
田中が身を乗り出す。
「上野にいた時、あの有名人がいてさ」
「有名人?」
「ほら、天野八郎!天野八郎だよ!」
「誰ですか?」
千葉が首を傾げる。
「隊長の一人だよ!めちゃくちゃ強いって噂で、みんな憧れてた」
「へぇ!どんな人だったんですか?」
「それがさ...」
田中が声を潜める。他の隊士たちもニヤニヤしながら集まってくる。
「めっちゃ几帳面で神経質なの」
「え」
「朝起きると必ず刀を磨く。で、磨き方が尋常じゃない。一時間とか平気でやってんの」
「それ几帳面っていうか...」
「あと食事の時もさ、必ず箸を揃えて、茶碗を決まった位置に置いて、一口ごとに箸を置くの」
「めんどくさ...」
富山が思わず本音。
「でもな、戦いになると別人なのよ。めちゃくちゃ強い。新政府軍の兵士をバッタバッタと」
「そこはカッコいいですね」
「でも終わるとまた神経質モードに戻って、『血が服についた...』ってブツブツ言いながら洗濯し始めるの」
「ギャップがすごい...」
千葉が笑う。
「あと渋沢成一郎様もいたよな」
佐藤が言う。
「あ、あの有名な渋沢栄一の従兄弟の?」
石川が反応する。
「そうそう。めちゃくちゃ頭良くてさ、『これからの戦いはこうだ』とか理論的に説明してくれるわけ」
「ほう」
「でもな、本人は実戦経験ほとんどなくてさ。『理論上はこうなる』って言ってたことが、実際の戦闘では全然違ったりして」
「ああ...理論と実践の違いですね」
「そう。で、本人もそれに気づいてて、戦闘後に『...理論が間違ってたかもしれん』ってしょんぼりしてんの。可愛いんだよこれが」
隊士たちが笑う。ゾンビの集団が笑う光景は、かなりシュール。
「それでさ、いよいよ上野戦争になるわけじゃん」
天野が話を進める。
「5月15日だったよな。朝から新政府軍が取り囲んで」
「あれはもう地獄だったわ」
別の隊士が震える声で言う。名札には「山田」と書いてある。
「だって相手はアームストロング砲持ってんだぜ?」
「アームストロング砲...!」
石川が食いつく。
「新兵器ですよね!」
「新兵器っていうか、チート兵器だよあれ。バカスカ撃ってくるわ、当たったら建物ごと吹っ飛ぶわ」
「怖い...」
「しかも俺らは旧式の火縄銃とかだぜ?戦になるかよ」
山田が肩をすくめる。
「でも戦ったんですよね?」
「戦ったっていうか...撃たれた、の方が正確かな」
「ああ...」
「最初の砲撃でもう混乱よ。『うわあああ!』って逃げ回る奴、『応戦だ!』って撃ち返そうとする奴、『どうすんだよ!』って泣いてる奴」
「カオスですね...」
「カオスなんてもんじゃない。しかもさ、寛永寺って木造建築だろ?砲弾当たったら燃えるわけ」
「ああ...」
「そう。で、火が広がって、煙が充満して、前が見えなくなるわけ。もう何が何だか」
隊士たちが次々と当時の様子を語る。コーヒーを飲みながら、まるで昔話をするように。でもその内容は壮絶。
「俺なんてさ、逃げてる最中に味方とぶつかって転んで、そのまま踏まれて」
「私は煙で方向わからなくなって、気づいたら敵陣の方に走ってた」
「俺は火縄銃の火薬が湿気ってて、『撃てねえ!』ってパニックになってたら後ろから斬られた」
「みんな散々じゃないですか...」
千葉が同情の表情。
「散々なのよ。で、結局半日くらいで壊滅」
「早い...」
「早いのよ。朝始まって、夕方にはもう終わり。五百人いたのに、生き残ったの半分以下」
しんみりとした空気が流れる。焚き火の炎がパチパチと音を立てる。
「あの...亡くなった後はどうなったんですか?」
石川が恐る恐る聞く。
「ああ、それがまた酷くてな」
天野がコーヒーをもう一杯おかわりしながら言う。富山が渋々注ぐ。
「新政府がさ、『賊軍の遺体は埋葬するな』って命令出したわけ」
「え...」
「そう。だから俺らの遺体、上野にずっと放置」
「そんな...」
「まあ、ひどい話よ。でも地元の人たちが『可哀想だ』って、こっそり埋葬してくれたんだけどな」
「いい人たちですね...」
「いい人たちだよ。感謝してる」
その時だった。
突然、地面から別の声が聞こえる。
「おーい、上の連中ー!下で寝てる俺らのことも思い出せー!」
「!」
地面がまた揺れ始める。そして新たに五人ほどの隊士が地面から這い出してくる。
「うわ、また増えた!」
富山が絶叫。
「あ、お前ら起きたのか」
天野が手を振る。
「起きるよ。上で楽しそうに話してるの聞こえたし」
新たに現れた隊士が土を払う。この人は比較的服がきれいで、若い。
「あの、あなたは...?」
「俺は鈴木。年齢は二十歳で戦死」
「若い...」
「若いんだよ。だから経験も浅くてさ、初陣が上野戦争だったわけ」
鈴木が苦笑い。
「それで戦死って...辛いですね」
「辛いっていうか、何が起きてるかわからないうちに死んでた」
「え?」
「だってさ、『よし戦うぞ!』って気合入れてたら、いきなりドカーンって爆発音。で、気づいたら天井が落ちてきて、下敷きに」
「それは...」
「で、『痛ぇ!』って思った瞬間には死んでた。早すぎない?」
「早すぎます...」
千葉が思わず笑ってしまう。失礼だが、あまりにもあっけない。
「笑うなよ!俺だって本当は『うおおお!』って勇ましく戦いたかったんだから!」
鈴木がムキになる。でも表情はどこか笑っている。
「すみません、でも...なんか、想像してた戦死とは違って...」
「だろ?みんな映画とかドラマみたいな華々しい戦死を想像するけど、実際はこんなもんよ」
天野が肩をすくめる。
その時、またハプニング発生。
遠くで悲鳴が聞こえる。
「きゃああああ!!」
振り返ると、別のキャンプサイトの女性が腰を抜かしている。その前には彰義隊士の一人が立っている。
「あ、すみません。トイレ探してたんで...」
隊士が申し訳なさそうに手を振る。
「幽霊があああ!!」
「だから幽霊ですけど!悪霊じゃないんで!」
隊士が弁解するが、女性はパニック状態。そのパートナーらしき男性が出てきて、「何やってんだお前ら!」と怒鳴る。
「ちょ、ちょっと!佐藤!戻ってきて!」
天野が慌てて呼ぶ。
「いや、だってトイレ...」
「幽霊がトイレ行くかよ!」
「行きたくなるんだって!」
「もういい!こっち来い!」
佐藤が渋々戻ってくる。後ろでは男性が「通報するぞ!」と叫んでいる。
「まずいですよ...騒ぎが大きくなりすぎてます...」
富山が頭を抱える。
「大丈夫大丈夫!朝になったら俺ら消えるから!」
天野が楽観的。
「それまで持つかしら...」
「それより話の続き聞きたくない?まだまだ面白い話あるぞ」
「面白いって...」
「例えばさ、上野戦争の後、生き残った奴らがどうなったか」
「ああ、それは気になります」
石川が食いつく。
「散り散りになったんだよ。ある奴は東北に逃げて会津で戦い、ある奴は榎本武揚についてって函館まで行った」
「函館戦争まで...」
「そう。俺らはもう死んでたから行けなかったけど、羨ましかったな」
「羨ましい...んですか?」
「だってさ、最後まで戦えるってことだろ?俺らは途中で脱落しちまったけど、あいつらは最後まで信念貫いたんだから」
天野の表情が少し寂しそう。
「でもな、俺らには俺らなりの信念があったんだぜ」
「信念...?」
「そう。『武士として生きる』ってやつ」
「...」
「俺らのほとんどは、本当は武士じゃなかった。農民だったり、商人だったり。でもな、『武士になりたい』『立派に生きたい』って思って彰義隊に入ったんだ」
「そうだったんですね...」
「結果は散々だったけどな。でも、あの時の俺らは確かに『武士』だったと思うんだ」
天野がコーヒーを飲み干す。
「...かっこいいです」
千葉が素直に感動した様子。
「かっこよくねえよ。だって負けたし」
「でも、信念を貫いたんですよね」
「まあ...そうかもな」
天野が照れくさそうに頭をかく。
「あ、そういえばさ」
別の隊士が手を挙げる。名札には「伊藤」と書いてある。
「俺、戦いの前日に日記書いててさ」
「日記?」
「そう。『明日、戦になる。生きて帰れるかわからない。でもやるしかない』って書いた」
「...」
「でもな、その後に『腹減った。飯まだかな』って書いてあるんだよ」
「ええ...」
「だってマジで腹減ってたし!真面目な日記書いてても、現実は腹が減るんだよ!」
隊士たちが爆笑。
「人間臭いですね...」
石川も笑う。
そうやって夜は更けていく。隊士たちは次々と思い出話を語り、石川たちは聞き入る。富山は何度もコーヒーをおかわりし(幽霊なのに何杯飲むんだと文句を言いながら)、千葉は熱心にメモを取る。
周りのキャンパーたちは最初こそ不審がっていたが、そのうち「ああ、また変なことやってるな」という諦めの境地に達したようで、あまり気にしなくなった。中には「面白そうだな」と遠くから見ている人もいる。
「あ、そうだ!」
突然、田中が立ち上がる。
「俺、戦いの時に落とした刀、どこにあるか知ってる人いない?」
「知るかよ!」
全員でツッコむ。
「いや、だってあれ借り物だったんだよ。返さないと...」
「もう150年以上前だぞ!」
「でも...」
「諦めろ!」
またハプニング。今度は別の隊士が焚き火に近づきすぎて、服に火が移る。
「うわあああ!燃えてる!燃えてる!」
「水だ!水!」
慌てて水をかける。ジュッという音とともに煙が上がる。
「もう死んでるのに燃えるのかよ!」
「燃えるんだよ!痛かった!」
「ゾンビなのに痛覚あるんですね...」
千葉が冷静にツッコむ。
そんなドタバタを繰り返しながら、夜は深まっていく。
午前3時を過ぎた頃。
「そろそろ...疲れてきたな...」
天野があくびをする。
「幽霊が疲れるんですか?」
「疲れるんだよ。ずっと喋ってたし」
「でも楽しかったですよ!色々な話が聞けて!」
石川が満足そう。
「俺らも楽しかったぜ。久しぶりに人と喋ったし」
「普段は何してるんですか?」
「地面の中でボーッとしてる」
「...寂しくないですか?」
「寂しいよ。だから今日は楽しかった。ありがとな」
天野が笑う。優しい笑顔。
「こちらこそ、ありがとうございました」
石川が深々と頭を下げる。千葉も、富山も。
「じゃあ、そろそろ戻るわ。朝日が昇る前に」
「そうですね...」
隊士たちが一人、また一人と地面に戻り始める。土の中に沈んでいく。
「また呼んでくれよな」
「はい、また...いつか」
「コーヒー、美味しかったぜ」
「どういたしまして」
「じゃあな」
「さようなら」
全員が地面に戻り、辺りは再び静かになる。焚き火だけがパチパチと音を立てている。
「...終わったわね」
富山がため息。でもその顔は少し笑っている。
「すごかったですね...本物の彰義隊と話せるなんて」
千葉が興奮気味。
「ああ...本当にグレートなキャンプだった...」
石川が満足そうに空を見上げる。
東の空が少しずつ明るくなり始めている。
「さて、片付けますか」
「そうね」
三人で片付けを始める。掛け軸をしまい、線香を消し、団子を...
「あれ?団子がない」
「え?」
見ると、供えていたはずの団子が一つもない。
「...食べていったのかしら」
「幽霊が団子を...」
「まあ、いいじゃないですか。供養になったってことで」
千葉が笑う。
朝日が昇り始める。キャンプ場が金色に染まっていく。
「さあ、朝ごはん作りますか」
「そうですね」
「今度のキャンプは何するんですか?石川さん」
「ふふふ...それはお楽しみ」
石川がニヤリと笑う。
「また変なことするんでしょうね...」
富山がため息をつきながらも、その顔は笑っている。
こうして『俺達のグレートなキャンプ223』は幕を閉じた。
地面の下では、彰義隊士たちがまた長い眠りについている。
でもきっと、彼らの顔は少し笑っているはずだ。
久しぶりに、楽しい夜を過ごせたのだから。
(完)
『俺達のグレートなキャンプ223 現代に蘇った彰義隊の苦労話を聞こう』 海山純平 @umiyama117
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます