1-39 調達

ふと、ヤルダバルトが口に手を当てて考え込む。


「どうした、ヤルダバルト?」


「いや何か忘れてる気がするんだ、アンクルコミー。このタイミングで思い出すってことは、金策関連で何かあったってことだと思うんだ。つっても何か金策のための道具が新しく皇都で手に入る、とかでも無いし、こっちに来るまでの道中に何か忘れてきたとかでもなさそうなんだよな」


ヤルダバルトが懐に入れていたマナリンケージからコール音が鳴る。彼はひとまずそれを起動して通信をつなぐと、その相手はウォルターであった。


「調子はどうだ、ヤルダバルト?」


「よう、ウォルター。わざわざそっちから連絡をよこしてくるってことは、『大地の盟約』側で何か起きたのか?」


「いや、別に何かおきたってわけじゃないさ。何なら、まだポートエスケンに来たプレイヤーもさばき切れちゃいない。ただ、お前達と別れてからしばらく経ったからな、軽く進捗確認を兼ねて連絡してみたんだ。今頃はサイト・ディーモンアイに到着して、そろそろ皇都入りのために必要な算段がついたころなんじゃないか?」


「あー、何だ。実は俺達、もう皇都に居るんだウォルター」


「おいおい、流石に冗談だろう。……まさか、冗談じゃない、のか? 着いたらクエスト報酬を出すから連絡してくれって俺は言ったぜ、ヤルダバルト」


「いや、俺も悪いと思ってるんだよ。ただ思っていた以上にこっちでやることが多くてな。色々やってる内に連絡するのも忘れちまったんだ」


「なるほどな、まあ無事に皇都入りが果たせてるようで良かった。何せお前らのことだ、最悪密入国でもしかねないとも思ってたからな。ちゃんと正規手順を踏んでくれて安心したよ」


「俺だって必要がなけりゃんなことしないってウォルターもわかってるだろ! 冗談キツイぜ全く」


「ハハハ、悪い悪い。まあそっちが順調そうなら何よりだ。それで、皇都の様子はどうだ? なにかおかしなことでも起こってたりしないかヤルダバルト」


「ああ、それなんだが心して聞いてくれウォルター。皇都地下の封神を確認した。俺達全員が目視した、間違いない」


ヤルダバルトの言葉を聞いてウォルターはしばらく黙り込む。彼もまた皇都防衛戦線の前線で戦ったこともあり、ことの重大さを十二分に理解している。そのままヤルダバルトは先程皇都の地下で見た光景、封神と試しに戦ってみたことなど、覚えている事を出来る限り事細かに伝えた。


「なるほどな。いや、本当に助かった。残念ながら俺達じゃお前らみたいに、試しに突撃して情報を拾ってくるなんて真似はできないからな。この情報だけでも随分とやりやすくなる。お前の言う通りあの光の中から封神が出られないのなら、俺達は後手に回って、封印が解かれた封神から回っていこうと思う。俺達が先に動いている間、他所の封神を解放されて辺りを破壊されても事だからな。まあ最大規模のプレイヤー勢力がこっちにできつつある分、そういう奴らに対しては基本的に俺達で対応できると思うが、念のためお前らも注意しておいてくれヤルダバルト」


「ああ、俺達もアラクネーに関しちゃなるべく早く決着はつけたい。差し当たって相談なんだがなウォルター、今回の皇都入りを達成した分のクエスト報酬を全額ダランで貰いたいんだが、どうだ?」


「おいおい、これから封神を相手するっていうのに、金だけで大丈夫なのか? さてはまた何か悪いことでも企んでいるんだろう、ヤルダバルト」


「人聞きの悪いことを言うんじゃねーよ、ウォルター。とりあえず手っ取り早く倒せそうな手段を思いついたってだけで、これがダメだったら別の方法を探すまでだ。もしお前らの方の進捗が進んで来てたら俺たちだって正攻法切り替えることも考えるさ」


「ま、なんだかんだで仕事はキッチリこなしてくれるとわかってるんだ、頼りにしてるよ。俺もクエスト達成を確認したし、報酬は全額ダランで出しておいた。ああ、それと新しくクエストを発行しておいた。目標は封神アラクネー討滅の達成だ、今度は達成した後ちゃんと報告してくれよ? じゃあ、頼んだぞヤルダバルト」


そう言ってウォルターはマナリンケージの通信を切る。そしてヤルダバルト達は目の前に現れた二つのダイアログウィンドウを確認する。一つは新しく発行された封神アラクネー討滅のクエスト、もう一つは先程達成が確認された皇都へたどり着くクエストであった。報酬は一人当たり三万五千ダラン。三人は達成されたクエスト報酬を受け取った後、全員分の手持ち資金をカルマリオンに預けた。彼らは互いに頷き合うと踵を返し、それぞれの担当する目的地へと向かった。


 アッシュグレイ家の客室の中。テーブルに山積みにされたガラクタの前に、ヤルダバルトは居た。彼はまずそれらを仕分けし、銃のパーツとして使用できるものを残してインベントリへと仕舞い込む。それぞれのパーツを吟味しながら組み合わせ、針金やネジで強引に固定させていく内に段々と銃らしきものが組み上がっていった。ヤルダバルトが作業を始めてしばらくすると、戻るタイミングを示し合わせていたらしく、カルマリオンとアンクルコミーが二人揃って拠点へと戻った。ヤルダバルトがチラとメニューコンソールからアンクルコミーのレベルを確認すると、レベル三十八にまで上がっていた。既に新しいスキル覚ているであろうレベルである。ヤルダバルトもまた、理論上は撃てる状態に銃を仕上げていた。テーブルに置かれていた粗製銃の一丁をアンクルコミーが手にとって構える。何度か違う構え方を試した後、それをまたテーブルの上に置いた。


「ふむ、使っている素材を差し引いても悪くない出来だ。流石だなヤルダバルト」


「そりゃあ、ガラクタだとしても素材から厳選してるからな。作戦が作戦だ、流石に何回か撃った途端にブッ壊れるようじゃ困るだろ」


「だろうな。今回の作戦の都合上、何度もヤツに例の弾を撃ち込むことになる」


「弾……あっ、そうかしまった弾だ! カルマリオンに注射器の発注するの忘れてた、銃だけあってもコレじゃあ撃つシリンジ弾がねぇ!」


「何、抜かりはない。役に立つだろうと思ってコイツを持ってきた」


そう言ってアンクルコミーはテーブルに何か弾力のあるものが詰まった袋を置いた。封を開けてみると中には何か虫の身体の一部らしきものが入っている。全て同じ部位であるようで、ヤルダバルトが一つ取り出してみると、それは蜂の毒針のような形をしていた。


「オイオイオイオイ、ハイランドビーの毒針じゃねーかコレ! まさかこの袋全部がそうなのか!?」


ハイランドビーはサイト・ディーモンアイの付近に出現するエネミーで、いわば大型犬ほどの大きさがある蜂である。他のゲームに出てくる蜂系のエネミーの例に漏れず毒針で刺すタイプのエネミーだが、この蜂の特徴的な攻撃として、毒針を遠距離からまっすぐ飛ばすというものがある。その針が刺さると、その後ろに付いているろうとのような部分に入っている毒液が、刺さった時の勢いを利用して流し込まれるという仕組みである。つまりこの素材は、特段加工の必要もなく、そのままシリンジライフルの弾として使える素材であった。アンクルコミーは空いてる椅子に座り、ヤルダバルトの方を見て話し始める。


「皇都を出る前にカルマリオンから弾に使えそうな素材があると聞かされてな。針を傷つけないようにエネミーを仕留めるのは手間だったが、そう難しいことでもない。ひとまずそれだけあれば次の一戦には足りるだろう、ヤルダバルト」


「まあヤツの耐性がどれだけあるか次第ではあるがな、アンクルコミー。あのデカさなんだ、少なくとも普通の人間よりも多く薬はブチ込まないと効果は出ないだろ。で、こんど今度はその肝心の薬の方だが、何を仕入れられたんだカルマリオン?」


「ふふ、コレに関しては見てもらった方が早いだろうヤルダバルト。あえて言うのなら、大量だぞ」


そう言ってカルマリオンはテーブルへ次々とインベントリからアイテムを取り出していく。


「えーっと、どれどれ? 乾燥フォレストヘンプの塊、貼り付けてある輸入品のラベルにコカと読み取れる麻酔原料用の葉、度数が百度に近い蒸留酒、まだ熟していないポピーの実、それにアサガオシードか。どれも成分を抽出するには十二分の量がある。ざっと見た感じ質も申し分ない、パーフェクトだよカルマ。これだけありゃカクテルにしてパーティすら開けるぞ。これからがちょいと大変だが、いやー楽しくなってきた」


「まあおかげでさっき預かった金は金はほぼ全て使ってしまった。ああ、これは一度しまっておくぞ、それぞれ単体ならともかくこれだけの量が一ヶ所に揃っているのを見られるのはいささかに外聞が悪い」


そう言いながらカルマリオンは出したアイテムをまたインベントリの中へ仕舞い込んだ。


「仕入れるときに正しい使い方をするよう随分と念押しされたよ。果たして実際に薬効がどれほどのものかは不明ではあるが、この感じだとおおよそ『OSAKA』で作れる物と近しいブツができそうだ」


「さーて、銃も出来た、弾の用意もしてある。後は薬の精製だが、どこでやるかな……流石にお貴族様から貸し出されてるここでやるってのはあまりにも顔に泥を塗るような行為になるからな」


「ああ、それならあそこがあるじゃないかヤルダバルト。屋内ではあるが、あそこなら広さは申し分ないからほぼ屋外のようなものとして作業ができるだろう」


「あそこ? あそこってどこだよカルマリオン」


「フッ、僕ら全員が知っているところさ」

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