第7話 甘い夢
――優しい甘さ、甘美な甘さ、魅惑的な甘さ。
まるで砂糖菓子の中に沈んでいくような感覚だった。
何か柔らかなものに包まれて、体も意識も、すべて溶けていく。
そこは牢獄のようでいて、心地よくて、二度と起きなくてもいい――そんな甘い絶望だった。
だがこの感覚は、不思議と悪くない。
そうだ。
この世界に来てから、初めて“眠っている”と感じている。
今までの眠りは、どこか空に浮かんでいるだけだった。
夢を見ていても、眠った実感がない。
朝が来ても、休んだという感覚がない。
なぜ?
どうして?
――夢が続いているから?
――夢の中で醒めていたから?
それを考えた瞬間、体の奥で何かがざわついた。
……この続きを知ってはいけない。
本能がそう告げていた。
分かっているはずなのに、思考の糸がどこかで切れる。
「……ここは……」
次に目を開けた時、ウールの建てた家の天井があった。
ベッドの上。
周囲を見渡すが、白い少女――ブランマンジェはいなかった。
昨日のあの……奇妙な感覚。
恐ろしいような……優しいような……矛盾した感覚。
つい体をあちこち触って違和感がないか確かめてしまう。
あれは夢だったのか?
それくらい現実感のない存在。
だが、部屋の空気だけがどこか違う。
昨夜の妙に甘く濃厚な香り。
テーブルの上には、それをまとった白い封筒がひとつ置かれていた。
初基はゆっくりと歩いて近づき、躊躇いながら封を切った。
x:世界の重なりの軸のフラクタル
y:時間の重なりの軸のフラクタル
z:虚構の重なりの軸のフラクタル
――これらを見つけることが、このゲームのルール。
「……ゲームの、ルール?」
意味がわからない。
こんな暗号のような言葉を残して、あの少女はどこへ行ったのか。
世界のフラクタル。
時間のフラクタル。
虚構のフラクタル。
ブランマンジェだと名乗っていた彼女は、この言葉にどんな意味を込めたのだろうか。
たしかに何かが始まっている気はする。
“この世界を救う”という話や、この“世界のルール”とやらはともかく。
「……シールやウールにも見せた方がいいか?」
あの二人は記憶を失っている。
それもきっと……この“ゲーム”と関係している。
胸の奥に小さな焦燥が灯る。
「どの道……探すしかないのか」
ブランマンジェが残した“謎”は、甘い夢みたいにぼやけているくせに、奇妙にリアルだった。
初基は書き置きを折りたたんで懐にしまい込んだ。
今度会ったとき、あの白い少女に言ってやる。
「おい、ルール説明はちゃんとやっていけっての」
だが――いつかまた、あの甘い眠りが訪れることを、
ほんの少しだけ期待してしまっている自分に気付いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます