1-38 光明

ヤルダバルトが思い浮かべたものは『Atomic Fall・OSAKA』、通称『OSAKA』に登場する一時強化アイテムであった。この強化アイテムにはいくつかの種類が存在しており、どれも数分間強力な効果を発揮する代償として、効果が切れた途端に強烈なマイナス効果が付与されてしまうものである。更に、こうしたアイテムを複数同時に使用するとその相乗効果で効果時間中は極めて強力なバフを得られる一方で、効果時間が終わると口にするのもはばかられる程のデバフが一度に付与される。身体が重くなるくらいで済めば軽い方であり、酷い場合には幻覚や幻聴、更には視界に大きな影響が出ることや敵と味方の区別が全くつかなくなる場合も存在する。しかもデバフの方の効果時間が非常に長い。ものによれば死亡判定を経て復活しない限り永続するようなものすら存在する。


死亡して復活する以外にこのデバフを解除する方法も存在するが、非常に高額なデトックス治療を行うか、もしくは受けたデバフと同じ一時強化アイテムを使用するくらいしか存在しない。しかし当然というべきか『クリファン』でデトックス治療を受ける方法は無く、仮に出来たとしても戦闘中に終えられるほど手軽なものでもない。一方でデバフが付与されたものと同じ強化アイテムを使った場合であってもデバフの解除はあくまで一時的なものであい、効果時間が切れたタイミングでより重篤なデバフを受けることになる。そして非常に大きなデメリットとして、こうした強化アイテムによるデバフは同一種類のものも異なる種類のものも累積する点にある。もしもこのデバフが封神にも発揮されるのならば、それが勝機になるだろうとヤルダバルトは考えた。同じ考えに至ったのか、カルマリオンが確認をする。


「あー、ひょっとしてアレか? 『OSAKA』で手に入る薬のことを言っているのか、ヤルダバルト?」


「ひょっとしなくてもアレだぞ、カルマリオン。『OSAKA』だと酒もそのカテゴリに入るからな、アラクネーにしこたまブチ込んでやれば急性アルコール中毒にできるかもしれねぇだろ?」


「言いたいことはわかるが、流石にそれで倒せるほどヤワな相手でもなかろう。仮に効いたとして、せめてもう二か三種類くらい薬のバリエーションが無ければ、今の我々が太刀打ちできる程度の弱体化など望めまい。しかもあの薬は『OSAKA』以外で手に入れるとなると非常に手間だぞ。何か入手のアテがあるのか?」


「まあな。サイト・ディーモンアイでシステムを変えた時に見つけたんだが、別のゲームのアイテムを制作する時に、どうも代用できるアイテムもレシピに表示されてるらしい。『OSAKA』のデータで見た時もいくつかこのゲームで見覚えのある素材が材料として書いてあったから、全部とは言わないまでも何種類かの薬はまあなんとか作れると思うぜ。何なら制作用の器材も『クリファン』のもので代用できるっぽいし、下手すると『クリファン』のデータのまま『OSAKA』のアイテムも作れるかもしれねえ」


カルマリオンはヤルダバルトの返答を聞いてそれを確かめるべく、メニューコンソールを操作して『OSAKA』のデータを呼び出した。アイテムレシピの項目を開き、一覧をスクロールしながら今作れそうな薬の吟味をしている。それを横目に見ていたアンクルコミーが手を組んでヤルダバルトに向き直った。


「薬に関してはそれでいいだろう。だが、今度はあの封神アラクネーが大人しく薬を飲んでくれるかどうかという問題があるぞ。確かにあの蜘蛛の身体に付いている口の方に薬を投げ込むのはたやすい。だがそれが強化アイテムだとしても、ヤツが私達の狙いに気づけば、飲み薬に限らずともそれを摂取しないよう必死に抵抗するのは目に見えている」


「対策ならあるぜ、アンクルコミー。お前が使っているクロスボウでもほとんどダメージはなかったとはいえヤツの体は貫けたんだ。ならあの身体には、注射針だって通るはずだ。シリンジライフルで強制的にお注射の時間にしてやればいい」


シリンジライフル。これは『OSAKA』で使用できる武器の一つで、これを使用すれば戦闘中に離れた相手も弾に込めた薬剤を注射できる。普通の鉛玉を撃ち込むのに比べれば、弾道や取り回しにクセこそあるものの、戦闘中に味方へ回復のための薬剤を撃つこともできるため様々な使い方がある。


と、一見有用な装備であるかのように思えるが、『OSAKA』プレイヤーからの実際の評価はネタ武器という扱いであった。仮にシリンジライフルで敵に毒を撃ち込むことができるのであれば、普通の銃で敵を殺す方が手っ取り早い。一方で味方の回復手段として使うかといえば、先に敵を殲滅してからゆっくり味方のダメージを回復させる方が遥かに安全である。故に普通はよほどのスキモノでもない限り目にしない武器であった。


「なるほど、それなら私がシリンジライフルを持って、ヤツの上半身を狙って撃ち込めばいいだけか。だが、問題はあの巨体だ。薬が回るまでかなりの時間がかかるかもしれん。中々の長期戦になりそうだな。その間ヤルダバルトとカルマリオンは生き残っていられるのか?」


「いや、シリンジライフルを持つのは俺達三人共だ。タンクはアンクルコミーが回避盾でヤツの気を引いて、上手いこと動きを止められさえしたら、俺とカルマリオンが薬を撃ち込む。お前の方は、回避しながらでも当てるのは余裕だろ?」


「待て待て待て! あのシリンジライフルは使い所が無いクセに構造がやたらと面倒で作るのにも手間がかかる武器だったはずだ! それを三丁も作るなどと、材料と時間のアテはあるのか!?」


「そりゃ正規品を作ってる材料も時間もないさ。なら、粗悪品をつかえばいい。別にこれから何年も使うような武器じゃないんだ。密造のガラクタでも十分だろ、アンクルコミー」


「そうかなるほど、ジャンクウェポンシステムを使うのか!」


『OSAKA』は他のVRMMOゲームに比べても特筆して自由度が高いゲームである。辺りに転がっている石ころであっても、拾い上げて振り回せば即席の武器としてシステムの恩恵が受けられるほどであった。とはいえ、当然ながら正規に作られた武器と比べ、その性能には歴然の差がある。だが重要になのは、それほどまでにフレキシブルでかつ自由度が高いゲームシステムを、『OSAKA』が構築しているという点にある。そしてその最たるものがジャンクウェポンシステムである。これはありあわせの材料を組み合わせることで、主に密造銃といった自作の武器を作ることが可能なシステムだ。名前にジャンクと付くだけあり、性能としてはそう大したものが作れるわけではない。普通に正規品を買ったほうがよっぽど良い性能の武器が手っ取り早く手に入る。だが一方でジャンクシステムの強みは、その気になればどんな武器でも作ることができる、という点にある。たとえシリンジライフルのような特殊な武器であっても、対応するパーツさえ用意して組み込むことができれば、粗悪品ながら同じ機能を持たせることが可能だ。


「さて、やることも、それに必要なものも決まった。なら、次は行動すると行こうか!」


「ふむ、ならば私はフォルストンに手を貸して軽くレベル上げをするとしよう、ヤルダバルト。私がカルマと交代してタンク役をすることになるのだろう? ならこの三人の中で一番の火力を出せるようになれば、否が応でもヤツの気を引くことなる」


「アンクルコミーがそちらに行くのなら、僕は皇国防衛騎士団の方に顔を出してくるよ。ヤルダバルトはまず使えそうな素材をリストアップしてくれ。その中からなんとか交渉で手に入りそうなものを拾ってくるとしよう」


「それじゃあ俺はジャンクウェポンに使うパーツ集めか、薬の素材を調達するための金策辺りかな」

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