三バカどもはカオスなVRゲームから脱出したいようです。

御陳珍ランド園長

1-1 日常 その1

 二機の人型ロボットが飛び立ち、円筒形のスペースコロニーの港から宇宙空間へと飛び出した。一機は全身が黒いツインカメラアイの機体、もう一機は紅いシングルカメラアイの機体。黒い機体が紅い機体の肩に手を置き、接触回線で通信をつなぐ。


「クリムゾンメテオ、調子はどうだ」


「良好だ、ヤルダバルト。わざわざ付き合ってもらって悪いな」


「いや、こんぐらい構わねぇよ。俺もコイツの試運転ができるしな。それより、本当にいいのか?」


「ああ、知っての通り今回の対戦はこの機体の慣らしのために組んだようなものだ。お前は作戦通り、先に落ちてしまえばいい。後は私がやる」


「へいへい、まあ向こうの二人にとっちゃ俺は所詮プロゲーマー様の安いおまけって程度だろうしな。落ちた後は任せるぜ」


「そう拗ねてくれるなよ。この機体も含めて毎度毎度新しい物を用意してもらっている、感謝すべきは私の方さ。専属としてやってくれているのもありがたい」


「よせよ。俺はただ単に作りたいものを作ってるだけで、それをお前が勝手に使いこなしてるだけだっての」


二人が雑談に興じていると、コックピットにアラート音が鳴り響く。モニターには大きく警告が表示され、敵機が二機陣形を組んでこちらへ向かって来ていた。片方は蒼白の装甲にツインカメラアイを持つ機体、もう片方は全身に緑色の森林迷彩を施されたツインカメラアイの機体だった。黒と紅の二機もすぐさま戦闘態勢に入る。


先手を取ったのは敵の方だった。遠距離から牽制射撃らしきビームが飛んでくる。紅い機体はそのまま進路を一切変えず、一方で黒い機体は大げさに回避して相方から離れていく。そして直進した紅い機体は敵機二機と接触し、戦闘が開始された。蒼白の機体と緑の機体が互いの位置を調整しながらビームやミサイルの十字砲火を浴びせるが、紅い機体はそれを全てかわし、宇宙の果てへと消えていく。


「見たところ蒼い方は近接戦闘向けの高機動型強襲機、んで緑の方が火器を山盛り積んで遠距離での高火力と面制圧能力を重視したタイプか。狙うならちょいと鈍足気味な緑の方だろうな、さぁていつ仕掛けるか……」


コックピットのモニターで分析した情報を相方に送りながら、ヤルダバルトは誰に言うでもなく呟く。


ヤルダバルトとは、クリムゾンメテオとは一体何者なのか。この戦いは何のためのものなのか。それを説明するには時を数時間さかのぼる必要がある。


――――


「ぃいよっしゃぁ! 最後のテストも終わったぁ! よーし帰ろう、すぐ帰ろう!」


 今、家に向かって自転車で全力疾走している彼は遣川義雄、至って普通の男子大学生である。人と違うところを挙げるとすれば黎明期からフルダイブ型VRオンラインゲームに入れ込んでいる、ということくらいだろう。


数年前、全ての既存ハードを凌駕し、世界に衝撃をもたらした革新的フルダイブ型VRシステムが開発された。そのシステム中の地面を素手で掘れば爪に土が挟まり、水を両手ですくえば水面にキラキラと光が反射する。更には指の間から水がこぼれ肘へと伝って水滴として落ちてゆく。VRシステムの枠を遥かに超えたリアリティ、そしてその性能に不釣り合いなほどコンパクトに収められた本体のサイズと、やや高級志向のゲーム機程度という既存のVRシステムより遥かに安い価格。一部ではもはや市場破壊とまで言わしめた破格な売り出し方により、このシステムを使用したゲームはたった数年の期間でVRゲーム市場を事実上支配し、今やパソコンの普及率を超えるほどの大人気プラットフォームとなっていた。


今に至るまでの数年の内に様々なゲームが開発、およびサービス開始されたが、不思議なことにこのハードで遊べるゲームはVRMMOのオンラインゲームしか存在していない。誰から言いだしたわけでもなく、MMOオンラインゲームはVR、オフラインゲームは通常のモニターを使ったゲーム機で遊ぶ、という形の棲み分けが暗黙の内になされていた。


遣川義雄はこのシステムが最初に発売された途端に飛びついた黎明期からのプレイヤーで、新しくVRMMOのサービスが開始されるという話題が挙がる度、すぐに遊んでいたほどのヘビーユーザーである。


彼は家へ着くと昼食はカップ麺で済ませた。後片付けもそこそこにベッドに寝転がると、フルフェイスヘルメットのような形をした機材を頭に被る。こめかみ部分にあるスイッチを押すとかすかな機械音と共にスイッチ中央のライトが光り、VRシステムが起動した。


「苦しかった現実よ、さらば! 六時間くらい後にまた会おう!」


 何もない所から光の柱が現れ、中から一人の男が現れる。その頭上にはヤルダバルトというプレイヤーネームが表示されていた。遣川義雄が遊ぶ全てのゲームで共通して使用する固定ハンドルネーム、いわゆるコテハンというものである。彼は光の柱が消え去ると軽く辺りを見回す。そこはさながら煉瓦造りの古風な喫茶店といった様子の部屋であった。大きな板ガラスの窓際にはテーブル席が2席、それぞれに2人掛けのソファが2つ備え付けられている。カウンター席は4席あり、そこに置かれた蓄音機からはゆったりとしたピアノジャズが流れる。そこからすぐ横の席に男が1人、空中に浮かび上がる半透明のモニターを前に作業をしている。その人物の頭上に表示された名前はカルマリオン。ヤルダバルトが所属するクランのメンバーである。この場所はヤルダバルト達のクランが所有するクランハウス。彼らが自分達で作った、彼らのためだけの憩いの場である。カルマリオンはヤルダバルトがログインしたことに気がつくと、作業の手を止めて軽く伸びをしながら彼の方へと向き直った。


「ヤルダバルトじゃないか。もう来たのか、ずいぶん早いな。まだ試験期間じゃ無かったのか?」


「今日で試験は最後だったんだよ、カルマリオン。いやー、これからしばらくの間は何のしがらみもなくゲームできる」


「君がそう言うのだから出来の方もそれなりの自信があるのだろうな?」


「あぁ、まぁ、その……何だ。ギリギリ単位は落としちゃいないはずだ、きっと、おそらく、多分、メイビー……?」


「おいおい、ゲームのやりすぎで留年などということにはならないでくれよ?」


「うっせうっせ。つーかよ、カルマリオンの方こそこんなとこに居て良いのかよ? まだ仕事中だろ」


「ああ、今日の打ち合わせは『こっち』でやったから良いんだ。他にやる事といえばスケジュールの調整くらいだし、それならどこでやったとしても大差はない」

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