それだけで

西しまこ

一番大切なこと

 テレビの中で活躍する選手を見て

 ああ、どうしたらあんなふうに育つんだろうねと笑う

 新聞の中に輝かしい生徒を見つけ

 ああ、どうしたらこんなふうに育つんだろうねと笑う


 我が家にはポンコツさんしかいない


 テストで一桁取ってくるし(マジで!)

 検定試験は何度も落ちるし(せめて落ち込め)

 単位は落とすし(カンベンして)

「赤点なかったから偉いでしょ」と自慢げに言うし(え? そう?)


 どうも「頑張る」というワードを忘れて生まれてきたらしい


 まあだけどさ

 上を見たらきりがないんだよ

 とりあえず、君たちは生きている

 生きているだけで素晴らしいのだ

 生まれてきてくれた、このポンコツなわたしのところに


 わたしはずっと頑張り続けて努力し続けて

 でも無理していることさえ気づかずに

 もっともっともっと

 頑張りが足りない努力が足りない

 もっともっともっと


 なんて生きてきたから、生きる ということがとてもしんどかったんだよ


 テストで一桁なんて取ったら、家に帰ることは出来なかった

 検定試験落ちたら、怖くて言えなかった

 単位落としたら大学は辞めさせられた

 赤点なんて取った日には、もしかして高校すら辞めさせられたかもしれない

 たぶんね、想像だけど、きっと当たってる


 テストで百点取っても

 検定試験に合格しても

 一番であっても

 常に八割以上の点数を取っていても


 なぜだろう? 褒められたことは一度もなかった


 絵で賞状をもらったことがある

 わたしはほんとうは絵を描いて生きていきたかったんだ

 でも何だろうね

 褒められたり将来はそういう道がいいと言われたり

 ということはまるでなかったんだ


「親になったら、自分の親の気持ちが分かる」


 そう言ってくれた友だちがいる

 そうして感謝するようになるって

 わたしはむしろ、傷ついてしまった

 親の気持ちが分かってしまって


 ありのままでいいんだよ


 そういうふうに言ってくれる大人が誰もいない中で

 わたしはずっと、優等生でなくてはならなかった


 だけど、わたしは自分で自分を褒めることにしたんだ

 二十歳のとき

 くっきりと覚えている

 あの瞬間から、わたしはわたしを褒めて生き延びてきた


 ときどき、暗く落ち込むことがあっても仕方がないよね?

 だって、心に刻まれた暗い部分は決してなくなりはしない

 小さいときに損なわれてしまったものは、もう決して永久に復元しないんだよ


 でもわたしは生きている

 この生を祝おうと思う

 偉い! わたし、よくぞ、わりと元気に明るく生きてきた


 生きている

 ちゃんと今日も生き延びている

 もう、それだけでいいんじゃない?


 我が家のポンコツさんたちも

 生きているんだよ

 だからいいんだ、それだけで


 なんだか、心配だけどさ

 二人ともすごく優しいし、お節を一緒に作って一緒に食べたし、

 大掃除も一緒にしたし初日の出も一緒に見たし


 笑ってるし


 全然優秀じゃないんだけどさ 

 でも、わたしのところに来てくれてありがとう




 今日もみんな、生きている

 それが一番大切なこと






 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

それだけで 西しまこ @nishi-shima

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画