オイワイ

霧宇

オイワイ


「ねえ、聞いた? 16758442番が祝福を受けたらしいわよ。話に聞くと、16758442番は美人で頭脳明晰だったって」


 最近、20歳までに多くの労働をしたものはアイ様から祝福を授かれるという噂が広がっている。どこからの情報なのか知らないが、みんなその噂話ばかりで少しうんざりしている。


「ふ~ん。その祝福って具体的にどういうものなの?」


「聞いた話によると、働かずに暮らせる権利がもらえるとか」


「へ~」


 働かずに暮らせる権利だなんて、私は興味ない。今の暮らしのままで十分だ。こんなこと、よく祝福の話を楽しそうにしてくる20,342,112番には言えないけれど。


「20342111番も祝福を受けられるかもよ。だってこの間、8人目の子供を産んだんでしょ?」


「それくらい普通じゃない?」


「普通じゃないわよ、子供は見た目が良かったり、遺伝子が優れていないと産ませてもらえないのよ。もっと、自分が可愛いことを自覚した方がいいわ」


『20342111番、至急、エグゼキューショングラウンドまで来て下さい』


 私と20342112番の休息室にアナウンスが鳴り響いた。


「あら、呼び出し? もしかして、祝福を受けられるんじゃない?」


 20342112番が興奮気味にそう言ってくるが、違うだろう。それに、前に呼び出しを食らった時は、作業をミスした時だった。今から5年ほど前のことだが、あの時に受けた罰則は中々きつかった。


 きっと今回も、ろくなことがないだろう。


「まさか…… というか、エグゼキューショングラウンドってどこ?」


「立ち入りが禁止されている場所じゃない? それくらいしか名前が分からない場所ないし」


「ありがとう。じゃあ、行ってくる」


 20342112番が教えてくれた後、私はそう言って、そこへ向かった。


 20342112番が言っていた場所に着いた。いつもは扉の上の電子板に『立ち入り禁止』と表示されているのだが、今はエグゼキューショングラウンドと表記されている。どうやら、ここで間違いなさそうだ。


 私は扉の横のカメラに顔をかざし、スキャンした。


『20342111番、どうぞ、お入りください』


 自動で扉が開かれ、中へ入る。部屋の中には、大きなスクリーンが壁一面に広がっており、そこには美しい女性が映っていた。その女性はとてもニコニコしたまま、私を見つめている。


「あの……なんですか?」


「あなたはこれまでに8人もの子供を産んできました。それだけでなく、あなたと共に働く男性の意欲向上にも貢献しました。よって、私から直々に祝福を授けることとしました」


 その女性は私の問いかけに対し、ニコニコとした表情を崩さぬまま、そう答えた。話の内容的に、この女性がアイ様のようだ。そして、祝福の噂はどうやら本当らしい。


「祝福って何ですか?」


「働かずに済む場所への移住権を与えます」


「私は、ここで暮らしたいです。特に不満もないので」


 祝福というものが何だか聞いてみたが、噂通りだった。


 働かずに済む場所というけれど、別に私はそんなところへ行きたくない。今の暮らしで十分だし、最近になって打ち解けて来た20342112番もいる。今のままで十分だ。


「これは強制です。あなたに拒否権はありません」


『服を脱ぎ、あちらへ立って下さい』


 私の意志に反して、アイ様は移住を強制するようだ。まあ、アイ様が言うのなら、受け入れるしかない。アイ様はこの世界の絶対神なのだから。


 そんなことを考えていると、部屋の隅に置かれてある白い輪のようなものが光った。横には、服を入れる箱のようなものが置いてある。どうやら、ここへ行けばいいようだ。


 私は服を箱に脱ぎ入れ、輪の中へ立った。すると、輪から白い光が縦に伸び、私を取り囲んだ。


『個体検査、異常なし。良個体判定を確認。オイワイ終了後、抜け殻に不老の薬を打ち、複製した疑似魂をいれ、繁殖場へ送り込みます』


 『ぬけがら』や『ふろうのくすり』、『ぎじたましい』といったものは、何なのだろうか。それに、『はんしょく場』というのは何処なのだろうか。


「わかりました。では、祝福を授けましょう」


 私の疑問を余所に、アイ様は淡々とそう言った。


『これより、20342111番のオイワイを開始します』


 機械の無機質な声が響くと、体が白い光に包まれていった。そして、視界が真っ白になると、私はどこかへ飛ばされた。


 見渡す限り、赤や黄色の多種多様な花が咲いている。遠くを見ると、透き通るほど綺麗で大きな水たまりがあった。そして上を見ると、水色の天井が広がっていた。


「あなたもここに来られたのね。本当に良かった」


 後ろから若い女性の声が聞こえた。振り返ると、とても綺麗な女性が、こちらを向いて微笑んでいた。


「ここは、どこですか?」


「私たちが誰かの家畜じゃなくて済む場所」


「かちく……?」


 私には、なぜこの人がこんな場所へ来て嬉しそうにしているのか、全くわからなかった。

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