相似性魔法学フラクタルガールズ

@Epicygram

第1話 異世界?


「あなたは来世で何を望みますか?」


 目の前の女神様は問いかけてくる。


「急に言われても……すぐには思いつかないですね」


「では、あなたの好きなものは?」


 あぁ、いつもの夢ね。


 どうせ夢の中だからと、初基はつきは適当に答える。


「趣味はいくつかありますけど……変わったものだと、万華鏡とか好きですね」


「万華鏡ですか?」


「子供の頃からなぜかすごい好きなんですよね。変わった趣味なのは自覚してますけど、四角いキューブ状のものがあったり結構面白いんですよ」


「キューブ状……?」


「キューブ状の物をインテリアとして飾っておいて、気が向いたときに覗いて癒されたり、自作するのも面白かったりで」


「なるほど」


「最近は関連して万華鏡みたいに図形を重ねたフラクタルが好きで、フラクタルアートを作るのも好きだったりします」


「フラクタルアート? ですか?」


「繰り返しの図形を使った万華鏡のようなアート作品なんですよ」


「私も綺麗なものは大好きなので面白そうですね。帰ったらぜひ調べてみます!」


 女神様はぱっと笑顔を見せる。

 妙に軽い。だが、夢らしいと言えば夢らしい。


「うーん、やっぱり人の趣味聞くのって面白いですね。見識が広がるっていうか! いいことを教えてくれたお礼に何かしてあげたいのですが、生憎持ち合わせがなくて……」


「別にいいですけど、お礼なんて」


「それじゃあ、趣味を教えてもらったお礼に私の趣味を教えてあげましょう。女神の個人情報なんて貴重なんですよ!」


「はぁ……?」


 興味はないが、語りたそうなので耳を傾けることにする。


「私は最近、魔法少女アニメにハマっているんですが、あなたも好きですか? 人間界のあれ、すごく面白くて……!」


「魔法少女ですか? そんなに詳しくはないですが……」


 女神様の庶民的な趣味に少し驚くが、神様の世界には娯楽が少ないのかもしれないと勝手に納得する。


「そうですよね。男性ですしね……。魔法少女とフラクタルですね……分かりました。華やかなもの同士、結構面白い組み合わせかもしれません!」


「それってどういう……?」


 女神様の発言は理解できないが、どうせ夢の中の話だ。

 夢が意味不明なのはいつものことである。



 やがて、目が覚める。


 今日は珍しく目覚ましより早く――

 と思った瞬間、背中が痛い。

 草の上で寝ているような、ちくちくする感触。

 さらに風が冷たい。


(風? いや待て……)


「って、外じゃん! どこだここ!」


 そこは、見慣れた自室の天井ではなかった。

 見渡す限り、森。空。草原。自然しかない。


 初基の視界の端で、いくつもの雲が正三角形の群れになって流れていく。


 誘拐か?

 夢遊病の悪化か?


 寝起きの頭で必死に考える。

 昨晩の睡眠以降、その経路をどう辿ってもここに繋がりようがない。


「いや、夢遊病にしたって家の近くに森なんか――」


 理解不能な状況につい声を荒げる。

 叫んだ瞬間、後方から寝起きの声が聞こえた。


「うるさいなぁ……せっかく人が気持ちよく寝てる時に……」


 振り向くと、草原に二人の少女が寝転んでいた。


 赤と青。

 どちらも魔法少女――のような格好。

 しかも服には赤い三角形や青い四角形の模様が無数に散りばめられている。

 フラクタルで見た図形だ。


「って、おにーさん誰? ていうかここどこ? しかも何この格好?」


 赤い少女が起き上がり、次の瞬間には叫んでいた。


「えっと……君は一体……」


「分かった! おにーさん変態でしょ! 私たちをこんな森の中にさらってきて、こんな服着せて!」


 少女はどこから取り出したのか、三角形で構成された赤色の透明樹脂っぽい四面体を大量に投げつけてくる。


「痛っ! 違う違う! 誤解だよ! 俺だって目が覚めたらこんな訳分からない場所にいて!」


 赤い服の少女は、まだ寝ている青い少女を揺すって起こそうとする。


「起きて! ウールちゃん! 起きて!」


「んんぅ……」


「起きて! ウールちゃん!」


 青い少女は上半身を起こし、周囲を見渡すと、顔まで真っ青になり叫ぶ。


「どこ、ここ……? それに……わ、わたくし……誰ですの……!?」


 赤い少女も困惑した様子で声をかける。


「誰ってウールちゃんでしょ? ウールちゃんだよね? いや……でも……なんで私この子の名前知ってるんだろう。そういえば私も私が誰だか分からない……!」


 赤い少女の頭の中では、混乱が指数関数的に膨れ上がる。


「えっと……どういう状況?」


「もしかしておにーさん、私たちに変な薬でも飲ませたりしたの? それで記憶がなくて、私たちは自分が誰かも分からない!」


「そんなわけあるか! 俺だって何がなにやら……」


 混乱する三人は少し時間が経って落ち着いてくると、知っている情報をお互いに出し合う。


「俺は目が覚めたらこんな訳分からない場所にいて、近くに君たちが寝ていたんだよ。それ以外は分からない」


「おにーさん記憶はあるの? 自分が誰か分かる?」


「それは分かるけど……」


「そこだけは、私たちと違う状況……。私たちは自分が誰なのかも思い出せない……」


 近くに手がかりを探すが、あったのは先ほど赤い少女が投げた四面体だけだった。


 三人の間を流れる風。

 その音が、周期波形のように揺らぐ。


■ボードゲーム「フラクタルガールズ」TIPS1

□フラクタルとは


△同じ図形を重ね合わせて作られる数学上の概念。

数学界の芸術と称され、万華鏡のようなアート作品として用いられることもある。


□登場人物


△岩澤初基(いわさわはつき)

高校二年生。現代日本から異世界に転移してしまう。


△シール

ギャスケットフラクタルの化身。

ギャスケットフラクタルは“三角形”を重ね合わせて作るフラクタル模様のこと。


尖った四面体での攻撃が得意。

名称はギャスケット(隙間を埋めるシール材のこと)から。


△ウール

カーペットフラクタルの化身。

カーペットフラクタルは“四角形”を重ね合わせて作るフラクタル模様のこと。


六面体での建築などが得意。

名称はカーペットの素材として基本的なウール(羊毛)から。

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