1-41 血戦
プレイヤー三人はそれぞれ装備やアイテムを確認し、互いに目線を合わせる。ヤルダバルトが頷くのに応えて、あと後の二人も一緒に頷いた。先程と同様に三人揃って光のドームの中へ入り、封神との戦闘開始となった。今度の陣形はアンクルコミーが先頭、両脇をヤルダバルトとカルマリオンが固める形である。彼らが目の前にまで来たのを確認して、封神アラクネーは心底呆れたような声を出す。
「またえらくせこせこと色々やっていたみたいだけどねぇ、その弱っちいナリのままで、今度は一体何をしに来たのさ」
その言葉に対し、ヤルダバルトは人差し指をまっすぐアラクネーの人間体の方の顔へ指し、はっきりと言い放った。
「お前を、ハメに来た」
「品性!!!!!」
「ハハハ、すごいなヤルダバルト。まさか君がついに封神サマにまで品性を説かれる日が来るとは思わなかった」
「おい、俺がいつも品性を説かれているかのような言い方はやめろカルマリオン。いつだって俺はルールを守って楽しく遊んできたんだぞ」
「二人共、おしゃべりの時間は終わりのようだ。ヤツめ、我々がここに入る前からとっくにしびれを切らしてしまっていたらしい」
その声を聞いて三人が飛び退くと、それまで彼らが居た地点に巨大な双剣が二本とも突き刺さる。アラクネーは双剣を抜いて構え直し、蜘蛛体が口を開いて咆哮した。動きを止めたアラクネー三人全員が毒針を撃ち込む。アラクネーは鬱陶しげに刺さった毒針を払い落とし、三人へまた攻撃を加えた。
「効いていなさそうだぞ、ヤルダバルト! 作戦は失敗か?」
「――わからねぇ、アンクルコミー! 時間か回数か、もしくはその両方が足りないかもしれない!」
「継続だな、了解した。ここからは私一人で行く!」
そう言ってアンクルコミーは小さな玉をアラクネーへと投げつける。
「あいにく、その手は食わないよ!」
玉がボスに効果が無いフラッシュバンだと思っているらしく、アラクネーは玉を無視してアンクルコミーへと襲いかかる。だが、アラクネーの顔面に命中した玉はその瞬間一気に弾け飛び、周辺は極めて濃い煙に包まれた。 効果範囲内のエネミーのヘイトをリセットするスキル、スモークボムである。
「なぁっ!? チィッ、どこまでも鬱陶しい小虫だよ! どこだ、どこへ行った!」
「遅いな!」
アンクルコミーの放った毒針が二本アラクネーの人間体の首へと突き刺さり、それに数秒遅れてヤルダバルトとカルマリオンが撃った毒針が一発ずつ腹部に命中する。次の瞬間、アラクネーの身体がビクリと大きく跳ねた。煙が晴れると、アラクネーは口が張り裂けんばかりの笑顔を見せて三人へと向き直る。
「何をしたかは知らないけどねぇ、それがアンタ達にとっちゃ間違いだったってことを教えてやるよ! 敵がスローに見えるってことは、アタシが勝つってことさ!」
アラクネーの動きが鋭くなる。ヤルダバルト達が彼女に撃ち込んだ薬は、自分以外の世界が全てスローモーに感じる、逆に言えば思考を加速する効果のものである。戦闘補助用の薬としてはかなり有効なものではあるが、だからといって肉体をその限界を超えて動かすようなことは不可能だ。仮に薬の効果でアラクネーの攻撃が鋭くなったとしても、彼らが知らないような新しい攻撃パターンを繰り出しては来ないだろうという予測の下、ヤルダバルトは最初にこの薬を選択した。現在の戦況としては、アンクルコミーがヘイトを取ってアラクネーの標的になっている。彼女の攻撃を避けながらアンクルコミーが叫ぶ。
「ヤルダバルト! 時間は!?」
「ひとまず七を見てくれ、アンクルコミー!」
『OSAKA』で実装されているこうした強力な薬は、その効果時間内に同じ薬を使用するとその分効果時間が延長される。だが、無限に時間を伸ばせると言うことはなく、何度も使っていると延長できる効果時間は減少していく。延長可能な効果時間の合計はその時の運に左右されるが、最長でおよそ七分間。現在の戦況は変わらずアンクルコミーがアラクネーの注意を引いていたが、薬の効果時間が延長されないよう、アンクルコミーは粗製銃を用いずスキルでのみ攻撃を続けている。ふと、アラクネーが攻撃の手を止め、ヤルダバルトの方へと顔を向けた。
「ん、アイツ今こっち向いて、あっ、やべ―― 」
「下がれヤルダバルト!」
カルマリオンがヤルダバルトを対象にダメージを肩代わりするスキルを使用し、二人の位置が入れ替わる。瞬間アラクネーが突撃し、その強烈なタックルを受け止めたカルマリオンを吹き飛ばす。レベルと装備の差があるため耐え切ることはできず、カルマリオンの残り体力はゼロとなった。すぐさまヤルダバルトは蘇生呪文を詠唱し、カルマリオンをその場へ復活させる。一方でアンクルコミーはアラクネーの蜘蛛体の背中へと飛び乗り、そのままタイムボムを人間体の背中へ仕掛けて飛び降りた。彼がアラクネーの前に躍り出ると、再びアラクネーの注意がアンクルコミーへと向かう。『クリファン』での蘇生呪文は体力がわずかにしか回復しないため、カルマリオンの体力は未だ少ないままだ。ヤルダバルトはすかさず回復ポーションを投げつけつつ、回復呪文も重ねてカルマリオンにかける。両方の効果が合わさってカルマリオンの体力は完全回復し、急いでヤルダバルトの方へと駆け寄った。
「すまない、助かったヤルダバルト」
「気にするな、先に助けられたのは俺の方だカルマリオン」
「僕を蘇生してすぐ動けるようにしてくれたのは良いが、MPの方は大丈夫か?」
「心もとない。が、なんとかするしかねぇ。今の蘇生と回復のワンセットは、MPの自然回復を加味した上ですぐ使えるのは後一回ってところだ。残念だが、この戦いは二人が蘇生無しでどれだけ戦線を維持できるかにかかっている」
「そう言ってくれるな、前衛の我々からしたら君の回復能力も十分頼りになる」
「確かに蘇生で保険をかけられるっていう点では俺も重要な役割を担っているんだろうが、それ以外に何かができるわけじゃないっていうのがな。なんせこの戦闘だと火力で体力を削り切るとかって話よりもむしろ耐久戦の側面が強い。っと、アンクルコミーの方は……」
二人がアンクルコミーの方を確認すると、彼はアラクネーの顔面へとフラッシュバンを投げつけていた。だがアラクネーはそれがスモークボムだと思ったらしく、手で払いのけようとする。フラッシュバンは彼女の手に当たった瞬間に弾け、面食らっている間に背中へ仕掛けられたタイムボムが起爆、突然の衝撃によろめいてこそいるがダメージはさほど無い様子である。アラクネーはその場で回転して周囲を攻撃しながら糸の塊を撒き散らし、アンクルコミーは迫り来る巨体を宙返りで躱しながら何かを投げつけようとする。だが、その手元には何も現れない。何かに気付いたらしく、アンクルコミーは高らかに叫ぶ。
「チィッ、カルマリオン! スイッチだ!」
「了解だ、アンクルコミー!」
先程のヤルダバルトと同様にカルマリオンとアンクルコミーの位置が入れ替わる。アラクネーはカルマリオンめがけて双剣を振り下ろし、彼は使える限りのダメージ軽減スキルを使用してそれを真正面から受け止めようとするものの、数秒しか持たずに吹き飛ばされる。しかし、その数秒が重要だった。アンクルコミーは今度こそとばかりボムトラップをアラクネーに投げつけると、それが命中したアラクネーの蜘蛛体の口元で爆発が広がる。アンクルコミーがカルマリオンと入れ替わる前にはまだクールタイムが明けていなかったボムトラップのスキルは、カルマリオンが稼いだ数秒で再使用可能となった。ダメージこそさしたるものではないが、定期的にアラクネー蜘蛛体の口内を吹き飛ばすことで捕食による攻撃を使えないようにしていた。
ヤルダバルトは吹き飛んで死亡状態になっているカルマリオンを確認し、先程と同じ手順で復活から回復までを完遂する。彼が蘇生と回復に使えるMPは残り一回、経過時間はおおよそ六分である。二人がアラクネーの方を確認すると彼女は尻の先から太い糸の束を天井へと向けて飛ばしていた。フィールド全体攻撃技の待機モーションである。本来ならば待機中に糸を攻撃することで切り落とし、アラクネーの行動を阻止するギミックだが、残念ながら今の三人の火力ではどうあがいてもアラクネーが動く前に糸を切ることは不可能であった。
「悪いカルマリオン! 頼んだ!」
「フッ、そのための騎士――否、そのためのパラディンさ、ヤルダバルト!」
アラクネーが尻で糸を勢いよく引き、空中へと躍り出る。そして天井を跳ね返るように蹴り、その勢いそのまま両手の双剣を思い切り地面へと叩きつけた。バトルエリア全体へと襲い来る衝撃波を前に、ヤルダバルトはカルマリオンの背中に隠れるしかなかった。アンクルコミーは急いで二人から離れた位置へと移動している。距離こそ離れているものの、常にヤルダバルトの視界に入る位置をキープし、視認による蘇生魔法の対象となるようにしていた。そして、衝撃波が目の前に迫る。カルマリオンは到底耐えきれないであろうダメージの攻撃にも一歩も引かず、ヤルダバルトのダメージを肩代わりするスキルを発動している。閃光が走り、周囲が白一色に染まる。
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